第107話:合コン〈その3〉
団体用のカラオケボックスを借りることになった。皆が好き勝手に椅子に座る。俺はもちろん端の席を確保する。端じゃないと落ち着かない。ただし、一席空白を作っておく。ウェスタの席だ。ちなみにヒュプは俺の膝上である。
俺の隣は未来で、その隣に優等生。俺の目の前が桜井で、隣がシバル、次に女子リーダーが続き、春日井、大杉、以下省略だ。説明するのも面倒だ。とにかく、全員が席に着いた。まずは自己紹介である。
一番端から紹介をするということになり、まずは俺がマイクを手に取る。何を言えばいいのだろうか? とりあえず、口を開いてみる。
「え〜っと、流川高等学校に辛うじて入ることができた、柊拓海です。過去も現在も彼女はいません。いつでも声を掛けてください」
「柊君に声を掛けるのは用事がある時だけね。彼氏にするには物足りないわ」
大杉が余計なことを言う。思っていても黙っててくれ。俺の面目丸潰れじゃないか。腹が立つので、一言加える。
「ちなみに、大杉さんは毒舌が絶えないので、気を付けたほうがいいです」
「ちょっと! どういうことなの!? 柊君!?」
大杉が文句言うのを無視して、未来にマイクを渡す。未来はマイクを受け取ると、恥ずかしそうに周りを見回した。皆の目線が未来に集中だ。マイクを持っているのだから仕方がない。
「えっと…」
未来が緊張しながら、口を開く。この緊張はどこから来ているのか? ただの緊張ではないだろう。自分が男であるとバレてしまわないかどうか、心配からの緊張も含まれる。周りの緊迫感に押されて、未来の声が小さくなる。
「桐立高等学校の……未来です」
学校の未来なのか? お前はどでかい存在だな。まぁ、突っ込みを入れるのはそれくらいにしておこう。未来は相当上がっているようだ。ほとんど話せていない。小さくなる未来に女子リーダーが質問する。
「上の名前は何ていうの?」
「え…?」
未来が沈黙だ。未来は未来であって、未来以外の何ものでもない。未来に上の名前など存在しないのだ。仕方がないので、俺がフォローを投げかける。
「森岡未来だよな?」
俺の言葉に未来が小さく頷く。もうどうにでもなれと思っているのだろう。とにかく時間が過ぎてほしいと心の中で思っているに違いない。未来がすぐに隣の優等生にマイクを渡す。優等生はマイクを手に取ると、堂々と話しだした。
「俺は進光道高等学校の学生をしています。名前は荒野秀治と言います。今後よろしくお願いします」
「進光道高等学校って言えば、名門の進学校じゃないか!」
春日井が驚きながら口を開く。荒野がクールに言葉する。
「まぁ、世間では名門で通っているかもしれませんが、大して普通の一般学校と変わりませんよ。多少は学力に違いがあるかもしれませんけどね」
ムカつく奴である。どうしてこんな奴と合コンすることになったのか? 大杉に質問したい。荒野が隣にマイクを渡す。ほんのりとした女子だ。マイクを受け取り、のほほん雰囲気で語りだす。
「白美ヶ丘学園から来ました、山口結衣です。好きな事はショッピングかな? お金持ちの男子を募集中〜! 彼氏待ってます」
「大金持ちの女子ならいるんですけどね〜」
シバルが口をはさむ。春日井が首を傾げながら、シバルに問う。
「大金持ちの女子って、誰のこと?」
「未来さんです。彼女は大手会社の社長の跡取り娘ですよ」
というか、大手会社の社長本人だがな。シバルの言葉に全員が驚きだ。もちろん、春日井も大杉もビックリである。未来は更に小さく縮こまる。シバルの余計な一言に、未来がどんどん小さくなる。このまま行くと、隣にヒュプを座らせることができそうだ。
話が進み、次の自己紹介へと移る。山口の隣は、春日井似の男子である。マイクを手に取り、口を開く。
「えっと、俺は戸口達也です。学校は進光道高等学校ですけど、親のコネで上がりました。学力はほどほどに低いです!」
春日井だー! 春日井のエリート版である。春日井ではあるが、うちの春日井とは豪い違いだ。違うのは親の顔の広さであろう。他は同じであると思われる。
戸口が大杉にマイクを渡す。大杉、春日井とマイクが移り、次は女子リーダーだ。マイクを手に取り、周りを見回す。自分に皆の目が集中していることを確認した後に、口を開いた。念入りな奴である。
「私は白美ヶ丘学園の今井静香です。好きな事は運動かな? 後、音楽も好きだよ。って言っても、有名所しか知らないけどね。彼氏はもちろんいません。いたらこんなところに来ないし。お暇な人は付き合ってね」
今井が隣にマイクを渡す。次はシバルだ…。俺は不安げにシバルを見る。頼むから、変な事を言わないでくれよ。シバルがおもむろに口を開く。
「僕の名前は神上シバルです。シバルはカタカナでお願いしますね。ちなみに、学校は秘密です」
「秘密にするくらい、酷い学校なの?」
山口がシバルに問う。シバルは受け流すように言葉する。
「さぁ? それはどうでしょう? 秘密にする理由は他にあるかもしれませんよ」
どうしてこいつは学校の話となると黙り込むのか? 未来が行っていた学校とは別なのだろうか?
まぁ、未来は優等生であったので嫌な思い出がなかったのかもしれない。話によると、シバルは劣等生だ。嫌な思い出が充実していたのだろう。俺から見れば、どう考えても優等生……いや、天才にしか見えないのだが。
シバルがマイクをまわす。長い、やはり長い。何人いるんだ? 十四からウェスタとヒュプを引いてみよう。十二人である。俺は次の紹介人物へと目を向ける。桜井だ。これだけ聞いて、頭を停止させることにしよう。
桜井がゆっくりと口を開く。
「えっと……流川高等学校の桜井優奈です。好きな事は読書や手芸です。えっと……彼氏は………いないです。つき合ったこともないし、好きな人も………」
ここで桜井が黙った。沈黙する桜井が口を開いた時には、既に話が変わっていた。好きな人はいたのか、いなかったのか? はっきり教えてほしい!
もう一度、問い詰めてもいいのだが、そんなことをすると嫌われる。俺はもどかしい気分に浸りながら、桜井の微妙な言葉に頭を悩ませることとなる。
桜井の右斜め前は、竹元昌という男子だ。ぼーっとしている、抜けたような奴だが、こいつも進光道高等学校の学生である。どうして、男子はこうも頭のいい奴らばかりなのか? 俺達が目立たないではないか。何だかつまらない。
一方、竹元の右側に座る女子の名は、古島風花と言うらしい。不思議なオーラを出している奴である。こいつも今井達と同様に、白美ヶ丘学園の学生であるらしい。
白美ヶ丘学園と言えば、進学校ではないが、かなりのお嬢様学校である。よくぞ、このようなお嬢様達を集めたものだ。春日井には驚きを隠せない。
こうして俺達の団体合コン大作戦が始まった。自己紹介をしていないウェスタとヒュプが騒ぎ出す。俺は二人を止めながら、隣の未来に目を向ける。
未来は世界の終りの如く落ち込んでいる。遠くで騒ぐ春日井と大杉に、調子に乗りだすシバル。未来に話しかけようとするウザ男、又の名を荒野。その他、もろもろを見回して、天井を見上げて、現実逃避に走りだす。
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