第341話:シバルの妹〈その4〉
アパートへと到着する。乱暴に扉を開けて、中に入る。和室へ向かうと、楽しげなリビナを発見だ。リビナが俺達に向いて口を開く。
「あ、お帰り。早かったね」
リビナの言葉を無視して、お札の前に行く俺達。変だ、お札がない。周りを見回すが、どこにもない。柱にあるのは何かが焦げた跡。そういえば、この部屋……焦げくさいな。シバルがリビナに怒鳴り散らす。
「リビナ! ここにあった、お札を知りませんか!?」
「あ、それなら燃やしちゃったよ。何だか危なそうだったから。そうだ! お兄ちゃん、そろそろ帰る気になった? もうこんな所に用はないでしょ? さっさと帰ろうよ」
「今……何て言いましたか? お札をどうしたと……?」
「燃やしたって言ってるでしょ。そんなことより、早く帰ろうよ。神様ホテルが駄目なら。アパートかマンションでも借りる? それとも、どこかからお金を取ってきて、家を買う?」
燃やした? 燃やした? 何、それ? 意味がわからない。身体から力が抜ける。地面に膝をつく俺。どうしよう? どうすればいいんだ? 頭の中が混乱する。必死になりながら考える。しかし、頭が動かない。真っ白だ。何もわからない。
遠くから聞こえるのは、シバルがリビナに怒る声。それも現実かどうかわからない。虚ろな世界。ウェスタとヒュプはどこにいるのか? これは夢か? 夢だよな?
刻々と時間が過ぎる。何もわからない俺は動けない。何をしたらいいのかわからないのだ。誰かに助言をされるまで、動くことはできそうにない。
俺が身動き一つしないで、パニックに陥っていると。不意に俺の携帯電話が震えだす。ぎこちない手でボタンを押す。電話に出ると、ニートの声だ。
「すまん、柊。仕事が忙しくて、出遅れた。読者がこんなことを言うのもなんだが。一度、根本に立ち直ってみてはどうだろうか?」
「難しいことを言わないでくれ。今の俺にはわからない」
「要するにだ。お札を貰った場所へ行ってみるんだ。あの巫女に会えば何かわかるかもしれないぞ」
「成る程、一理ある」
電話を切って、立ち上がる。シバル達を無視して、外に向かう。あの巫女に会えば、何か名案があるかもしれない。別のお札を貰えるか、新しくお札を作って貰えるか。すがるような気持ちを抱え、例の神社へと走り出す。
走って、走って、走って。息を切らしながら、神社に到着だ。中に入る。周りを見回す。相変わらず、人気のない殺風景。いるのは鳩の群れくらいだ。巫女、あの巫女はどこだ? 見当たらない。
神社の中に足を踏み入れて、授与所に向かう。中を覗き込む。いない。
「何か用?」
不意に聞こえてきたのは巫女の声。振りかえると、後ろにいた。いつの間に……。俺が巫女に話しかける。
「覚えているか? 一年ほど前に、一万円で木箱に入ったお札を貰った者だ」
「あぁ……。それで? 神札を返しに来てくれたの?」
「違う。あのお札と同じ物は他にないのか?」
「ないわ」
キッパリと答える巫女。俺がすがるように問いかける。
「もう一度、作ることはできないのか?」
「できるわ」
「作ってくれ!」
「嫌よ」
俺の期待もむなしく、巫女が即答する。続いて、巫女が話しだす。
「あなたには無理ね。才能がないから」
「それくらいわかっている。お前が作ってくれないか? 頼む! この通りだ!」
頭を下げる俺。興味なさそうに、巫女が口を開く。
「嫌よ」
「どうしてだよ!?」
切羽詰まった勢いで、思わず怒鳴ってしまう。頼みごとをする態度ではないだろう。しかし、今はとにもかくにもお札が欲しい。必死な俺の形相を見て巫女が話しだす。
「作りたくないからよ」
そう言って、立ち去ろうとする巫女。巫女の前に回って、俺が念を押す。
「どうしても駄目なのか?」
「駄目ね」
「そこを何とか……」
「駄目よ」
どうして、こんなにも拒否るのか……。神に仕える身なら、俺を助けてくれたっていいじゃないか。不愉快そうな俺の顔を見て、巫女が淡々と話しだす。
「作ることはできるわ。でも、ああいった強力な神札を作るには、それなりの供物が必要なの。私はあなたと親しくもないし、供物を提供する気もないわ」
「金は払うし、供物だって用意する。だから、お願いだ!」
「無理ね。あなたに用意できる物ではないから」
立ち去ろうとする巫女。俺が巫女の腕を掴んで口を開く。
「何を持ってきたら、作ってくれるんだ!?」
「…………」
すぐに巫女が俺の手を振り払う。そして、一言。
「そういうことを言っている間は作れないわ。あなたには無理よ。諦めることね。あなたに貸した神札……返してもらう約束だったけど、もういらないわ。どちらにしろ、その様子じゃあ壊れてしまったみたいだし」
背を向けて、巫女が遠くへ歩いて行く。駄目なのか……。目的を失い、立ち止る俺。どこへ行けばいいのだろう? 誰かに手を引いて欲しい。
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