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第98話:お祭り〈その9〉
 ウェスタ達の意見を述べると、皆が賛同した。お祭りに花火は持ってこいである。どこかに花火の屋台があったはずだ。俺達は花火を買いに屋台を探す。

 花火を大量に買い占めると、いくらか食べ物を買って、近くの川辺に向かう。もちろん、ライターやロウソク、バケツなどを用意する。準備は満タンだ。こうして、俺達だけの花火大会が開始される。

 春日井は両手に花火を持ち、走りまわっている。ウェスタ達に近づくなよ。俺は春日井に注意しながら、ウェスタ達に目を向ける。
 二人は案外にも地味な線香花火にはまっている。狭い押入れで生活していたため、地味な物に惹かれるのか。よくはわからないが、とにかく線香花火のパチパチ感がいいらしい。

 大杉は花火を青木に向けて、追いかけまわしている。青木は必死に逃げ惑う。大杉はお遊び気分だが、青木にとっては冗談抜きで恐怖だろう。哀れな青木に目を向けながらも、俺は何も言わない。頑張れ、青木。心の中で応援だ。

 未来とシバルはパラシュート付きの花火を放っている。今度の勝負はどちらが先にパラシュートを手にするかであるらしい。花火が放たれた瞬間に二人が神速で駆けていく。
 ありえないスピードで走る二人に誰も言葉を掛けないのは、自分の花火から目を離せないためであろう。

「皆さん、楽しそうですね」

 俺の隣で桜井が口を開く。手には普通の花火だ。俺も同様の花火を手にしている。別にどの花火でもよかったのだが、桜井が渡してくれたのだ。快く受け取った。俺が頷きながら言葉する。

「そうだな。たかが花火なんだが、えらく楽しそうだよな」
「柊さんは楽しくないのですか?」

 桜井が心配そうに俺を見る。俺はぼんやりと前を向く。俺の前には青木を追いかける大杉と春日井だ。人数が増えている。青木は今や絶体絶命だ。楽しそうには見えない。俺は三人を無視して、桜井に向く。

「まぁ、楽しいことは楽しいが。何だか妙にしんみりしてな」
「そうですね………。花火って、楽しいけれど、どこか物悲しいですよね」
「そうなんだよなぁ〜。何でだろうな?」
「しいていうなら、永遠じゃないからかな?」

 俺の後ろから声がする、未来が乱入だ。お楽しみの桜井と二人でほのぼの気分をぶち壊された。俺は後ろを振り返り、口を開く。

「どうして神様はいつも背後から話しかけてくるんだ?」
「真上からがよかった? それとも下から?」

 未来が空と地面を交互に指差す。俺は首を振って返答する。

「前からにしてくれ。死角から声を掛けられると、心臓が止まりそうになるんだ」
「大丈夫ですよ。まだ一度も止まったことはありませんから」

 シバルまでやってきた。こうなると、桜井とのお喋りは当分おあずけだろう。俺は残念気分に浸りながら、二人に問いかける。

「パラシュート対決はどうしたんだ?」
「未来さんの勝ちです。大体、僕の服装は走りにくいんですよ」

 シバルが文句を言いながら、自分の服に目を向ける。確かに走りにくそうだ。魔術師のような格好を見ている限り、走るのには適していないと思われる。

 しかし、先ほどの光景を目にした俺にとっては何とも答えようがない。走りにくいが、走れないわけではないのだろう。普通の服を着たらお前はどれだけ速いんだ? 問うてみてもいいかもしれない。

 未来が腕を伸ばしながら口を開く。

「あ〜あ。花火大会なら、俺の弟がいればもっと盛り上がるのになぁ〜」
「未来さんには弟さんがいらっしゃるのですか?」

 桜井が未来に質問だ。桜井には未来の素性を話しておいた。神様のことについて知っている人は数少ないので、教えておいた方がいいと思ったからだ。もちろん、俺の兄貴ではないことも、念を押して言っておく。

 未来が桜井に向いて言葉する。

「うん、いるよ。一人ね。と〜っても、うるさいの。いつも俺からポテチを取り上げるんだよ。ひどいでしょ?」
「それはお前がポテチを食べすぎるからだろ?」

 俺が呆れた顔で未来を見る。未来が膨れて口にする。

「そんなことないよ。多くても一日に五袋だもん」

 五袋は多いだろ? 一日に五袋もポテチを食べてみろ。一日の摂取カロリーの半分は大いに超えるだろう。下手をすると、ポテチだけで食事が終るかもしれない。そんな不健康な食生活を見たら、誰だって止めにかかるだろう。

 未来の言葉に桜井が苦笑する。俺が未来に問いかける。

「お前の弟ということは神様だよな? 何の神様なんだ?」
「花火が盛り上がるって言ったら、一つしかないでしょ?」と未来。
「火の神様ですか?」

 桜井が未来に聞く。未来が頷いて返答だ。

「そうだよ。弟の作る火の鳥が凄く綺麗でね。とっても幻想的なの。知り合いはそこに花火を放り込もうとするんだけどね。危なくて見てられないよ」

 こいつが危険だと感じる神様がいるのか。神様のやんちゃレベルは半端ないらしい。未来が最上級でないのなら、最上級に出会った途端に、俺の人生は幕を閉じるだろう。未来の言葉にシバルが驚きを示す。

「へ〜、あの人はそんな事ができるのですか」
「何だ? お前は未来の弟に会ったことがあるのか?」

 俺がシバルに目を向ける。シバルは頷いて、花火に火を付ける。

「お会いましたよ。凄く美人な方です。僕は初めて会った時に、女の人かと思いました。あなたも一度はお会いしてみるといいかもしれませんよ。本当にビックリしますから」
「そんなに凄いのか………」

 未来の女の子モードを想像してみる。あれでも俺は十分に驚いたのだ。あれ以上となると、俺はどう反応すればいいのだろうか? 硬直したまま身動きがとれなくなるかもしれない。

 不意に未来が口を開く。

「弟か………今頃どうしてるのかなぁ〜?」
「家が恋しくなりましたか?」

 シバルが未来に花火を手渡す。未来は花火を受け取り言葉する。

「まっさかぁ〜」
「あなたはまだ居座るつもりですか?」

 シバルが呆れかえりながら、花火に火を付ける。俺は新しい花火を手にして、未来に言う。

「居たいだけ居ていいぞ。俺の部屋は既に公共の場だ。出入り自由だからな」
「そんなことを言うと、この人は調子に乗りますよ」とシバル。
「そういうシバ君はどうなの? いつまでも居座るとタックンに迷惑じゃない?」

 未来がシバルに目を向ける。シバルが未来から目を逸らして答える。

「僕が居なくなると、この人の食生活が乱れますから。料理を伝授するまでは、当分居座るつもりです」

 シバルの言葉に桜井が小さく笑いだす。思わず釣られて、俺も笑う。未来とシバルも笑いだし、ウェスタとヒュプが俺達に目を向ける。俺達が笑い終えると、沈黙が訪れる。花火の音だけが聞こえてくる中で、不意に未来が口を開く。

「じゃあ、俺も。もう少しだけ居座るよ」

 もう少しだけ。はっきりとした数字で示されないその言葉には奇妙な不安を感じてしまう。シバルはまだまだ居座るそうだが、未来には帰る家があるらしい。居たら鬱陶しいが、居なくなると寂しい。つい最近出会ったのに、どうして寂しいなどと感じるのだろうか。

 俺は花火に目を向け考える。小さな炎がチリチリと燃えだし、少しずつ火花が散り始める。火花が大きくなり、派手に色鮮やかな色彩をぶちまけ、突然にすべてが消えうせる。出会いと別れとはこういうものなのだろうか。

 消えた花火を見つめる俺の頭に、先ほどの未来の言葉が思い起こされる。俺と桜井が花火の物悲しさの理由について考えていた時のことだ。未来がその理由を教えてくれた。花火がどこか物悲しい理由は………。

「しいていうなら、永遠じゃないからかな?」

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