第284話:スキー〈シバル編3〉
これ以上、話せません。黙りこむ僕に、彼女が優しく話しかけます。
「大丈夫だよ。何を言っても怒らないから。だけど、教えて。教えてくれなきゃ、怒っちゃうよ」
「はい……」
呼吸を整えて、もう一度口を開きます。
「実は僕……神様なんです」
彼女の動きが止まります。嫌われてしまったのでしょうか? 居心地の悪い、緊迫した空気が広がります。そんな空気を軽くしたのは彼女の言葉です。彼女が僕を見ながら、首を傾げます。
「あれ?」
「はい?」
思わず、僕も釣られます。今度は不思議な空気が辺りに舞います。何でしょう? 僕……変な事でも言いましたか? 彼女が僕に話しかけます。
「おかしいな。もう一度、話してくれる?」
「はい、実は僕……神様なんです。しかも、死の神様で、俗に言う死神です。その上、劣等生で有名です」
一度話せばスラスラと言葉が出てきます。余計なことまで言ってしまい、顔を赤らめます。そんな僕に彼女が言います。
「あれ? 私の予定では『実は僕、今井さんのことはあまり好きじゃないんです』だったんだけど」
「そんなわけないじゃないですか!? 大好きです! すっごく大好きです! 一秒たりとも手放したくないくらい大好きです! この世の中の全てを犠牲にしたとしても、守り抜きたいくらい大好きです!」
「それは困るかな。私だけ生き残っても、逆に辛いよ」
「そうですか?」
会話が止まります。あれ? 何かが噛みあいません。彼女が問いかけてきます。
「神様って、あの天国にいる神様?」
「天国に行ったことはありませんが。イメージではそうですね。それに近いと思います」
「じゃあ、何か人間にはできない凄いことができるの?」
「はい……といっても、個人の能力によって異なります。僕は死神ですので……まぁ、いろいろと」
適当に誤魔化します。人を殺すことが得意です。なんて言うと、彼女に嫌厭されます。すると、彼女が僕に口を開きます。
「誤魔化しは駄目だよ。ちゃんと答えてね」
「え……はい」
僕が小さく答えます。そして、小声で続けます。
「まぁ、あの……能力的には。その……生命の命を絶つことが得意なんですけど。僕はいろいろと劣等生でして、その人殺しとかはあまり……してないです」
「へ~。他には?」
「えっと……今は僕、こんな姿ですが。本当はもっと……その……子どもです」
「本当の姿は?」
言ってしまったからには、嘘はつけません。僕は両手を合わせ、子どもに戻ります。あぁ、終わりました。僕の恋はこれでおしまいです。真の僕の姿を見て、彼女が言います。
「神上君、子どもだね」
「子どもに見えますが、これでも千年以上は生きているんですよ!」
「じゃあ、おじいちゃんだね」
「だけど、姿はそんなに年寄りくさくないですし……」
泣きそうな顔で、彼女に言い訳です。もう何て言えばいいのでしょう? 思っていることが、どんどん口から流れ出ます。自分の言葉をフォローしようと思い、口を開いたら蛇足です。余計なことを言ってしまいます。
そんなことを話しているうちに、彼女が僕の秘密を理解してしまいます。感嘆しながら、彼女が言います。
「へ~、そうだったの。じゃあ、スキー場の足跡は神上君だったんだね。バスの時もそう? 桜井さんが駆けて行った時。あの時も、不思議な足跡がついていたよ。目の錯覚かと思っていたけど」
「バスの時? ちょっと待って下さいね。僕も記憶が曖昧で……」
「ついさっきまで、記憶喪失だったものね」
彼女が笑います。そうです。その辺りのお話を全て暴露したのです。僕が記憶を思い返しながら言います。
「それは確か……ウェスタちゃんだった気が」
「そこで眠っている子?」
「はい、そうです。ウェスタちゃんは乗物に弱いので」
「神様でも乗り物酔いとかするんだ。案外、人と同じなんだね」
彼女が楽しげです。僕はどう思えばいいのでしょう? 彼女は僕のことをどう思っているのでしょう? じれったくなり、問いかけます。
「あの……今井さん」
「どうしたの?」
「今井さんは僕の事……嫌いですか?」
聞いてしまいました。聞かないと落ち着かないのです。彼女がキッパリと言い放ちます。
「うん、大嫌い」
「大嫌い……ですか」
愕然です。でも、確かに嫌われて当然ですよね。何せ死神ですし……。その上、劣等生ですし。もう褒めるところゼロですものね。そう思いながらも、僕の心は放心状態。心の中が真っ白です。
後で自殺しましょう。だけど、自分自身には能力は使用できませんから。痛いのは嫌ですし。そうだ。オルクスさんに出会って、能力で殺してもらいましょう。それが一番楽かもしれません。あ、でも普通の死神は、死にかけの人しか殺せませんね。まぁ、オルクスさんは見た目以上にやり手ですから、能力を使って僕を殺すことくらいできるでしょう。
僕がうだうだ考え込んでいると、彼女の手が伸びてきます。僕の頬をつねって引っ張ります。痛いです……。彼女が言います。
「本当に子どもだね。神上君は」
「はい……」
目の焦点が定まらない僕。彼女の顔を見ることができません。ぼうっと壁の辺りを見ていると、不意に顔を掴まれます。え? 何ですか? 理解不能のまま、彼女にキスをされてしまいます。うわー! 油断しました!
長いキスが終わり、彼女が顔を離します。違う意味で目の焦点が定まらない僕に口を開きます。
「油断大敵だよ。神上君。そんなのだから、襲われるんだよ」
「もっと襲って下さい……」
わけのわからないことを言ってしまいます。いえ、だって、こんなことされた後に、彼女が話しかけてくるから。言い訳無用です。彼女に襲われます。
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