第16話:梅雨の季節
六月に入り、じめじめとした梅雨の季節がやってきた。
二人が消えた後、テレビを和室に置き、中古の漫画やゲームなどを買占め、一人遊びできる空間を作り上げた。これぞ世に言う本物の一人暮らしである。そう言いきれるほどに部屋が俺流に成りつつある頃、どんよりとした曇り空の広がる月曜日の話だ。
今日の夕方から天候が荒れるらしい。そうテレビで聞いたので、珍しく傘を持って学校へと向かった。多少の雨なら傘など使用しない俺だが、大量となると話は別だ。流石に土砂降りの中を平然と歩く元気はないし、雨で自然洗濯するほどのエコロジー思考でもない。
学校からの帰り際に大雨が降りだした。待ってましたとばかりに傘を差し、駅へと向かう。電車に乗り、幾駅かを通り過ぎ、電車を降りる。決まりきった動きに躊躇なく従う。
アパートへ着くと、部屋の鍵を開け、部屋に入り扉を閉める。もちろん鍵を掛けて、それを確認する。
和室で寝ころびテレビをつける。土砂崩れのニュースが報道されている。そのニュースを耳にしながら仰向きに寝転がる。
あいつらに初めて出会った日、俺はあいつらに気が付いていなかったが、確か雨が降っていた。妙な声が聞こえ、物音がしたので和室に行き、倒れたカップラーメンを見つけたのだ。あれを倒したのはヒュプだろうな、それをウェスタが止めたのだろう、なんとなく想像できる。
ぼんやりと思いに耽っていると、突然にチャイムの音が聞こえてきた。まさかと思い立ち上がり扉へ向かう。扉を開けると、そこには大家の西丸さんがいた。
「柊さんの部屋は雨漏りしていませんか? お隣の新藤さんの部屋がどうも雨漏りが激しいようで、こちらはどうかと思いましてね」
「いえ、大丈夫です。わざわざありがとうございます」
「そうですか。では、何かあればご連絡ください」
「はい」
西丸さんが去っていき、部屋に鍵を掛ける。
直後、またチャイムが鳴った。俺はため息をつきながら鍵を開ける。正直、鍵を掛けたり開けたりするのが非常に面倒なのだ。自動ロックのカードキーにしてくれたらどれだけいいだろうか。しかし、こんな安アパートではそんなこと口が裂けても言えまい。
西丸さんが伝言を伝え忘れたのだなと思い、俺は扉を開け、首を傾げる。目の前には誰もいない。何だ俺の聞き間違いか。俺はため息をついて、扉を閉めかけ、手が止まる。
俺の足元にはウェスタがいた。服は雨によりドロドロに濡れていて、顔色は青白い、幽霊とはまさにこのことだ。ウェスタは身振り手振りで俺に何かを伝えようとする。俺はしゃがみ込みウェスタの言葉を聞きとる。
「止めたけど、無理だった」
「何だ? 何があった? ヒュプはどうした?」
「落ちたの、ウェスタね、止めたの」
パニックになっているようだ。俺はウェスタの背中を撫で下ろし、必死になって状況を把握しようと試みる。ウェスタは単語の羅列を言葉する。
「お魚ね、取ろうって、ヒュプがね」
「魚? まさか……」
「川にね、ヒュプがね」
「ヒュプが川に落ちたのか?」
ウェスタが小さく頷いた。俺がウェスタに言う。
「その場所へ俺を案内できるか?」
「うん」
ウェスタは服の袖で涙を拭きとると、後ろを向いて走り出した。俺はウェスタの後に続く。鍵など閉める余裕はない。泥棒が入ろうが、幽霊が入ろうが、そんなことはどうでもいい。今はヒュプの命が無事であれと願うだけだ。
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