第259話:神光祭〈その24〉
シバルは俺にくっつくので、居酒屋へは行かないことになる。桜井も遠慮し、俺達三人はパレードを見に行くことにする。ちび共は居酒屋へ行ったのだ。余り飲みすぎるなと注意をしておいたが、どうなるだろうか? 不安である。
パレードは願い石への道をひたすらに突き進むものだ。広場へと集まり、そこで年を明けるらしい。俺達は広場の少し手前にて、通路に座りながらパレードを眺める。シバルが俺の膝上で楽しげにパレードを見る中、桜井が話し出す。
「そういえば、シバルさんの願い事は何だったのでしょうね?」
「さぁ?」
確かに不思議だ。何も起きていないような気がする。しかし、願い石の光は消え、千年の眠りについてしまった。こいつは一体何を願ったのか? 俺がシバルに問いかける。
「お前は何を願ったんだ?」
シバルは首を傾げて、俺を見るだけだ。答えは愚か、一言さえも発しない。未だに食べ続けているキャンディーを俺に薦めてくる。正直言って、まったく欲しいと思わない。
俺は首を振って、キャンディーをシバルの口に入れてやる。シバルはそのまま停止だ。キャンディーをくわえながら、俺を見上げ続ける。
不意に桜井が口を開く。
「もしも、柊さんが願い石を手に入れたとしたら。何をお願いしますか?」
「そうだなぁ……シバルが元に戻ってくれと願いそうだ」
「あはは、そうですね。シバルさんが元に戻らないと、柊さんが困っちゃいますね」
桜井が笑いながら言う。俺が桜井にオウム返しだ。
「桜井ならどうする? 何を願う?」
「私ですか? 私は……その……」
桜井の言葉が詰まる。真剣に悩んでいるのか、しばらく黙った後に、小さく言葉する。
「な、何にもないですよ……」
「何かあるだろ? くだらないことでもいいんだ。教えてくれ」
「…………」
長い沈黙。パレードが前を通る。きらびやかな服装にライトが照らされる姿がカッコイイし幻想的だ。神様のパレードは壮大である。見たことのない乗物や可笑しな奇術師。
海を切り取ったような水の塊を見た時には驚いた。中には人魚やお魚達が泳いでいる。皆、神様なのだろう。楽しげに手を振っている。
不意に桜井が首を振る。
「ないです。なんにもないです」
「一つくらいあるだろ?」
「秘密です……秘密。柊さんには教えません」
どうして俺には教えられないのか? 俺以外の人になら教えてもいいのか? 何だか寂しい気分になる。シバルが俺に振り向き、前を指差す。風船の周りをワシが優雅に飛んでいる。シバルはワシが気になるらしい。目を輝かせながら、じっと見つめている。
ふと桜井に目を向ける。呆ける姿が可愛らしい。ちび共やシバルのことで常に忙しない日常に生きる俺だが、桜井を見ているとホッとする。
だけど、やっぱり何というか……友達以上恋人未満の関係は未だに継続中だ。あ~あ、どうすればこの無限回路から脱出できるのか?
シバルを見ると、いつの間にかお休みタイムだ。俺の足上で丸まりながら寝息を立てている。俺はシバルの頭を撫でながら、もう一度桜井に目を向ける。すると、桜井がこちらを向いた。見つめ合う俺達二人。
お祭りという空気もあったのだろう。フッと桜井に顔を近づける。何の気なしだ。深く考えない。深く考えたら、またもや機会を逃してしまう。桜井は動かない。俺が前進するしかない。
桜井の唇に自分の唇を重ねてみる。今井みたいに無茶苦茶をする勇気はない。軽く唇を重ねるだけだ。それだけでも俺にしてみればビックリなくらいに勇気がいることなのだ。
今は夜で、お祭りで、全てが終わり安心していたため、気が大きくなっていたのだろう。普段の俺じゃあこんなことはできない。
桜井から顔を離した直後、大きな音が鳴り響く。シバルが目覚め、俺達は三人揃って広場に目を向ける。年が明けたのだ。皆がワイワイ騒いでいる。寿命のない神様でも、年越しはおめでたいことなのだろう。
桜井が俺に目を向け笑顔する。
「柊さん。今年もよろしくお願いしますね」
「あぁ、今年もよろしくな」
俺は目を逸らして、口を開く。先程の行為を思い返して、恥じ入っているんだ。多分、顔は真っ赤である。夜で良かった。昼間なら、俺のうろたえがよく目に付いたことだろう。シバルが俺達に向いて、首を傾げる。今のこいつに俺の心境などわかりはしない。
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