第17話:救出
俺達は近所の川辺に来ていた。大雨で川の水位が上昇しており、大人ですら少々危険だ。この中に子どもが入れば、一瞬にして流されてしまうであろう。ヒュプの大きさを考えれば一溜まりもない。
見落としてしまわないよう注意しながらヒュプを探す。もう疾っくの昔に下流へと流されてしまったのだろうか。俺達は目を凝らしながら下流へと下っていく。
橋が見えてきた、かなり大きな橋だ。橋の橋脚部分に目が留まる、ヒュプがいた。ネコ耳帽子を右手に持ちながら必死になって橋脚にしがみついている。今にも水に飲みこまれてしまいそうだ。
俺は荒れ狂う川の中に足を入れる、水の勢いで思わずバランスを崩す。かなり無謀ではあるがこれ以外の方法が思いつかない。バランスを取りながら、川に飲み込まれてしまわないよう、一歩一歩足を進めた。徐々に目的地が近付いてくる。
そして、俺の気が緩んだ瞬間、見事にこける。
「だぁー! くそったれ!」
悪態をつきながら、川に流され、途中で踏ん張り、立ちあがる。水の力ってこんなにも凄いのか。俺は力の限りヒュプのいる場所へと向かう。
ようやく辿り着き、ヒュプを持ち上げる。ヒュプは俺に気づくと、強い握力で俺の服にしがみついた。これだけ強くしがみついていれば、俺から離れることはないだろう、俺と一緒に流されることはあっても。
そうならないように、歯を食いしばりながら、岸へと向かう。途中で、上流から大きな鉄板が流れて来た時には焦った。誰だ? こんなものを流した奴は? 鉄板の流し主に対しての怒りを力に変えて、ようやく岸へと辿り着く。
岸ではウェスタが心配そうに待っていた。とりあえずヒュプが無事であった事にホッとしたのか、パニックは治まっているようだ。ウェスタが俺達に近づいて言う。
「大丈夫?」
「あぁ、大丈夫だ」
「ヒュプは?」
「夢の中だ」
実はこいつ、川の中で眠っていた。俺にしがみついた直後に寝息が聞こえて来たのだ。いくらなんでも寝るには早い、せめて安全を確保してから眠りについてほしい。俺の願いもむなしく、ヒュプは目覚めそうにない。
俺達は大雨の中、傘もささずに、帰宅した。部屋に着くと、ヒュプを起こし、服を着替えて、和室に集まる。ウェスタ達の服は一着しかないようなので、俺の服を貸してやる、もちろんサイズはぶかぶかだ。
飲み物を持って和室に集まり、輪になって座る。二人は小さくなりながら俺の様子を伺い見る、俺は腕を組みながら口を開く。
「今回は上手くいったが、二度と荒れた川で漁業はするなよ。わかったか、ヒュプ」
「ん……」
「マグロ業じゃないんだ、もっと晴々としたいい天気のときにしてくれ」
「ん……」
「さて、そうは言ったもののお前らがちゃんと俺の言う通りに行動するとは限らない」
「ちゃんと言うこと聞くよ」
ウェスタが手遊びしながら言う、それに対し俺は反論する。
「口では言っても、行動に移すとは限らないだろ。特にヒュプがな」
「………」
ヒュプは沈黙して話そうとしない、警戒しているのだろうか。皆さんお解かりの展開であるが、こいつらにはまだ理解できないらしい。俺は調子に乗って話を延ばす。
「次に同じ事が起きたとして、もしも俺が近くにいなかったらどうするつもりなんだ?」
「もう二度としないから大丈夫だよ」とウェスタ。
「だが、川に落ちることに限らず、突発的な事故は突然に訪れるものだ」
「大丈夫! 二度とない!」
ヒュプが突然に声を上げた。こいつでも怒る時は怒るようだ、少々意外である。俺はにやつきそうな顔を二人から逸らして言葉する。
「そうか、二度とないか。しかし、俺は疑い深いんでな。お前らを見張る必要があると俺の脳内先生が言っている」
「脳内先生?」
ウェスタが首を傾げる。俺は頷きながら言う。
「そうだ、脳内先生だ。俺の頭に住んでいる、とっても偉い先生だ」
「結論は?」
子どもらしくない言葉を使いヒュプが言う。仕方なしに俺は結論を述べる。もう少し遊んでいたかったがそろそろ限界のようだ、ヒュプから黒いオーラが感じられる。
「要するにだ、お前らも俺と一緒に住めということだ。そうすれば、何かが起きた時に俺も対処がしやすいし、お前らも部屋に住めて一石二鳥だろ」
「本当に! 本当にいいの? ウェスタ達もタックンと一緒に住んでいいの?」
ウェスタのアホ毛が回転する、神経でも通っているのだろうか。ヒュプの顔も明るくなる、先ほどのブラックオーラは消えてしまったようだ。俺が二人に向いて言う。
「ただし、俺の言うことはよく聞くように、わかったか?」
「はーい!」
二人は大はしゃぎしながら部屋を走り回る。俺は二人に注意する。
「静にしろよ、お前ら」
二人の動きは止まらない。俺の言うことを聞くと約束した途端にこれだ、今後の生活が思いやられる。俺はため息をつきながら二人を見る、超笑顔で走り回る二人は非常に楽しそうだ。今日一日くらいは許してやろう。
こうして俺と子ども神様二人の同居生活が始まった。今までのことは序章に過ぎない、これからの日常が大変なのだ。
こいつらに聞きたいことは山のようにある。しかし、今日はこれくらいにしておこう。徐々に話を聞けばよいのだ。どうせ一日のほとんどがこいつらとの共同生活であるのだから。
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