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Silver Pendulum
作:迦月



a couple of affair-III


 ―?時?分 ???(鴻)―


鴻「…ん?」
 鴻は目を開けた。
 いつの間にか、寝そべっている。
鴻(えーっと…?万里と喧嘩してて…榎璃ちゃん曰く怪奇現象が起きて…ドアぶち壊して…ああ、暗闇に…)
 …暗闇に、取り込まれた。
 多少アバウトではあるが、一応この現状は理解しているらしい。
鴻(あの時、下に押し付けられるような感じがして…あの感じ、前にもどっかで…)
 大の字になっていた鴻は、むくりと起き上がった。
鴻「…万里ー……?」
 万里の姿はない。あの時、確かに隣にいて一緒に飲み込まれたはずなのだが。
鴻(何か、目印になりそうなのは―)
 そう思うが、周りを見てもあるのは何処までも続くような闇。
 目印も何もありはしない。
 地獄とはこんな所なのた、と一瞬鴻は考えた。
鴻「『双鏡』…は無理か…」
 『双鏡』の片割れを持つ祥と通信しようと思った鴻だが、僅かでも光がなければ使えないのを思い出して諦めた。
鴻 (それじゃあ……)
 「『wind bell//』」
 鐘の音の澄んだ高い音が響く。
 しかし、その音は全く反響しない。
鴻「うっわ…広そうだなあ…んじゃ…『lamp light//』」
 『ポゥ』
 と音がして、鴻の指先にビー玉大の灯りが点る。
 その灯りが、闇を照らした。
鴻(…あれ?)
 無限と思えた暗闇\しかし、鴻の数歩先に一つの扉があった。
 だが、それは枠とドアしかなく、本来あるべき壁もない。ただ扉があるだけである。
鴻(何、コレ?罠かな?ってか、ど●でもドアっぽい気がしなくもないのは、なんでだろ…?)
 決してピンク色などではない扉のドアを開けると、そこだけ闇を切り取ったように明るくなった。
鴻(行くしかない…かな。)
 鴻は念の為、腰のホルスターから『月夜』を取り出して、扉の向こうへと踏み入れた。



 ―?時?分 ???―

鴻「ここは―!」
 見慣れた場所、見慣れた景色。
 そこは、日の降り注ぐ星宿館の屋上だった。
 振り返ると、閉まっている扉―階下へと続く階段への扉となっている。
鴻(まさか、ここから来たんじゃ―)
 『ガチャ』
 扉を開くと、その先にはいつもの階段が続いている。
鴻(どちらにしても、現世じゃないってこてか―)
 「…行くしか、ないね。」



 ―?時?分 ???(万里)―

万里「痛ってぇ…」
 一方こちらは万里。
 固いところで寝ていたらしく、腰にきているようだ。
万里(俺も歳かな…。つか…アレ?なんか、取り込まれて…来たんだっけ?)
 かなりアバウトにだが、現状は理解している(?)らしい。
 『ぶぉぉん』
 離れた所から低い音が聞こえた。
万里「ん?」
 『ぶおぉぉぉぉん』
 音が近づいてくる。
万里「ば…ばば…」
 低重音を響かせて現れたのは…
万里「バイクうぅぅぅぅ!?」
 言い終えるが先か、駆け出すが先か…
 とにかく、万里は一目散に走り出した。
万里「鴻ーーーーーーーーーーーーー!」
 もう一人、共に取り込まれたはずの少女を探すためにも。



 ―異世界 星宿館(鴻)―

 鴻は、星宿館の中を一通り見て回った。
 祥も榎璃もいない。
 しかも。
 玄関がない。
 いや、玄関はある。
 しかし、外に出ようと扉をくぐったと思えば、扉をくぐって再び中へ入っているのだ。
 つまり、星宿館の中だけの世界。
 星宿館以外は存在しない世界。
鴻(屋上からは、確かに外があったと思ったんだけど…)
 考えても始まらない―というか、一度整理する為にも屋上に戻ることにした。


 ―屋上―

 『ガチャッ』
 ドアノブを回し、扉を開ける。
 そこには、誰もいない世界の続き―誰もいない屋上がある。
 はずだった。
 しかし、そこには…
鴻(人―?)
 向こう側を向いている為、こちらからは背中しか見えない。
 しかし、確かにそこにいた。
 鴻は屋上に踏み出した。
 少し錆び付いたドアの音に気づいたその人物が、鴻の方を向いた。
 赤に近い茶髪。
 メンバーの中で一番背が高い。
 それは―
鴻「―万里…?」
万里「鴻!」
 万里は、いつものやわらかい笑みを浮かべながら鴻へ走ってくる。
万里「驚きましたね、あの黒いのがいきなり来ましたし、ね?」
鴻「え、うん、まあ―そうだね。」
 あまりの唐突さに、鴻は戸惑う。
 入れ違いになったのか。
鴻「でも―見つかって良かったよ。あ、気づいてるよね、ここが現世じゃないって。早く、帰る方法を考えないと―」
万里「そうですね…」
 万里の笑顔が曇る。
万里「そうしたいですけど―」
 両手を前に突き出す万里。
万里「ここで、お別れですね。」
鴻「―え?」
 油断していた鴻がよろめくのは、軽い力で十分だった。
 鴻の体が、膝より幾分高めの枠を越える。
 しかし、『学園』で育てられた鴻。
 間一髪のところで、どうにか両手で縁を掴む。
鴻「万―里…?」
 声をかけられ、はっとした様子の万里。
万里「あ!すいません!すぐに引っ張りますから!」
  そう言うと、鴻の腕を引っ張る万里。
 ようやく、鴻が縁に片足をかけた時。
 にぃ、と万里が笑った。
 そして、がし、と鴻の両腕を押さえつけるように掴む。
 鴻は、何かを感じ取ったように空へ目線を向けながらぼんやりと言う。
鴻「万里…あなたは…」
万里「何度でも、やりますよ?」
 そう言って、掴んでいた鴻の両腕を、突き放す万里。
 前よりもずっと遠く、縁にも手が届かないくらいに。
鴻「万里…」
 少し、残念そうに呟く鴻。
 そして、右の袖の中から細い幾重にも連なったシルバーのブレスレットとを外してワイヤーにし、鉤状になっている一方の端を星宿館の壁に向けて投げる。
 鉤は壁にうまく引っ掛かり、固定された。鴻は手に握ったもう一方の端に小さな器具を付けて、ボタンを押す。
 すると、すると器具にブレスレットであったワイヤーが巻き取られて、鴻の体が上へと引き上げられる。
万里「―!」
 次に、鴻は壁に足を付け鉤を外した。そして、落ちる前に『跳躍』の能力を活かして壁を蹴る。この間、1秒にあらず。
 これで、鴻の体は再び空中へ。前よりも、さらに建物から遠く。
 しかし、まだ上へ。
 鴻はまた、器具から外したワイヤーを投げ、今度は屋上の床を狙う。
 狙い通り、鉤は刺さり、鴻は屋上へ。
 ほんの、10秒も経たない内の空中劇だった。
 鴻はたいせいとを立て直そうとよろめいた。
 すると―
万里「ぅあっ!?」
 鴻の背中が、万里に軽く当たった。
 勿論、鴻は故意じゃない。
 先ほどの鴻のように、枠を乗り越え、足を踏み外す。
 落ちる万里。
 その位置では、どんなにめいっぱい腕を伸ばしても、縁に掴まる事は不可能だ。
 が、しかし。
 鴻はその腕を掴んだ。
 自分を落とそうとした、そして、自分をこれからも殺そうとするであろう『者』の腕を。
 多分、万里ではない『者』を。
 鴻は、自分よりもずっと重い万里と共に落ちそうになるのをギリギリで踏ん張る。
 情けがあったわけではない。
 当然、『人を見殺しにしてはいけない』という誰かの教えを守っているわけでもない(現に今まで何人も殺している)。
 鴻が考えたのは、可能性。
 もし、今私が掴んでいるのが本当に万里だったら?
 もし、万里が私を殺す程に嫌いだったら?
 もし、万里が催眠か何かをかけられていたら?催眠を専門とする奴だって、学園あそこ
にはいた。
 その可能性だってあるはずだ。
 何せ、この世界ではアリバイも作れない分、証拠も残らないのだから。
 可能性は低いが、僅かでもあることは確かだ。
 ―ずっと黙っていた『万里』が口を開いた。
万里『君は、コイツに―コイツらに優しすぎるんだよ。『信頼』したい人物に。』
 そう言った『万里』は、思いっきり鴻を引っ張る。
 当然、鴻は落ちる。
 『万里』は、その力を利用して自分は上にあがった。
 成す術無く、落ちる鴻。
万里『それが君の欠陥だ。』

 先程のブレスレットタイプのワイヤーは、回収する暇がなかった為、屋上に置きっぱなしだ。しかも、他に命綱になりそうな暗器ももち合わせていない。
 落ちる鴻の耳に、遠く上から見下ろしている『万里』の言葉が、万里の声で、聞こえる
万里『こんな、簡単にはすましませんよ?』
 鴻は落ちながら思った。
 そういえば、前に100%本物の万里が同じこと言ってたっけなぁ。
 …ああ、そうだ。
 害虫の駆除で毛虫刺し殺そうとしてた時だったっけ。
 これ言っちゃったら私、毛虫と同等かぁ。

 そこで、鴻の意識は途切れた。












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