第11話:紙飛行機
俺は口元まで出かかる声をかみ殺し、周りの様子を伺い見る。反応なしだ。これもまた見えていないのだろうか? 紙飛行機くらい見えてもよさそうなものだが、ヒュプが所持しているという理由で人目には映らないらしい。世の秩序とは人の理解に程遠いのだろう。
俺が安心していると事件が勃発する、ヒュプが紙飛行機から手を放したのだ。ヒュプの手から放れた紙飛行機はふわりと宙を舞い、先生の後頭部へと直撃した。俺の背筋が寒くなる。そんな中、先生が紙飛行機を拾い上げ、激怒しながら騒ぎ出す。
「誰だ! 授業中にこんな物を投げた奴は?」
教室に緊迫した空気が広がる。誰も何も答えない。それはそうだろう、紙飛行機を投げたのは人の目につかない神様なのだから。静まり返る教室で先生が一人して怒鳴り続ける。
「誰だ、犯人は? さっさと名乗り出ろ!」
先生の目は血走っている、犯人を見つけ次第に職員室にでも連れ込むつもりだ。これじゃあ本当に犯人がいたとしても名乗り出ることはないであろう、俺も絶対に名乗り出ない。
先生が騒ぎたてる中で、ヒュプがちょこちょこと俺の膝上によじ登る、少し震えているのは先生の怒りに恐怖したためだ。俺は呆れながら膝上のヒュプを手で支えた。
しばらくの間、先生は犯人を見つけようと躍起になっていたが、犯人が出頭しないことを悟るとすぐに授業を再開し始めた。
黒板にチョークを叩きつける音が乱暴だ、授業のスピードがいつもより速い。これらは犯人を見つけられなかった先生の怒りの表れである。しかし、他生徒に対してのとばっちりは止めてほしい、非常に迷惑だ。
ヒュプは俺の膝で涙目をしながら、俺を見つめてくる。自分が怒られているということがわかるのだろう、これは人の子でもよくある話だ。俺は涙目のヒュプに向かって一言述べる。
「何で投げたんだよ?」
一時間目が終わり、先生が教室を出た後、教室内は紙飛行機の話で盛り上がる。一体誰が投げたのか、よりによって短気で脅威を振りまくことで有名な石沢先生に向かってだ。この勇気と度胸のある勇者は誰なのか。そんな話でもちきりだ。大杉が春日井に言う。
「犯人は春日井君じゃないの?」
「何で俺が石沢にちょっかい出すんだよ? そんな恐ろしいことできるわけないっしょ」
「あら、勇気ないのね。私は勇気のある人好きなんだけどな〜」
「犯人は俺です!」
周りの視線が春日井に集中する、それを見て春日井は縮こまりながら訂正だ。
「いえ、冗談です。俺じゃないです」
そこへ駆けこんでくるのはオカルト好きの青木である。
「犯人は幽霊ですよ! 僕、見たんです。何もない空中に急に現れたんです、あの紙飛行機が」
こいつはヒュプが紙飛行機を投げる瞬間を見ていたらしい。当の本人は何をしているのかと言えば、俺の膝上に座って皆の話を聞いている。
今は落書きをさせるわけにはいかない、落書きをさせれば俺がマジシャンになってしまう。ペンも何も持たずに紙に落書きされるのだ、それは驚きな光景であろう。大杉が胡散げに青木を見る。
「何を馬鹿なこと言ってるのよ、青木君。そんな馬鹿なこと言ってると春日井君や柊君みたいになっちゃうわよ」
「俺と春日井は同レベルか……」
「俺とタックンはいつも一緒よ」
春日井がふざけながら言う。しかし、青木は頑固として主張する。
「本当に見たんですよ! 突然、紙飛行機が宙に現れて……」
「はいはい、その話はまた後でね」
大杉が話を締めくくり、二時間目開始のチャイムが鳴った。こうして紙飛行機事件は終わりを告げることとなる。一時間目で怒られてしまったヒュプは二時間目には大人しく俺の膝上で遊んでいた。これで今日一日は静かにしているだろう、そう思われた直後、四時間目に事態は展開する。
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