第192話:無人島〈その11〉
刻々と時間が過ぎる中、マイナス思考のカナが宙に手を向ける。カナの周りに針が出現だ。幼の場合と同様である。カナが今にも泣きそうな顔で小さく呟く。
「可哀そうに。友達が目の前で死ぬ事に耐えられず、私達の声すらも聞こえなくなってしまったのね。せめて苦痛なく殺して差し上げましょう。私達にできる唯一の幇助よ」
一番まともだと思っていた人がまともじゃなかった。ショッキングを抱えながらも、俺はシバルを手放さない。こいつらに渡したら確実に殺されるであろう。そんなのはご免である。
そして、針が飛んでくる。俺の後ろにはちび共だ。あ、オワタ。逃げられない。俺の身体が凍りつく。思わず目を瞑ってしまう。痛いことは嫌だ。せめて苦しみなく殺してくれ。カナの言っていることがあながち間違いでないことに気づく。
何かが弾かれる音が聞こえてきて、目を開ける。針は飛んで来ない。俺の前には人。忘却された人物、ニートがいた。手には黒剣だ。気まずそうに振り返り、俺に挨拶をする。
「よう、お久だな。元気にしてたか?」
「え? あぁ、まぁ……」
なんて答えればいいのだろうか? 今はそれどころじゃない気がするが……。唖然とする俺に向かって、ニートが言う。
「フラグを立てたのは俺だ。今回は責任を持って、お前らの助っ人をしよう。シバルはまだ生きているか?」
「わからん」
「よし。死んでいると確定されないだけ、まだマシだ。ちび共は俺が面倒を見る。お前はシバルを連れて、歌花に走れ。歌花にシバルの手を触れさせろ。生きていれば道を開いてくれるだろう。死んでいたら終わりだ。その時点で、シバルを放って、俺達だけでも脱出するぞ。不平は聞かない。お前よりも情報持ちの俺が出した案だ。今のところ、これ以外の名案が思いつかない」
ニートがこれまでにないほどの早口で言葉する。よく舌を噛まないなと感心しながらも、首を動かし承諾する。シバルを抱きかかえて立ち上がり、ニートを盾にして歌花に向かう。背中に寒気を感じるが、後ろを見ずにひたすら走る。今はニートを信じよう。
後ろで戦闘が繰り広げられる中、シバルの手を歌花に触れさせる。すると、歌花が白く輝きだした。要するに、シバルはまだ生きているということか? 少々安心しながらも、血みどろになったシバルを連れて、白い木の中に飛び込んで行く。
白い、白い、白い、白い。俺の手の中は赤い。後ろを振り向く。点々と続く赤い痕跡。帰りに迷うことはないだろう。シバルのおかげで、目印が付いているのだから。恐怖から逃れ安堵した俺は、もう一度シバルの様子を窺い見る。
やっぱりわからない。呼吸しているのだろうか? 心臓は動いているだろうか? わからないが、身動きは皆無だ。一体、俺はどうすればいいんだ?
とにかく俺は足を進める。不意に人影を発見する。現れたのは、のんびりした男と異世界のお姫様だ。お姫様の肩には青い鳥。のんびり君が俺に向く。
「こんにちは〜。うわぁ!? 死神……た、大変な事になってるよ」
「死神さんとは今日でお別れですね」
「姫様、怖いことを言わないでよ〜」
「そう思うのなら、早く大樹様の所へ連れて行ってあげてはどうですか? そうしないと、本当にサヨナラですよ」
のんびり君が大慌てにシバルを拉致って逃亡だ。俺ものんびり君の後に続こうとしたら、姫様が注意を促す。
「駄目ですよ。これ以上、奥に立ち入ってはいけません。今のあなたでは手を持て余すだけです。あなたは来た道をそのままお戻りください」
「シバルが心配だ。俺も様子を知りたい」
「あなたがいたからといって、彼の怪我が治るわけではないでしょ? あなたがいても足手まといになるだけです。彼のことを思うのなら、そのままお戻りください」
「そうか……」
俺は来た道を振り返り、しばらく足を進める。地面に滴る血痕を見て、もう一度反転だ。ダッシュで走り、姫様の横を通過する。ゲームでは見えない壁があるかもしれないが、ここは現実だ。姫様を無視して、通り過ぎる。
血痕の後をたどって行く。どんどん走り、人影だ。現れたのは案の定、姫様である。くそっ! こういうループになっているのか! 俺は歯がゆい気持ちを抑えながらも、姫様に問う。
「どうしても駄目なのか?」
「今見た道のりの通りです」
こういうキャラは同じ台詞を繰り返すのだろう。そうは思いながらも、もう一度問いかける。
「どうしても駄目なのか?」
「今見た道のりの通りです」
やはりそうか。理解した上で、三回、四回と質問だ。俺の中で納得がいかない。いいじゃないか。俺だって、シバルの友達だぞ。心配する権利はあるはずだ。八回目に突入し、姫様の態度が一変する。
「しつこいですよ。これでも予定がある身なのです。さっさと帰りなさい」
「どうしても駄目なのか?」
一時の沈黙。姫様が口を開く。
「わかりました。それならば、私にも手があります。ブレット! この人を追い返して下さい。生死は問いません」
「最後の言葉を訂正してくれ!」
俺はビビりながらも数歩下がる。姫様の肩にいた青い鳥が人へと変身だ。威厳ある騎士のような人物が現れる。そいつが剣を取り出して俺に向ける。
「姫様のご命令です。失礼ながら、剣を振るわせていただきます」
「マジかよ!?」
俺はダッシュで後退だ。走って、走って、走って。もうここまでは来ないだろうと思っていたら、頭に激痛。意識が遠のいて行く。遠くから幼の笑い声が聞こえてきそうだ。『お前、バカじゃん』、確かに……バカかもしれない。
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