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第142話:闘技場〈その14〉
 その後の話である。シバルはタテ達に今日の出来事と、自分が『紅の流星群』であることを、周りには黙っていてくれと頼み込む。むろん、タテ達もシバルの言葉に従う。何せ伝説の勇者のお言葉だ。夢のスターのお言葉に従わないわけにはいかない。

 意外だったのが、ネプト以上にタテが喜んだことだ。自分が目を付けていた劣等性が、伝説の勇者だったことが非常に嬉しかったらしい。仕舞には、シバルに弟子の申し込みを頼み込む始末だ。

 むろん、シバルは丁重にお断りする。自分はまだ子どもだし劣等生で有名だ。その上、タテとは能力が異なるから。という言い訳でどうにか諦めてもらう。
 代わりに、どうすれば神力が上がるか、自分の行っていた特訓方法をタテに伝授だ。タテは必死になりながら、シバルの言葉を聞いていた。

 ネプトはシバルの強さを目にしたため、挑戦を申し込もうとも思わなくなったらしい。シバルを非常に褒め称えていた。

 そして、厄介なのが九割近い時間を地面にうずくまって過ごしていた自称『紅の流星群』…オルクスである。こいつはほとんど事情を聞いていなかったため、シバルも何も言わずに無視していた。
 俺達は係わると厄介だと思い、そいつを地面に放ってきた。あの生命力だ。後は勝手にどうにかするだろう。



 どうにか収拾をつかせ、やっとのことでアパートへと帰る。アパートへ着き、俺がシバルに問いかける。

「鍵は開けておいた方がいいのか?」
「どうしてです?」
「いや、鍵を閉めたら、未来が帰って来られなくなるだろ」
「あの人は帰ってきませんよ」
「え?」
「もう家に帰られました」

 えぇ!? サヨナラの挨拶もしてないぞ。あれで帰ったのか? あれでお別れか? 中途半端にも程があるだろ! 唖然とする俺にシバルが口を開く。

「初めのうちは、あの人も長居するつもりはなかったんですよ。だけど、あなたの情に流されて、ぐだぐだしているうちに帰りそびれたんです。今日は丁度いいきっかけになったのでしょう。今頃、家で三人仲良く弟さんに説教を食らってますよ」
「そうか……」
「寂しいですか?」
「そうだな……」

 なんだかんだ言っても、今まで仲良くやってきたのだ。エンターテイメントである未来がいなくなると少し空気が冷たくなる。あいつがいると妙に和やかな雰囲気になるのだ。
 すぐにシバルと喧嘩をするが、それはそれで面白いし、シバルも溌剌と楽しそうだった。今思えば、厄介極まりないがいい奴だったな。

 ヒュプには何と説明してやろうか? きっと大声を上げて泣きわめくだろう。立ち直らせるのに時間が掛かりそうだ。何せ二人は大の仲良しだった。
 猫であるため、気が合うのか。よくわからないが、ヒュプの師匠を述べるとしたら、未来であろう。良い面も悪い面もあいつから伝えられている。

 俺が呆けていると、無表情が切った桃を皿に並べて、俺の前に置いた。桃に目を向けると、ウサギリンゴならぬ、ウサギ桃になっている。桃の皮は食べないだろう。俺が無表情に言葉する。

「おい、桃の皮は食べないだろ?」
「大丈夫。無農薬」

 いや、そういう問題じゃないだろ? 俺が心の中で突っ込んでいると、ラスボスがバニラアイスを口にしながら文句を言う。

「何で抹茶アイスがないんだよ? アイスクリームは抹茶だろ?」

 お前、人様の部屋で何やってるんだよ!? 勝手にアイスクリームを食べるラスボスに目を向けて、俺が問いかける。

「おい、お前ら何なんだ?」
「え〜っと、ディサ……いや、未来の友達だ」
「同じく」

 ラスボスの言葉に無表情が同意する。俺が続けて質問だ。

「何で俺の部屋にいる?」
「え〜っと、行く当てがないから」
「ここがベスト。でも、狭い!」

 ラスボスの言葉に無表情が一言加える。余計なひと言である。俺がシバルに向き直る。

「こいつらは何なんだ?」
「ニートさんとスザクさんです」
「だから、ニートって言うな!」

 ラスボスがシバルに怒鳴る。あまり大声を上げないでくれ。ウェスタ達が起きたらまたもやうるさくなる。俺が質問に困っていると、ニートが口を開いた。

「俺は未来の友達で、本の神様だ。名前はゼイガス。言っておくが、ニートじゃないぞ」

 よし、こいつの名前はニートにしよう。俺は心の中で決する。無表情が続いて言う。

「未来の友達。スザク」
「何の神様なんだ?」
「忍者の神様」
「それは……カッコイイな」

 まず忍者を見たことがないが……。何とも夢のある神様である。それにしても、未来は時間の神様と言っていたが、実際は微妙な線であった。こいつらも似たようなものなのだろう。神様は神様でも、シバル達とは違った神様だ。神様には二種類あるらしい。

 不意にシバルが欠伸をする。

「とりあえず、今日は寝ましょうよ。残りのお話は明日でいいでしょ?」
「賛成〜」
「了解」

 ニートに続いて、スザクが言う。俺が二人に問いかける。

「でも、お前らが寝る場所なんてないぞ」
「そうだな……」

 ニートが腕を組んで考えこむ。すぐにちびボスへと変身だ。そして、ニートが口を開く。

「ちびっ子モ〜ド! 押入れの下段を貸して下さい」
「あなたって、便利な身体してますね〜」

 シバルが感心しながら、ニートに言う。ニートが自慢げに口を開く。

「何せ、しおれることに関しては人一倍得意だからな」
「自慢になりませんよ」
「ということで押入れの下を貸してくれ」
「下段なら、いいですよ」

 ニートとシバルが押入れに駆けて行く。何やら提携を組んだらしい。俺がスザクに向いて言う。

「お前はどうするんだ?」
「あなたと一緒に寝る」

 うぉい!? ドキッとすることを言ってくれる。いや、確かに嬉しいが……。スザクに目を向ける。無表情ではあるが、美人だ。少し俺よりもお姉さんと言った感じか。こんな人に添い寝をしてもらえたら、そりゃあ嬉しい。多分、心臓が爆発して寝られない。

 俺がドキドキしていたら、ちびニートが走ってきて、両手を差し出す。

「布団下さい」
「ない」

 即答してやる。ちびニートがしおれ出す。すぐに寂しいことを口にする。

「バスタオルでもいいです」
「ちょっと待ってくれよ……」

 あまりにも哀れなので毛布を探してやることにする。引越しの際に持ち運んだダンボールを漁ってみる。良い感じの毛布を一枚ゲットだ。それをちびニートに手渡してやる。
 ちびニートは嬉しそうに礼を言うと、押入れへと駆けて行った。あれって、大人だよな? 首を傾げて、ちびニートに目を向ける。

 そして、スザクに向き直る。どうしよう? 一日くらい、いいんじゃないの? 別に変な事をしようなんて考えはないし。それに女の子を押入れで寝させるのも失礼だよな。でも、俺も布団で寝ないと落ち着かないし。

 俺が必死に試行錯誤していたら、スザクが不意に口を開く。

「駄目?」
「いや、その……」

 どうしよう? 困った。本当にどうしよう? 俺が言葉を無くしていると、スザクが俺に向いて言う。

「わかった。次の案。猫になる」
「猫?」

 俺が問い返した直後、スザクが灰色の猫になった。そのままヒュプのダンボールへと飛び込んで行く。結局はそれかよ! 
 俺はため息をつきながら、地面に目を向け、涙する。あぁ、せっかくのチャンスを逃してしまった。先ほどのスザクの顔を思い出し、残念気分を噛みしめる。

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