第14話:帰宅
図書室で借りた本のおかげで五時間目はどうにかやり過ごすことができた。このまま無事に時よ過ぎろと願う中、六時間目の初っ端の出来事である。ヒュプがもじもじしながら俺を見上げる。
「おしっこ」
「マジかよ!」
思わず、俺は声を上げる。先生が指をさして注意する。
「そこ、静かにしなさい」
「す、すいません」
周りからは小さな笑い声だ。俺は恥ずかしさで縮こまりながらヒュプの耳元で囁く。
「我慢できないのか?」
「ダメ」
俺はため息をつきながら小さく手を上げて先生に言う。
「す、すいません。ちょっと、トイレ行ってもいいですか?」
「どうした? 柊、変な物でも食ったのか?」
「あー、はい、少々危なそうな牛乳をラッパ飲みしました」
周りから笑い声が聞こえてくる。こういう時は却って笑いを取るほうが真面目に答えるよりも後で質問攻めにあわないのだ、俺の経験則である。
「行って来い」
先生が扉に指さし、許可を出す。俺は頭を下げながら、教室を出る。もちろんヒュプも一緒にだ。こいつがいなければ俺が教室を出る意味がない。教室を出ると、ヒュプを誘導してトイレへと向かう。神様なのにトイレを使用するのか、俺の想像を遥かに超える神様である。
長い一日を終え、俺達は帰路につく。帰りにスーパーに立ち寄り食品を買い入れる。ヒュプはお菓子をカゴに放りこんでいき、俺はそれを棚へと戻していく、長時間を掛けて買い物を済ませ、アパートへと向かった。
部屋の鍵を開けて、中に入り目を疑う。部屋の中は乱雑に荒らされており、見る影もないほどに散らかっていた。
俺が呆気にとられていると、大声を上げながらウェスタが俺に走り寄ってきた。一体何が起きたのか? 俺はウェスタに質問する。
「何があったんだ?」
ウェスタは号泣していて俺の質問に答えられそうもない、俺にしがみついて喘いでいる。俺はウェスタの背中をさすり落ち付かせると、キッチンへと向かい暖かいココアを淹れてウェスタにわたした。ウェスタはココアをゆっくりと飲みほし話し出す。
「ウェスタがね、起きたらね、皆いないの」
「それで?」と俺。
「探したの、いっぱいね、探したの」
「うんうん」
「でもね、皆いなくてね、ウェスタ一人なの」
「そうか………それは悪いことしたな」
要するに、朝起きたら誰もいなかった。必死に探したが俺達は学校に行っていたため見つかるわけもなく、ウェスタが一人で寂しい思いをしていた、そういうことであろう。
部屋の乱れはウェスタが俺達を必死になって探した結果で、別に泥棒が入り込んだわけでもないらしい。清掃の神様が見事なまでに散らかしてくれたものだ。
俺はキッチンの椅子に座り、机にうつ伏せになる。ヒュプはウェスタの頭を撫でており、慰めているようだ。ウェスタはというとかなり落ち着いたようで涙も止まっているが顔は真っ赤である。
俺はしばらく机に伏せていたが、決断すると顔を上げて二人に言った。
「お前ら、この部屋から出て行ってくれないか?」
二人が何も言わず沈黙するので、俺は首を振って「冗談だ」と話を流し、夕食の用意を始めた。
冗談だと言ったが、正直に言うと半分は本気だった。たった一日を一緒に過ごしただけで、これだけのハプニングが生じるのだ、これからのことを考えると一緒に暮らせるとは到底思えない。
気まずい雰囲気で夕食を済ませると、余った時間を使い、部屋を掃除したり、図書室で借りてきた児童本を朗読したり、トランプで遊んだりして過ごすうちに就寝時間になる。
出て行けと言われて、最初は二人共に戸惑っていたが冗談だと理解し、安心したのか寝る頃には笑顔を見せるようになっていた。
相変わらず、俺の布団に潜り込み、三人で圧死寸前になりながら、眠りへと入る。こうして長い一日が終わりを告げ、新たなる明日へと時間が進む。そして、次の日、俺は自分が述べた言葉の重大さを知ることになる。
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