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第10話:授業中
 今日の授業は異常なまでに時間経過が遅いと感じる。俺の苦手な授業であるということよりも、俺の膝に座る子どもが問題だ。俺は教科書を立てて勉強をするふりをしながら、ヒュプの耳元でつぶやいた。

「おい、何でお前がいるんだ?」
「カチカチ楽しい」

 昨日の落書きでシャーペンのキャップを押すと芯が出るということを学習したようだ。それだけのために朝から俺の鞄の中に入り込んだのか、どれだけ暇な神様なんだ。

 ヒュプはシャーペンを手に取り紙に落書きをしている。もちろん俺のノートにではなく、いらないプリントの裏をヒュプ専用の落書き用紙として使用しているのだ。こんな奴に授業のノートを取らせるほど俺は馬鹿ではない。

 ヒュプの描く落書きは一見意味不明で、それは小さな子どもの落書きと同様である。
 俺の推測であるが、ヒュプはウェスタよりも幼いようだ。というのもヒュプの方がウェスタよりも背が低く、言葉もあやふやな部分が多い。かといって、どちらの方が物事の理解に長けているかと言われればヒュプであろう。あのアホ毛の質問に答えるのは大概こいつである。

 俺はヒュプに目を落とす。俺の視線を感じ取りヒュプが振り返る。

「何?」
「えらく軽いな、お前」

 ヒュプは首を傾げて黙り込む、どう答えればいいのかわからないらしい。俺は首を振ってヒュプに言う。

「いや、何でもない」
「そう」

 それだけ言うと、ヒュプは用紙に目を落とし落書きを再開しだした。

 そして、俺は自分の言葉を頭の中で反復する。ヒュプは非常に軽い、まるで猫一匹分くらいの軽さである。ウェスタの体重を知らないので、こいつが特別だとは言い切れないが、人間の親がこのような子供を持つと確実に心配するであろう軽さだ。

 こうやって授業を受けていても誰もヒュプについて質問してこないのはヒュプのことが見えていないためであろう。もし見えていたとしたら先生が黙っているはずがない。俺が授業に集中していると、突然にヒュプが落書き用紙を俺に向けて大声で叫んだ。

「ウェスタ描いた!」

 俺は素早くヒュプの口を手でふさぐ、冷や汗が止まらない。しばらくしてゆっくりと辺りを見回すが誰一人としてヒュプの声に気がついた様子はない。声が聞こえていないのだろうか?

 よくよく考えてみれば、今の俺にヒュプが見えているということ自体が不思議である。神札は部屋に貼っているため、学校にまで効果が表れるとは到底思えない。それならば他の人間にも見えていいはずなのだ。こんな所に来てまで神様が見えるのは、あの部屋に住む特権なのであろうか。

 俺はしばらく悩んでいたが、すぐに考えることを止めた。
 
 世の中には未だに解決されていない問題のほうが多いし、何よりも俺は天才ではないのだ、いくら考えたところで正しい答えなどわかるわけがない。それならば一層のこと何も考えずに現状を受け入れるのが最もであろう。妙に緊張している俺に向いて、ヒュプが自慢げに言う。

「見て、ウェスタ」
「わかった、わかった。だからもう少し静かにしてくれ。じゃないと、俺の心臓が止まりそうだ」
「うん、わかった」

 ヒュプが素直に頷く。俺は痛い頭を抑えながら教科書に目を通す、今どの場所を勉強しているのかさっぱりわからない。先生の話が無意義に聞こえてしまう。

 こんな状況で真面目に勉強できるわけもなく、俺は校庭へと目を向けた。校庭では体育の授業が行われている、今日は野球をしているようだ。ボールを打つ音が鋭く空を駆け巡り、校庭内は賑やかに盛り上がっていた。

 突然、俺の膝が軽くなる。俺が前を見ると、膝の上にいたはずのヒュプがいない。俺は教室を見回すこともなくヒュプを発見する。
 俺の席から一メートルほど離れたところにヒュプがいた。手には紙飛行機だ、先ほどの落書き用紙で作ったらしい。ヒュプが紙飛行機を天に掲げながら走りだした。

「ブーン」

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