第5話:神社
授業が終わり、すぐさま神社へと向かう。アパートの近所に小さな神社があったはずだ。お守りでも買えば少しは大人しくなるのか、それとも変わりないのだろうか。まさか大暴れすることはないであろう………そう信じたい。
神社に入ると殺風景な光景が広がっていた。年明けの初詣か、悪魔による世界支配でもないかぎり神社に人が訪れることは稀なのだろう。俺も普段なら来ることはない。
神社に住みつく鳩が俺の前を行き来する。俺には興味ないらしく、食べ物を強請ることもしない。少し離れた場所では鳩と同じように愛想のなさそうな巫女が掃除をしている。
俺は拝殿の前に近づくと、賽銭箱にありったけの小銭を入れて手を合わせた。この小銭が神様に届くのか、この神社の神主に届くのか。どのように消費されるのかは俺の知るところではない。俺が心から気にしていることは小銭の行き場よりも幽霊騒動である。
礼拝を済ませると、授与所に向かい、お守りを見計らう。交通守ではない、合格守でもない、ましてや安産守などありえない。一番近いところは厄除守だろうか。俺が考えを巡らせていると先ほど掃除をしていた愛想のなさそうな巫女が近づいてきた。
「そんな物を買っても意味ないわよ」
巫女が空気を切るようにザッパリと言う。いくらなんでも一言多い、大きなお世話である。巫女らしくない巫女に向いて俺は話す。
「そんなことないぞ。俺の精神安定剤にはなる」
「ふ〜ん、そう」
冷たい巫女の一言に俺の心は少々傷つく。しかし、巫女はそんなことなど気にもせずに授与所に目を向ける。
「それでどれにするの?」
「一番近いところで厄除守だと思う」
「不運なのね」
本当にこいつは巫女なのか? 問い詰めてやりたい気分になる。
「八百五十円よ」
巫女が言って俺に手を差し出す。俺は何ともいいようのない気分で千円札を巫女にわたした。巫女は授与所に入り、釣銭とお守りを持って俺の所に帰ってくる。俺はお守りを見て巫女に言う。
「袋に入れてくれないのか?」
「どうせすぐに使うんでしょ」
「どうしてそう言えるんだ?」
「不運だから」
言ってくれる。こいつは巫女失格だ。何をどう思ってこの巫女が神社にいるのか、俺には理解できない。こいつが巫女であるのなら悪魔も巫女になることができるであろう。
こういう奴はきっと幽霊など信じていないのだろうが、せっかくだから聞いてみることにする。どうせこの神社にはもう用はないのだ、捨て台詞でも残して逃亡するとしよう。
「おい、お前は幽霊って信じてるか?」
俺の質問に巫女が怪訝な顔をする。
「さぁ? どうかしら」
「俺の部屋で、勝手に物が動いたり、足音や話し声がすると言えば、お前は信じるか?」
「私はあなたのことを何も知らないわ。だから、そんな話には興味ないの」
「不運だってことは知ってるじゃないか」
巫女は俺の皮肉に無言してそっぽを向いた。よし、俺の勝ちだな、と心の中で賛美する。俺は家に帰るために巫女に背を向けて決め台詞を吐く。
「変なこと聞いて悪かったな。じゃあ俺は帰るとするよ」
俺が神社を出ようとした時に、巫女が後ろから声を掛けてきた。
「少し待って」
巫女はそう言うと、授与所に向かった。一体どうしたのか。俺の言葉に怒り神主でも呼んでくるのだろうか。それならそれで構わない。俺は幽霊騒動を神主に告げるだけだ。
肌寒い風が吹く中で俺は巫女を待っていた。空は赤く夕暮れの風景が辺りを包み込み、一日が終わりつつある物悲しさが心身に溢れ出す。少々ナイーブな気分になるのは今日という時間が惜しいためであろうか。
しばらくすると、巫女が木箱を持って授与所から出てきた。木箱にはお札が一面にはられており、呪人形でも入っていそうだ。幽霊がいるのに更なる住人を増やしたくはない、これ以上は御免蒙る。不審な目付きで木箱を見る俺に巫女が言う。
「この中身は強力な神札よ。あまりにも力が強い故に封印されてしまったの」
「お札がお札に封印されたのか?」
「そう、それほどまでに強力なのよ」
「これを俺にどうしろと?」
「部屋の柱にでも貼ってみなさい、そうすれば悪霊は消え去るわ。あんなお守りを持つよりよっぽど効果があるわよ」
案外、この巫女はいい奴なのかもしれない。俺は先ほどまでの言動を心の中で謝罪する。巫女は俺に木箱をわたすと右手を差し出した。俺が首を傾げるのを余所に巫女が言う。
「一万円」
前言撤回だ、やっぱりこの巫女は悪である。しかし、俺は財布を取り出し、金を払う。厳重に封印されている木箱を見ると素晴らしく効果がありそうな気がするので仕方がない。
せっかく安アパートを見つけたのにどんどん金が減っていくのは幽霊のせいでない。俺の財布の紐が緩いだけだ。次の仕送りまでは耐えられるであろう。残りの金を確認する俺がいた。
俺は木箱を抱えて鳥居を潜る。俺が立ち去ろうとしている中で最後に巫女が俺に言う。
「それはあくまで貸すだけだから、使い終わったら持ってきて」
金を払ったのに貸すだけだとは調子のいい話だ。レンタルお札なんて聞いたことがないぞと言ってやりたい。しかし、俺は手を上げて巫女に返事する。
「了解だ」
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