第333話:マラソン大会〈大杉編2〉
泣きじゃくる青木君。私が近づき、優しく声を掛ける。
「あんな爺さんの言うことなんて、どうせ出鱈目よ。ついて行くことなんてないわ。シバルさんに頼みましょう。未来さんだっているじゃない。きっと頼めばどうにかしてくれるわよ。だから……ね。どこかに行くなんて言わないで」
私が言っても青木君の涙は止まらない。むせかえり、子どものように泣き続ける。私がどうにか口を開く。
「ねぇ、青木君。さっきのは全部冗談よね? あんな爺さんについて行くなんて嘘よね? 私、怒ってないよ。首絞められたけど、ほら……まだ生きているし。大丈夫よ、大丈夫。今からでもやり直せるから……。だから……。ほら、シバルさんの所に行って、今後のことを考えましょうよ」
止まらない涙。気が付くと、私まで泣いている。釣られたのかな……? ううん、そうじゃない。私……自分が辛いんだ。震える口を動かしながら、青木君を見る。
「バレンタインの時はゴメンね……。私、自分の事しか考えてなくて……。青木君の気持ちなんて考えてなくて……。本当は、私に近づくことが怖かったのよね? 今みたいになることを恐れていたのよね? ……そうでしょ?」
青木君がむせびながら、頷く。その姿を見ると、私の涙も溢れかえる。やり場のない不安と恐怖。青木君はたった一人でそんな気持ちに耐えていたみたい……。どうして気づいてあげられなかったんだろう? 様子がおかしいことは、わかっていたはずなのに……。
私にも責任あるかな? 責任あるよね。ここ最近、ずっと青木君に冷たく当たっていた。一人で寂しい青木君に、冷たい仕打ちを掛けていた。まるで私、魔女みたい。酷い奴だ。
私が地面に目を落としていたら、不意に青木君が私に手を伸ばしてきた。また首を絞められるのかな? それなら、それでいい。首を絞められて当然だ。
だけど、青木君は私の首を絞めることなく。代わりに、私を強く抱きしめる。そのまま、私の唇に自分の唇を重ね出す。チョコレート青木君にされたような熱いキス。ずっと人から遠ざかり。抑え込み続けていた、寂しく悲しい気持ちがキスに出ている。
私に出来ることは何もない。だけど、せめて青木君の気持ちくらいは受けとめてあげよう。目を瞑り、身体の全てを彼に託す。
夢のようなキス。ずっと永遠に続くのではないかと思うくらいに……。このままずっとこうしていたい。このまま死ぬまでこうしていたい。
青木君の身体に手を回して、しっかりと抱きしめる。消えてしまいそうな彼の心を抱え込む。どこにも行かないで……。私の心は不安で一杯だ。
長く短い時間が過ぎる。私が気持ちの良い気分に心酔していると、スッと腕が軽くなる。目を開ける。彼がいない。周りを見回す、どこにもいない。本当に行っちゃったの? 冗談よね? 冗談だって言ってよ。心が不安に掻き立てられる。
名前を呼んでも出てこない。いくら泣き喚いても音沙汰なし。最後は地面に座り込む。今度は私が一人泣きじゃくる番。泣いて、泣いて、泣いて。青木君の寂しい気持ちを痛いほどに理解する。
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