第302話:帰還ですか? 〈その2〉
翌日、学校にてのお話だ。今日はシバルにちび共も登校している。シバルはニートに言われたので、ちび共は二人でお留守番が嫌だから。シバルはちびっ子クローズモードだ。いつも通りの格好である。
ちび共が青木の方に目を向けて、そわそわしている。青木の周りには魔王とワイバーンだ。気になるのだろう。向こうも、こちらを気にしている。だけど、話しかける事はしない。奇妙な空間だ。
未来は教室にいない。一時間目が始まる前に、先生が入ってくる。え~っと、この先生の名前は何だったか? 江川先生ではない。先生が生徒を着席させて、発言する。
「え~っと、残念なお知らせですが……。江川先生と未来君が家庭の事情で学校を辞めることになりました。えっと……お二人は今日から来られないそうで。江川先生から、お手紙を頂いていますので、読み上げますね」
先生が手紙を取り出し、読み上げる。
『生徒の皆様へ。突然の辞職、本当に申し訳ありません。大学受験を控える皆様には、大変迷惑が掛ると知りながらも、辞職させて頂きました。本業が忙しくなったことや、交通の便が不便であることなど。いろいろと考慮したうえでの選択です。本当に心からお詫び申し上げます』
教室中にブーイングだ。江川先生がいなくなった事に対するブーイングであろう。ため息をついたり、不平を述べたりする生徒がわんさと出てくる。俺も言ってやろう。えぇ~、何で止めるんだよ~? 口に出すのはみっともないので、心の中で文句を言う。
先生が続きを読みあげる。
『追伸。受け持ちクラスの皆へ。大学受験が迫っているけれど、焦って勉強をすることはないよ。毎日、地道に勉強していれば、大丈夫だから。無理して体調を壊すことはせずに、出来る範囲で頑張ってね。それじゃあ、今までありがとう』
皆して落ち込む。元気なのは魔王とワイバーンくらいだろう。ちび共もシバルも残念そうだ。先生が手紙をもう一枚取り出す。
「次は未来君からのお手紙です。読み上げますね」
先生が手紙に目を向け、硬直する。三秒ほど停止してから、おもむろに口を開く。
「えっと……『ポテチはやっぱりうす塩だよね』だそうです」
意味わかんねーよ! だから、何なんだよ!? お前、もっと他に書くことあっただろ!? ポテチはやっぱりうす塩だよね? 違う! ポテチはコンソメだ!
口を塞ぐ俺。思わず声が出てしまいそうである。最後の最後まで、未来はわけがわからない。不意に春日井が口を開く。
「ポテチはテリヤキ醤油が一番だよな」
「えらくマイナーね。そんなの聞いたことがないわ」
大杉が答える。感動のない教室。江川先生の感動のお手紙を、全て書き消した未来の手紙。何というか……何だか変な空気である。
それで、次は授業が始まるのか? 俺が考えていたら、教室の扉が開いた。入ってきたのは未来。だから、どうして? 未来が元自分の席に行って、机の中を漁る。
「忘れ物、忘れ物。えっと、お菓子と漫画と……」
「ちょい待て。それは俺が貸した漫画だよな?」
俺の声。無意識のうちに喋っていた。未来が俺に向いて、口を開く。
「え? くれたんじゃなかったの?」
「何でだよ? 何で最終巻だけをお前にあげるんだよ?」
「じゃあ、残りも全部頂戴。お別れのお土産だよ」
「さっさと返せ」
席を立ち、未来から漫画を奪う。最終巻だけがない漫画なんて、ストレス以外の何物でもない。ヒュプが未来に飛びつき、ウェスタが未来に抱きつく中。シバルが未来に問いかける。
「未来さん、帰ったんじゃなかったのですか?」
「あれ~? 何か耳鳴りが……。幽霊でもいるの? この部屋?」
「…………」
シバルが沈黙して、手を合わせる。え? こんな所で? ぶつぶつと呪文を唱え始める。え? マジで? 最近は場所をわきまえない奴になってきた。オープンモードになって、未来を睨む。
「それで、どうして未来さんがこんな所にいるんですか?」
「何? このお子様? 何か喋ってるよ」
「お前ら兄弟設定じゃなかったっけ?」
未来がシバルを指差し、俺が未来に問いかける。教室中に広がるざわめき。懐かしの天才超能力少年だ。嘲る未来にシバルが切れる。
「本当に、相変わらず性格の悪い人ですね」
シバルが手を合わせる。おい、超能力は一日一回設定だぞ! 容赦なく、大人モードに変身だ。先生が頭を抱えて、教室を飛び出し。未来とシバルが睨みあう。何をしているんだか……。不愉快そうなシバルに、未来が言う。
「まぁ、冗談はこれくらいにして。江川先生からの伝言なんだけど」
「伝言ですか?」
「うん、シバ君にね。『俺が抜けた分、後はよろしくね』だって」
「え? それはどういう意味ですか?」
シバルが不安そうな顔をする。未来がシバルに説明だ。
「先生だよ。先生。数学の先生が足りないの。前にいた先生は急病で来られないし、どうにも人が足らなくて。シバ君なら、数学くらい教えられるでしょ?」
「まぁ……神歴学とか、神類学でないのなら。教えられるとは思いますが……」
「何それ?」
「あぁ、神様の授業ですよ。僕はどうも神様系の勉強は苦手でして。人間の授業なら得意なんですけど」
「人間だよ、人間。どこからどう見ても人間でしょ? ちょっと違うのが、結構混ざってるけど」
ちび共や魔王に目を向ける未来。シバルがうろたえながら、未来に言う。
「だけど、僕は教員免許なんて持っていませんし……」
「いいじゃん。飛び級だよ。ちびっ子天才超能力者でしょ?」
「でも、今は大人ですし」
「じゃあ、尚更問題ないじゃん。もしかして、先生をするのが嫌なの?」
「いえ、気が重いというか……。責任が……」
「イライラするなぁ~。今更、アレギアを引っ張ってはこれないんだよ。俺だって、会社あるし。めっちゃ怒られたんだから。もう嫌になるくらい、怒られたんだから。もう取り返しがつかないの。シバ君は暇人なんだから、いいじゃない。給料も貰えるし、俺が何とか話をつけるから。とにかく、後よろしくね」
「はぁ……」
茫然とするシバルを無視して、未来が青木に近づく。
「じゃあ、ハルトン。行こうか?」
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