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Silver Pendulum
作:迦月



a cog in machine of the world−II


 ―23時33分 I.J.H.医療健康保険機関研究室―


教授「誰だ、お前達は…っ!」
 『教授』よ呼ばれた男が怒りを押し殺したように、もう一度言う。
SP1「教授…どうします?」
SP2「こいつら、既にデータを盗ったようですが…」
榎璃「ちょっ…あたしたちは―」
教授「向けろ。」
SP1・2「了解。」
 そう言って、腰のホルダーから銃を取り出し、榎璃たちに向けるSPの二人。
榎璃「はい!?」
万里「なっ―!?」
 何も言われていないが、反射的に両手をあげる二人。
教授「こんばんは、間抜けな侵入者君。私はここの研究者長の烏松(うだい) 宿麻(すくま)だ。さて、何のためにそれを盗ったのか、お聞かせ願おうかね?まずは…話し合いにしよう。」
榎璃「そんな物騒なモノ向けといて『話し合い』ね…。つか、変な名前…。」
 榎璃が嘲るように言ってみる。
万里「榎璃!」
 『パンッ!』
 二人から見て右―SP1が榎璃に向かって発砲した。勿論、威嚇射撃として。
SP1「なんか言ったか、jet-black head(真っ黒頭)。」
榎璃「jet-black head!?」
万里「確かに…。」
榎璃「え?」
万里「似合ってるなぁ、って。」
榎璃「そ、そう…?ありがと。」
宿麻「…さて、いちゃつくのもそれくらいにして、理由を話せ。そうしたら殺すのは見送ってやる。―ボスの判断に任せることになるがな。」
万里「…一応、聞いておくが…言わなかったらどうなる?」
宿麻「この場で射殺だな。」
榎璃「あ…ついでに、も一つ聞いても…?」
宿麻「何だ?」
榎璃「そこの二人―何でどっちもあたしに銃向けてンですかね?」
 言われてみれば。
 榎璃の正面に立つSP2が前に銃を構えているのは普通なのだが、万里の正面にいるSP2までもが何故か榎璃に銃口を向けている。
SP2「おい、何してんだよ、と…ヴィネ。」
ヴィネ「だってさぁ…いや、これは流石に勘弁してほしいよ、あ…シャックス!」
シャックス「ちゃんとやれって、金貰ってんだから。早く、ば…あの赤髪に銃向けろよ。」
ヴィネ「やだ!そっちと変わってくれ。」
シャックス「しょうがねぇな…」
 かなり不自然な会話の後、位置を交換する二人。
宿麻「早くしろ。まったく、払った金返してもらうぞ。」
ヴィネ「すいません…。」
 そして、場所を変わったヴィネはというと…。
 …寸分狂わず榎璃に銃口を向けた。もちろん、シャックスも万里に銃を向ける。
榎璃「万里!こいつウザイ!なんかこう、めっさある人物思い出させるんですけど!」
万里「ああ、そっくりだな。」
榎璃「………。」
万里「冗談だ。」
宿麻「…さて、訳を話してもらおう。」
榎璃「万里…どうする?」
万里「どうするって…あいつら、俺らが死んだら困るんだろ?」
榎璃「…そうね。」
 万里が一歩前に出る。
万里「俺らは万屋で仕事してるんだが―」


 ―同時刻 ???―


卯木「どうします、博士…」
 卯木が『博士』に問いかける。
 そこは、先ほどまで男1・2がいた部屋。
 今は、卯木と『博士』しかいない。
 そして、『博士』の目の前にはパソコンのディスプレイが置いてある。そこには、監視用のライブカメラから送られて来るらしき、万里たちのいる部屋が映し出されていた。
卯木「一応、あれはダミーデータですが…。捕獲しますか?」
博士「いや、まだいい。今回は見逃そう。こちらに害がなければいい。」
卯木「…解りました。」



 ―23時37分 I.J.H.医療健康保険機関研究室―


万里「―という訳です。」
宿麻「なるほど…要するに、お前達は万屋で、依頼を受けただけだと。」
榎璃「そうなのよ。」
宿麻「そうか、ご苦労。では、死んでもらおう。」
榎璃・万里「は?!」
宿麻「当たり前だろう?もう話は済んだ。これ以上、お前等に用はない。」
榎璃「ちょ…ちょっと待った!何で!話したじゃない!」
宿麻「そうでも言わないと、話さないだろう?」
榎璃「そりゃ、そうだけど…」
宿麻「よし、終わりか。」
榎璃「えぇ!マジですか!?」
 慌てる榎璃の横に立つ万里は落ち着いた様子で、深いため息をついた。
万里「じゃあ…死ぬ前に一つ、やり残したことがあるんで、叫んでいいですか?」
 宿麻「…いいだろう。」
 宿麻の答えを聞いて、万里が大きく息を吸い込む。
 そして……
万里「羽生 祥と羽生 鴻の恩知らずー!!」
宿麻「!?」
榎璃「はぃ!?」
万里「だってそうだろ?あの二人だったら上手くやってのけて、こんな状況もなら―」
 『ゴトン』
 重い物が落ちた音がした。
 榎璃(首!?)
 音のほうを万里・榎璃・宿麻が見る。
 それは、ヴィネが銃を落とした音だった。
シャックス「っおい!何やってんだ!?」
  シャックスの声に、我に返ったヴィネが銃を拾い上げた。
ヴィネ「あ…すいません。おや、ほんっとすいません。」
宿麻「おい!しっかりしろ!」
榎璃・万里「?」
宿麻「…お前等、羽生兄妹を知っているのか?」
万里「はぃ?ええ、まあ…」
宿麻「そうか…お前等も運がないな。あいつらは、殺し屋養成組織の学園から逃げたや―」
シャックス「っ教授!」
 シャックスが口をはさんだ。
シャックス「…そこら辺でよろしいかと。」
宿麻「…ああ、そうだな。さて、これで本当に終わったな。」
榎璃「マジ、このオッサン!?」
万里「ちゃんと話したでしょう!」
宿麻「…だから、さっきも言っただろう。」
 宿麻は、深いため息をついてみせる。
宿麻「お前等の利用価値はもう尽きた。少なくともこちらには、な。」
榎璃「な―っ!?」
宿麻「それに、お前等の仲間は、明らかに役不足なお前等にこの危険な仕事を任せたんだろう?つまり…それは、用済みという事なんじゃないか?」
榎璃「そ…」
宿麻「つまり、お前等を必要とするヤツなんていにんだ。」
榎璃「そんな…」
 『そんな事ない』
 そう言おうとした榎璃の脳裏に、不安がかすめる。
 なんで二人はあたしたちに仕事を任せた?
 こういうのは、絶対にあの二人の方が向いてるのに。
榎璃「そんな…嘘でしょ?」
万里「そんなはずないだろう!」 不安を退けるように、万里が叫ぶ。
 誰にも必要とされていないのなら―

 何処に生きる意味がある?

?「さっきから聞いていれば…」
万里・榎璃・宿麻「!?」
 いつの間にか、宿麻の背後にいたヴィネが言葉を発した。しかし、先ほどの聞いた声とは違い、まるで女性のものである。
 そして、何故か銃を捨てた状態で。
ヴィネ「誰が、『必要とするヤツなんていない』だって?」
シャックス「あーあ。もう、鴻は限界かぁ。まあ、しょうがねぇわな。」
 シャックスも歩きながら言う。
万里「鴻―って…!?もしかして…」
榎璃「あんたら―!」
ヴィネ〔鴻〕「はいはい、どーも。榎璃、万里…。お待たせ―って言うか、私はハジメマシテ…かな?」
シャックス〔祥〕「そうだな。そっちの方でいいんじゃないか?今まで、別の人格演じてたし。俺は…お待たせしました、でいいかな。羽生兄妹でーす。」
宿麻「何だ、お前たち!戻れ!」
鴻「なに言ってるの?」
祥「俺たちを雇ったのは博士であって、あんたじゃない。そこを 勘違いしないでほしいよなぁ。」
 祥が嘲るように言う。
鴻「しかも、自分が囮に利用されてるって気付いてないんだろうねぇ。誰からも見放されたのは、あんたなのに!」
榎璃「万里、あれは―祥だよね?」
万里「ああ、でも―」
 万里はそこで一旦言葉を切り、鴻の方を見る。
万里「あれは―鴻か?」

鴻「まったく、なんて哀れなんだろうね!」
 そう言いながら、スーツから自分の銃を取り出す鴻。
鴻「あんたみたいなヤツを、世の中では『不必要』って言うんじゃない?まあ、私らも人のことは言えないけどね。」
祥「鴻、それを言っちゃぁ終わりじゃね?」
鴻「あんたも、あそこでミスらなければ、まだ生きられたかもしれないのにね。」
祥「まあ、なんにしろコイツは近いうちに処分だってさ。」
 ため息をつきながら、祥も自分の銃を取り出す。宿麻「ミ、ミスだと!?普通に、さっきまで普通に話していただけじゃないか!」
鴻「確かに、あんたはそうだろうね―!」
 鴻は宿麻の首を掴み、自分のほうに向けさせる。
祥「…『case-by-case』って知ってる?相手によっちゃ、何が禁句ワードになるかわかんねぇからな?」
 鴻と祥はある方向を手で示す。
鴻「必要とされててないはずないでしょう!私達は―、少なくとも私は!」
 二人が示した方には、万里と榎璃がいた。
鴻「あの二人に会って拾われなかったら、私はとっくの昔に死んでた!今私が生きてるのはあの二人に理由をこじつけているに過ぎない!」
祥「ひでぇなぁ、鴻―」
 笑いながら言った祥だが、その目は笑っておらず、宿麻に向けられたままだ。
 でも、宿麻に顔を向けた瞬間、その笑った表情さえも消えた。
祥「俺だってそうだ。てめぇみたいな下衆なんかに、あの人達の価値なんて分かるかよ。」
宿麻「―っ!解った、謝る!私の発言が悪かった!だから、頼む―銃をしまってくれ!」
祥・鴻「やだ。」
 二人は銃を下ろすどころか、その銃口を宿麻の頭に突きつけた。
宿麻「!!」
榎璃「ちょっ!双子、やめなさい!」
万里「そうですよ!俺らだって、ここから逃げられればいいんですし!」
 二人の言葉を聞くと、双子は顔を見合わせた。
祥「二人の言う事は、出来る限り聞きたいんだけど…」
鴻「『聞く義務がある』ってわけじゃないんだよねぇ…」
榎璃「あんたたち―!」
双子「じゃあ、さよなら。教授―いや、センセイ。」
 双子が銃に弾倉を込める。
宿麻「待て!」
祥「さあ、響け『神威』」
鴻「鳴れ『月夜』」
榎璃「やめ―!」
 『パンッ』
 二つの銃が、火を吹いた。



 ―23時43分 ???―

卯木「博士―ダミーが破壊されたようですが?」
博士「問題ない。『ダミー』はあくまで『ダミー』だ。捨て駒でしかない。」
 二人の前のモニターには、宿麻の死体と、それを見下ろす双子。そして、双子に駆け寄る榎璃と万里が映されている。
博士「やはり、あの二人は組織に必要だな。―あれなら、二人だけで殺れるんじゃないか?」
卯木「………。」
博士「相手がやつでも、な。」
卯木「今、捕獲しますか?」
博士「いや、もう少し放しておく。その間に準備を済ます。」
卯木「解りました。」
博士「ただ…くれぐれも、損害だけは出すな。」
卯木「…はい。」
 博士は、疲れたように頭を抱えた。
博士「待ってろよ…フール。」












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