第198話:お泊りしよう〈その3〉
百秒以内に隠れる場所を探す。家庭科室を抜け出して、皆がちりぢりに駆けて行く。ゲームの範囲は校舎内だ。このだだっ広い建物の中ならどこに隠れても許される。
秒を数える未来の声が聞こえてくる。俺はどこに隠れようか? 辺りをキョロキョロ見回しながらも隠れる場所を必死に探す。
理科室を発見だ。中へ駆け込み、足を止める。人体模型が入っているはずのケースに春日井を発見だ。人体模型は椅子に座り、何やら考え込んでいる。怖いじゃないか! 何をしているんだよ、お前ら!
俺はガラスケースを開いて、春日井に言う。
「おい、春日井。ガラスケースに隠れても、もろバレだぞ。隠れるなら、他の所にしろ」
「俺は春日井じゃない。人体模型だぜ!」
バカ発見だ。俺ですら一瞬にして気付いたんだ。未来なら理科室に入る前に気づくかもしれない。俺は春日井に忠告を促した後、隣のロッカーに入ってやる。
春日井が見つかって、俺はスルーされるという予定なのだがどうなるだろうか。とりあえず、春日井に注意する。
「もしも、お前が見つかっても、俺の居場所は教えるなよ」
「そんな、酷いぜ。タックンが先に見つかるかもしれないじゃんよ」
「それはないだろう。俺は確信している」
断言する。二人の間に沈黙だ。そろそろ未来が動き出すだろう。心臓ドキドキである。しばらくも経たぬうちに、ロッカーが開く。目の前には春日井だ。俺は春日井を怒鳴りつける。
「おい! 何してるんだよ! 俺が隠れてるんだぞ!」
「タックン、俺達って親友だよね? どんな苦難も一緒に乗り越えようって誓ったよね?」
いつそんな誓いを立てたのか? 俺にはまったく記憶がない。春日井が俺の隠れ家に乱入してくる。うおぃ! 狭いじゃないか! 俺は怒鳴り散らす。
「狭いじゃないか! っていうか、お前。ガラスケースに隠れるんじゃなかったのか!?」
「別にいいじゃん。俺達は二人で一つよ」
俺は春日井の頭を叩いて追い出そうとするが、春日井が抵抗だ。不意に、廊下から足音が聞こえてくる。俺は抵抗を諦めて、春日井と共に狭苦しいロッカーに仕舞われる。
どうして男二人で、狭いロッカーに入らないといけないのか? せめて相手が女の子なら考えるが……。
足音が止まり、扉の開く音だ。心臓がはち切れそうである。こういう緊張感は苦手だ。カツカツと歩く音がして、ロッカーの前で停止する。ヤバい、バレたか? 俺達がひやひやしていると、遠くから悲鳴が聞こえてきた。
ロッカーの前にいた人物が、すぐにロッカーから離れる。足音が遠のいて行き、硬直した空気が辺りに広がる。不意に春日井が口を開く。
「もしかして、助かった?」
「というか、今の声は大杉か? 一体、何が起きたんだ?」
「きっと美月ちゃんが俺達を助けようとしてくれたんだぜ」
それはないだろう。大杉に限って、そんなことはあり得ない。とりあえず、俺は狭苦しいロッカーから抜け出す。春日井を放ったらかして、教室の外を覗く。誰もいない。さて、これからどうしようか?
突然に放送室から、奇妙な音が放送される。ペチャペチャという不気味な音だ。俺は怖くなり、ロッカーに非難する。春日井に報告だ。
「放送室から、奇妙な音が聞こえてくるんだが……」
「怖いことを言わないでくれよ。タックン」
「お前は聞こえないのか?」
「これはきっと空耳だって信じてるから」
いくら信じていても、二人共に聞こえているのなら空耳ではないだろう。俺達は恐怖しながら、ロッカーに引きこもる。
何分経過しただろう? 未来はやってこないし。ゲーム終了の合図もない。俺達はいつまでこうしていればいいのか? 流石に嫌気が差してくる。一旦、ロッカーから出て休憩だ。不意に春日井が口を開く。
「タックン、ヤバいぜ」
「どうした?」
「もう限界……」
春日井が腹を押さえてしゃがみ込む。俺はすぐに廊下を指差す。
「トイレに行ってこい」
俺の言葉を聞いて、春日井が首を振る。
「一人じゃ怖くて行けないぜ。タックン、俺達は親友だろ?」
「はぁ……」
俺はため息をついて、扉を開ける。注意深く外を見回し、春日井に合図だ。俺達はネズミの如く怯えながら、トイレに向かう。
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