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第292話:魔王召喚〈その4〉
「わらわは帰る! 魔界に帰るのじゃ!」
「どうぞご勝手に」

 一時間目終了後の休み時間、騒いでいるのは魔王と青木だ。魔王が高校の授業を受けて、一気になえてしまった。駄々をこねる子どものように、青木にすがって帰りたがる。

「わらわはどうすれば帰れるのじゃ? 下部は知っておろう?」
「知りませんよ。どうしても帰りたいのなら、未来さんに聞いてください」
「嫌じゃ! わらわは神の助けなどいらぬ!」
「じゃあ、自力で帰ってください」
「わからぬ。帰り道がわからぬ。わらわは一人では帰れんのじゃ」
「じゃあ、諦めて下さい」

 青木の言葉で、ちび魔王が泣きだした。しくしく泣きながら、教室を後にする。ちょっと可哀そうだが……。俺が追いかけたところで何もできないだろう。



 うるさいちびっ子がいなくなり、いつもの日常が始まる。順序よく時が過ぎ、ふと横を向くと。校庭にて、異様な魔法陣を発見する。近くには例の魔王だ。お前は何をしている? ここからでは問いかけることができない。

 俺がぼんやりと校庭を眺めていたら、突然に魔法陣が光り出す。輝きを放つ魔法陣から現れたのは、巨大なキメラだ。えぇー!? って、思っているうちに、キメラと魔王が口喧嘩を始める。何を争っているのか? 

 不意にキメラが魔王に飛びかかる。魔王がギリギリ回避して、キメラに向いて怒鳴り散らす。じゃれているわけではないだろう。どう考えても仲違いだ。おいおい、お前が召喚したんじゃないのか? 呆れながら、魔王に目を向ける。

 両手をパタパタさせながら、怒る魔王。牙をむきながら、怒るキメラ。えらいことになっているが、誰一人として気にしていない。

 いや、それは違うな……。気にはしているが、今は授業中だ。大学受験の迫る高校生にとっては、夢あるファンタジーよりも目の前にある現実の方が大切なのだろう。ただし、俺は例外である。

 俺がずっと外を見ていたためか、先生が俺に話しかけてくる。今の授業は現代国語。永村先生だ。永村先生が口を開く。

「外ばかり見て、どうしたのかしら? 柊君?」
「いえ、ちょっと……。知り合いが動物とじゃれていまして」
「知り合いが? 動物と?」

 永村先生が首を傾げながら、外を見る。そして、ふらりと地面に倒れる。現実を受け入れられず、ショックで気を失ったようだ。他生徒が永村先生の周りに集まる中、俺は未来に問いかける。

「おい! あれをどうにかしろ!」
「俺は知らないし」
「いや、まぁ……そうだろうが。とにかく、どうにかしてくれ」
「嫌だよ。面倒くさい。ハルトンが行けばいいじゃない」
「嫌ですよ。面倒くさい……」

 青木が外を見ながら言う。神様も超能力者も役に立たない。ニートは登校拒否だ。江川先生の宿題の量に嫌気がさして、学校に来ていない。誰に頼めばいいんだ? そうだ、江川先生に直接頼もう。

 俺が教室から出ようとした直後、校庭側の窓ガラスが割れて、何かが飛び込んでくる。天井にぶつかり、落ちてきたのは魔王だ。苦しそうに起き上がる。目に涙を溜めながら、小声で言う。

「報酬じゃと? 舐めるな。わらわは王じゃぞ。報酬などなくとも、王の言うことは聞くものじゃ」
「いや、王様がケチっちゃ駄目でしょ?」
「もしかして、金ねーの?」

 未来が言い、春日井がとどめをさす。魔王が泣きそうになりながら、口を閉じる。本当に金がないようだ。しょげる魔王に、俺が言う。

「早くあいつをどうにかしろ。怪我人が出る前に対処してくれ」
「無理じゃ」
「何だと!?」

 思わず声を上げる。魔王が小さくなりながら呟く。

「召喚獣は呼ぶことはできても、帰すことはできん。帰りは召喚獣、本人の意思じゃ。本人が帰りたいと願わない限り帰すことはできんのじゃ」
「おい、マジかよ!?」
「うん、そうだね。呼ぶことはできても、帰りは召喚獣の意思だよ」

 驚く俺に、冷静に答える未来。あの化け物が自らの意思で帰らない限り、校庭は危険地帯だ。今日から体育の授業は愚か、校庭で遊ぶこともできない。
 その上、いつ襲われるかもわからない。ピラニアのいるプールで水泳の授業をするようなものだ。恐怖も恐怖、受験シーズン並みの恐怖である。

 俺が校庭に目を向けると、キメラがこちらを向いている。口を開けて、火の玉を吐く。豪速球で飛んでくる太陽。え? どこに逃げればいいの? 本当に勘弁してほしい。

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