第308話:バレンタイン〈その2〉
しばらく経過し、桜井が入ってきた。青木を見た後、立ち止り。春日井の所へ近づいていく。チョコレートを手渡し、春日井が大喜びだ。義理チョコだろうな。思っていたら、俺の所にもやってくる。
本命のチョコを下さい! 願う俺に、桜井がチョコレートをくれる。
「はい、柊さんに。青木さんはいらないみたいなので、余ってしまうのはもったいないですし。柊さんが食べて下さい」
「え、あ、うん……」
そして、桜井がヒュプの元へと向かう。え? 義理チョコ? しかも、青木の残り物? 何、それ? 停止する俺の前では喜ぶヒュプ。ウェスタも手を伸ばし、桜井にねだる。桜井がウェスタに向いて、小声で説明をしている。
真っ白になる俺をよそに、時間は刻々と過ぎていく。シバル先生が入ってきて、黒板前の棺桶に目を向ける。手紙を読んだ後、裏返し。見なかった振りだ。
点呼を取る前に、シバルの元へと女子が駆け付ける。何だかんだ言って人気者だ。子ども扱いのおふざけチョコに混じり、本命チョコも含まれているだろう。
人外はいつでもどこでも人気である。未来達がいなくなった分、シバルと青木に向けられる人気。俺にも少し分けてくれ。思うが、俺の人気は一向に上がらない。
シバルがペコペコ頭を下げて、チョコレートを受け取る。よく見たら、ライリティーまでチョコレートを貰ってやがる。どうしてお前らはそんなに人気者なんだ?
俺だって、特別な能力が使えたら……。イケメンだったら……。不思議な動物だったら……。文句を言っても仕方ない。机に伏せて諦める。
シバルが点呼を開始する。途中で、棺桶が動き出す。皆が棺桶に目を向け、シバルが不安そうに近づく。俺達に振り返り、棺桶に目を向ける。そして、また振り返る。俺と目が合う。願うように俺をみるシバル。俺にどうしろというのか?
仕方がないので、立ち上がり。ビビりながら、棺桶に近づく。シバルに向いて、問いかける。
「未来からだそうだが。お前は中身を知っているか?」
「知っていたら。開けるか、捨てるか、しています。不気味だから、放置していたんですよ」
「確かになぁ……」
棺桶のふたに手を伸ばす。そっと開けてみる。ふたを開いてみたら、冷気が流れ出てくる。中を見ると、人型のチョコレートだ。それを見て、シバルが言葉する。
「今井さん……の姿をしたチョコレートですか?」
「流石、未来だ。ビックリな物を送ってくるな」
本当にビックリだ。余りのリアルさに本物かと間違いそうになる。シバルが感心しながら、手を伸ばす。とある女子が誰だか問い詰めてくるので、俺が説明してやる。こいつの彼女だ。言ったら、皆が驚き顔だ。
ガタンッ! という音で、心臓が止まりかける。いきなり、今井チョコレートが動いた。仰天するシバルを抱き寄せて、キスを始める。パニくるシバル。俺もパニックだ。皆が皆、叫び声をあげて、騒ぎ出す。
半泣きなシバルに躊躇なきキスを繰り広げる今井チョコレート。おいおい、ここは学校だぞ。俺が今井チョコレートの手を掴む。
「おい、止めろ。今井……じゃなくて、チョコレート! 場所をわきまえろよ!」
今井チョコレートが、シバルから離れる。地面にへばるシバル。顔は真っ赤だ。半死状態である。今井チョコレートが俺に振り替える。俺と目が合う。すると、姿が変貌する。桜井? 停止する俺に向かって、桜井チョコレートが襲いかかる。
後ろに下がる俺を追い詰め、桜井チョコレートが俺にキスをする。桜井はこんなキャラじゃないのにー! しかも、キスが濃厚だ。本物としたようなソフトなキスじゃない。黒板に背をあてる俺に容赦ないキスをする。頭がしびれて……。
炎上しながら、地面に膝を付く俺。死にそうだ……。シバルが言っていた意味がわかった気がする。泣きそうな俺に、更に追い打ちをかける桜井チョコレート。誰か……助けて。自分からは逃げ出せない。幸せの牢獄に閉じ込められた気分だ。
不意に大杉の声が聞こえてくる。
「何なのよ、これ? ちょっと、止めなさいよ!」
振り返る桜井チョコレート。姿を変える。後ろ姿だがわかる。多分、青木であろう。サヨナラ、大杉。俺はもう援護できない。
先程のキスで未だに頭がしびれている。身体に力が入らない。荒い息を整えて、口を押さえる。今の桜井はどんな気分であろうか?
青木チョコレートが大杉の口を覆う中、生徒達が群がりだす。何せ、好きな人とキスが出来るのだ。チョコレートであったとしても、一度くらいはキスしてみたい。
間接キスの事とか考えないのかと不思議に思うかもしれないだろうが。本当に好きな人を前にしたら、そんなこと言っていられない。
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