第223話:ゴミ拾い〈その8〉
変人親子が立ち去って、空気の止まる教室に俺達は立っていた。不意に江川先生が黒板を背にして地面に座り込む。青木は熟睡したままで、残りの俺達は呆然だ。何だったのだろう? 春日井が誰に言うこともなく口を開く。
「今のは夢?」
「そう、夢よ」
「な~んだ。夢か」
大杉の言葉に、春日井が納得する。大杉が青木のことを好いているという事実を、現実として受け止められなかったのだろうか?
まぁ、俺も今の出来事を現実と受け止めるほどの精神は持ち合わせていない。今のは全部夢だ。昨日の出来事から全部夢だ。そういうことにしておこう。
未来が江川先生に近づき、心配そうに問いかける。
「大丈夫?」
「…………」
「もしかして、アレギア……泣いてるの? そんなに今の怖かった?」
江川先生が頷く。そりゃまぁ、怖いだろう。他人事だから恐怖心が薄いものの、いざ自分があんな状況に陥ったら涙だって流れ出る。ニートが手に持つ本を見て、ぼそりと小声で言葉する。
「あー、怖かった。久しぶりに化け物を見た」
成る程、化け物とはああいう生き物を言うらしい。俺は一つ学習して、桜井に目を向ける。桜井は目を丸くしながら、俺に言う。
「何だか凄い親子でしたね。何ていうか……お星様ながらに、壮大でしたね」
「あぁ、宇宙は恐ろしいな。人知を超えている」
「はい……」
俺達が嵐について話す中、ニートが青木を起こしに掛る。起き上がり寝ぼける青木が口を開く。
「あれ? もう帰っていいのですか?」
「お前、ずっと寝てただろ? しかも、六時間目の途中から」
「いえ、最近寝不足で……。どうも安眠できなくて」
青木が目をこすり、欠伸をする。そして、江川先生の声だ。
「腰抜けて立てない……」
「情けないなぁ~。ほら、おんぶしてあげるから」
「何かあったのですか?」
未来達を見て、青木が問いかける。すぐに大杉が乱入だ。
「何でもないわよ。ちょっと虫が飛び込んできただけだから」
現実から離れたような気分で、俺達は帰路につく。アパートへ戻ると、子ども組が駆けてくる。
「アヌちゃんは?」
「アヌは!?」
「今日もお肉がいいな」
アヌの所在を問うちび共に混ざって、ピーちゃんが晩ご飯のメニューを願う。とりあえず、俺は今日の出来事を皆に告げる。
「アヌは父親と一緒に帰った。アヌの父親がまたいつか会おうとかほざいていたぞ」
「いつ会えるの?」
ウェスタが俺の服を引っ張りながら問いかける。俺は腕を組んで返答だ。
「アヌは星の神様だからな。空を見ればいつでも会える」
「トランプできる?」
「すまん、それは無理だ」
ウェスタの疑問に、俺が答える。ヒュプが何かを思いつき、ザッと走ってどこかへ向かう。ウェスタは残念そうにするが、そんなに落ち込んではいないようだ。まぁ、たった一日のお友達だったのだ。感情移入もそれほど感じないのだろう。
そして、ヒュプが駆けてきて、昨日買ったアヌのお菓子を俺に見せる。
「これ欲しい!」
「お前……現金だな」
「ウェスタも!」
ウェスタも乱入だ。アヌのことよりもお菓子のことがまず一番。どこで育て方を間違えたのだろう? あの変人親子のことを言っていられないかもしれない。しかし、もう一度会いたいとは思わないな。あの親子……何だか疲れる奴らだった。
俺は冷蔵庫からジュースを取り出し、コップに注ぐ。ウェスタとヒュプはお菓子を分けあい。ピーちゃんはニートに夕飯をせがむ。そういえば、スザクはどこに行ったんだ? また行方不明になっている。
スザクの心配をすることなく、俺はコタツに潜り込む。あぁ、寒い。冬ってこれだから嫌なんだな。震えながらテレビの電源をつけ、今日の夕食を考える。作るの面倒だし、食べに行こうか? むろん、ニートの奢りである。
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