第124話:看病〈その4〉
翌日に入る。俺達は朝からもめていた。俺がシバルに怒鳴りつける。
「いいから、さっさと服を脱げ!」
「変態ですー!」
人聞きの悪いことを言ってくれる。俺は単にこいつを着替えさせたいだけである。というのも、昨日からずっと同じ服を着ているため、汗により服が冷たくなっているからだ。このままだと、せっかく治りかけてきた病気がぶり返してしまいかねない。そんなことになっては面倒だ。
それで、俺の服を出して、『これに着替えろ』と言ったら、こいつは『大丈夫』と根拠のないことを言い出した。そりゃあ、人の服を着るのには抵抗があるかもしれないが、このまま体調が悪化するよりはマシだ。俺は逃げるシバルを引っ捕まえて、口を開く。
「お前はいつもその服一枚でどうやって生活しているんだ!?」
「あなたが居ない間に洗濯してるんです!」
「じゃあ、その時の代わりの服はどうしてるんだ!?」
「あなたの服を勝手に借りてます!」
「じゃあ、いいじゃないか! どうして着替えに抵抗する!?」
「嫌です〜! 変態です! 痴漢です! 誰か助けて下さい〜!」
「叫びたいだけ叫んでろ。どうせお前の声は他の人には聞こえない」
「い〜や〜!」
叫ぶシバルを無理やり着替えさせる。今のこいつは病気のために神力が弱っており、ただの子どもと変わりない。空を飛ぶこともできないし、大人になることもできない。能力を使うこともできないので、ウェスタ達よりも人間の子に近い状況だ。
俺がシバルの服を剥ぎ取ろうとすると、シバルが白旗を上げる。降参したのだろう。俺に向いて言葉する。
「わかりました! 着替えますよ、着替えます! 自分で着替えられますから、あなたは向こうへ行ってください!」
「信用できるか!」
シバルのことだ。何だかんだ言って『実は嘘でした』なんてことはざらにある。信用できる所は信用できるが、できない所はとことんできない。今はできないパターンである。シバルが泣きわめく中、俺が服を奪い取る。シバルの服を剥ぎ取り、俺は思わず声を出す。
「何だよ、それ?」
俺の目はシバルの背中に向いていた。シバルの背中には鋭い傷跡だ。シバルが泣きそうな顔をしながら、俺から着替えの服を奪い取る。
「ジロジロ見ないでくださいよ。やっぱりあなたは変態ですね!」
「変態だなんて言うな。お前のためを思ってのことだぞ」
シバルが膨れながら俺を睨みつける。ぶかぶかの服のボタンを留めながら、小さく声を出す。
「これはですね……その………あの……。僕は劣等生だったでしょ? それでちょっと学校で苛めにあいまして………その時にできた傷で………」
「お師匠様に治療してもらえなかったのか?」
「治療と言っても、限度がありますから。この傷はあまりにも酷かった為……完全治癒は無理があったみたいです。………まぁ、その後、お師匠様が僕をこんな目に遭わせた人達………って言っても、神様ですけど。その人達をボコ殴りにしたという話ですが、その辺りは僕もよく知りません………」
「そうか…」
こりゃあ学校が嫌いになるわけだ。こいつが学校の話をしたくない理由が非常に理解できる。こんな傷を負わされてまで学校が好きという奴はまずいないだろう。
よく卒業するまで学校に通ったな。俺なら登校拒否だ。行ったとしても別の学校だろう。転校しない限り、学校に行く気になどなれるわけがない。
俺が言葉を無くしていると、服を着替えたシバルが俺に向いて口を尖らせる。
「ほら、ちゃんと着替えましたよ。これでいいんでしょ?」
俺の目の前には大人用の服を着たちびっ子である。あまりにもサイズが合わないため、ズボンは穿けないだろう。上の服だけでもスカート以上である。地面に垂れる服を見ながら、俺は思わず笑いが込み上げる。それを見て、シバルが怒りだす。
「何が可笑しいんですか!? あなたが着替えろと言ったんでしょ!?」
「いや、あまりにもお前が子どもなんで、何だか笑えてな」
俺は笑いながら、シバルの頭をポンポンしてやる。それに対してシバルが怒りを表す。
「子ども扱いしないでください! 僕はあなたよりも年上なんですからね!」
「はいはい」
面白い。両手を上げながら喚くシバルはウェスタ達と同様の子どもに見える。もしかしたら、本当に子どもなのかもしれない。俺はシバルの怒りを適当に流して朝食作りを開始する。
シバルには病気の時の定番料理であるおかゆを作ってやる。もちろん、以前にウェスタ達が作ったような不気味おかゆではない。名前通りのおかゆである。
シバルにおかゆを持って行くと、半分ほどは食べてくれた。半分残したのは俺のために残したわけでも、おかゆが不味かったわけでもなく。まだ調子がでないからであろう。
俺は自分の朝食を口に放り込むと、シバルに向いて口を開く。
「ちょっと買い物に行ってくるから、大人しく寝とけよ」
「わかりました〜」
シバルが調子のいい声を出す。昨日は許可が下りなかったが、今日は出かけてもいいらしい。さっさと買い物を済ませて、早く帰って来よう。こいつを一人で放っておくのは心配だ。俺は財布を手に取り、靴を履くと、扉に手を掛け、外に出る。
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