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第15話:消えた神様
 心地よい眠りから目を覚まし、起きあがる。もう少し眠っていたいがそうするわけにもいかない。上半身を起こすとボーっとした頭を掻きながら、とあることに気が付いた、二人がいない。

 もしやキッチンでコンロでも使っているのかと思い、即座にキッチンへと向かう。しかし、キッチンにも二人の姿はない。俺は昨晩の出来事を思い出し、ようやく状況を理解する。

 部屋を引っ繰り返しながら二人を探す、もちろん見つかるわけがない。昨日のウェスタの状況が丸ごと俺に降りかかったのだ。二人は部屋を出て行った。どこへ行ったのかもわからない、追い掛けることなどできるわけがない。

 俺は二人を探すことを諦め、朝食を取ることにした。元々無理があったのだ、人間と神様が同じ部屋で生活するなんて。煮え切らない気持ちを無理に押さえつけながら服を着替えて、授業の用意をし、部屋を出る。バタバタとした騒動もなく、今日は順調に事が過ぎそうだ。


 学校へ到着すると、まずは鞄を開けてみた。しかし、ヒュプの姿はない。教科書と筆箱だけが無頓着に押し込まれている。俺が妙に無気力になっていると青木が走り寄ってきた。

「柊さん、それで幽霊には出会いましたか?」
「成仏しちまった」
「マジで! タックン、幽霊見たのか?」

 春日井が話に乱入する、俺は質問に答える。

「見たぞ、恐ろしいほどに美人な幽霊だ。俺にキスして去っていった」
「嘘だろ! うらやましいぜ、タックン〜!」

 春日井が本気でうらやましがる。幽霊など信じていないと言っていたが、美人な幽霊は信じるらしい。なんてお気楽な思考をしているのか、今の俺にとってはお前の方がうらやましい。

 今日は土曜日であり、授業も昼までなので、皆を俺のアパートに呼ぶことにした。幽霊が成仏してしまい、青木は残念そうにしていたが、一人暮らしの部屋というものには興味があるらしい、俺の部屋がどのようなものかをいろいろと聞いてきた。春日井は俺と一緒に住むと言い出し、大杉は家賃や生活費のことを尋ねてくる。

俺達はアパートへ辿り着き、大杉がでかい声で言う。

「ボロアパートね〜」
「悪かったな、ボロアパートで」
「で、美人な幽霊はどこにいるんだ?」と春日井。
「俺のキスで成仏したって言っただろ」

 春日井が悔しそうに俺を見る、俺は春日井の視線を無視して部屋の鍵を開けた。俺達は部屋に入り、和室で寛ぐ。

 春日井はまるで自分の部屋のように、勝手に冷蔵庫の中身を取り出し、いつの間にか机の上のお菓子を食べていた。消えた二人とよく似た動きである。大杉は足を延ばして天井を見上げながら言う。

「へ〜、めっちゃ狭いわね。この部屋」
「大きなお世話だ」

 こいつは褒めるという言葉を知らないのか? 口を開かせれば、けなし言葉しか吐かない。青木が何かを拾い上げる、ヒュプの描いた落書きだ。

「何ですか、これ?」
「これ柊君が描いたの? まるで新世界ね」

 大杉が身体を乗り出して青木の持つプリントに目を向ける、俺は首を振りながら否定する。

「違う、違う。知り合いの子どもが遊びに来てたんだ」
「何だ、タックンの趣味じゃなかったのか」

 春日井が児童本を俺に見せて言葉する、俺は春日井の頭に一撃を加えて口を開く。

「そんなわけないだろ」

 三人は大いに俺の部屋で騒いだ後、別れの挨拶をして家に帰った。俺は一人で部屋に残り、さっぱりした部屋を眺めまわしながら、消えた二人のことを考える。

 あいつらは今頃どうしているのだろうか。神様専用のホテルにでも泊まっているのだろうか、それともどこかで野宿でもしているのだろうか。あの二人のことだ、後半が当てはまりそうである。

 次の日は日曜日で暇な一日を過ごし、その次の日も、さらにその次の日も、永遠と繰り返される日常の枠組みに俺の生活はのめり込んでいった。
 奇怪な出来事もなく、妙なものも見えず、このまま普通に時間が流れていくのだなと、俺は心の中で切ない気分を噛みしめていた。

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