a cog in machine of the world−I
―10時36分 星宿館会議室―
鴻「…って事なんだ。」
会議室の一番奥にあるホワイトボードの前に立った鴻が話を続ける。
鴻「報酬も前払いってことで依頼受けちゃったわけだけど。」
そう言って鴻は報酬である15万ppを持ち上げて、パラパラとめくってみせる。
鴻の前には、万里・榎璃・祥が楕円形のテーブルを挟んで椅子に座っていた。
鴻「じゃあ祥、概要の説明よろしく。」
『ただ今、会議中』
という札が見る人もいないのに、会議室のドアノブに掛かっている。
11月23日午前1時7分。訓練(survival game参照)の翌日。
事の発端は真夜中にかかってきた一本の電話。
15万ppという大金の前払い。
その依頼の内容というのは―
祥「それじゃあもっかい確認するけど、依頼の内容は『ある場所のコンピュータからプログラムを盗み出す』こと。プログラムの内容は曖昧な部分が多いんだけど、そこの部下でも取り出せないらしいから、一番厳重なロックが掛けられてると俺達は見てる。今、鴻がハッキングをかけてるんだけど―」
榎璃「ハッキング―って…犯罪じゃないの!」
祥・鴻「犯罪なんて…このチームで言う?」
榎璃「う…っ」
万里「そういえば聞いていませんでしたが、依頼者は誰なんです?」
万里のその質問に、双子はピクリと反応して顔を見合わせる。その様子を、榎璃が怪訝そうに顔をしかめた。
鴻「…卯木だよ。橘 卯木。」
そう言ったのは鴻だった。
そのままパソコンから目を離さずに言葉を続ける。
鴻「あ、やっぱハッキングは無理かぁ。なら侵入してデータ取っとかないと…………」
榎璃「え?!何気に無理矢理スルーしようとしてる感ちょっとまって!橘ってあの橘グループの!?」
万里「あぁ、うちのグループに何かと突っかかってくる所の次男ですね。数年前に姿を消したと聞きましたが…」
祥・鴻(何気に知ってるんだなぁ…)
橘 卯木。万屋『Silver Pendulum』のメンバーと、浅いようで深い関係がある青年。
―そして、双子の過去に関わる殺戮養成学園、通称『学園』で今なお暮らし続いている、双子の敵対者。
しかし、榎璃と万里は、おそらくまだこのことを知らない。
万里「で、今回は誰が向かうんです?」
榎璃「いつも通りダーツで?」
一瞬、沈黙が流れる。
祥「今回は…万里と榎璃で。」
榎璃「え?」
万里「俺ら二人…ですか?」
祥「そう。」
榎璃「え…ええええええええええええええええええええええええ!?」
祥「俺と鴻は違う仕事が入ってるから行けないんだよ。」
万里「俺らでは無理があるのでは?」
榎璃「そうよ!あたしたちを殺す気!?」
鴻「確かに、万里には死なれちゃ困るけど…私らで作戦立てたんだ。さっきのハッキングで地図もコピーしたから、大丈夫だと思うよ?」
そう言って、進入ルート・地図・コンピュータの操作方法…それらの書かれた資料を二人の前に放り投げる鴻。
榎璃「そーじゃなくて!」
祥「大丈夫だって。ちゃんと二人の戦力・体力に合った作戦になってるから。」
榎璃「でも!」
なおも反論しようとする榎璃を万里が止めた。
万里「榎璃…あきらめましょう?いつも作戦立ててるのは二人だし、それで失敗したことも殆どない。」
榎璃「う…。じゃあ、一つ聞くけど、万里が死ぬのは困るんなら、あたしが死ぬのはどうなの?」
鴻「万里が困るでしょ。」
万里「確かに困るな。」
そう言って、落ち込んでいる榎璃の頭をなでる万里。
榎璃は、鴻の返答と、万里の慰め方がいまいち納得できず不貞腐れていた。
―23時18分 建物裏口前―
11月26日真夜中11時18分。
星宿館の会議から3日。
今、万里と榎璃は、双子から指定された『依頼』のデータを取るために、目の前の建物に忍び込もうとしている。
建物を囲む塀にかかっている名前―恐らく、この建物『I.J.H.医療健康保険機関』という、白い箱を思わせる巨大な建物の前に、万里と榎璃は立っていた。
万里「こういうのも久しぶりだな。」
榎璃「そうだね。でも、キレて殺すのはナシね?」
万里「わかってるよ。にしても、あの双子…どこ行ったんだろ?」
榎璃「まぁ、いいじゃん。面白そうだし。」
万里「面白そうか…?そういう気持ちもなくはないが、『危険』って感じもするんだけど…。」
榎璃「気のせいだって!むしろ、それを世の中では『面白そう』っていうんだよ。解ってないなぁ万里は。」
万里(いや、むしろお前がな……!)
そう心の中で突っ込みながらも、万里は出発前に双子が言っていた事を思い返していた。
―21時46分 星宿館―
鴻「依頼のデータが入っているのは『研究室』のパソコン。たぶん、建物内にある全てのパソコンとデータは繋がってるはずだから、このプログラムを使えば、それらしいデータを自動的にいくつかコピーするようになってるから。」
そう言って、鴻は一枚の青いCD-Rを二人に差し出す。
万里「そんなに簡単なものなのですか?」
祥「そうでもないよ。見張りがいるはずだしね。でも、時間帯をずらしといたから、鉢合わせになることはないと思うけど…。」
榎璃「もし、どうしても避けきれなかったら?」
万里「殺していいですかね?」
さらっととんでもない事を言う万里。
榎璃・鴻・祥(……………!!)
鴻「だめに決まってるでしょう!絶対にだめ!こっちにも迷惑がかかるでしょ。あ、でも『怪我』を負わせる程度ならいいよ。」
万里「わかりました。」
何故か不満そうに頷く万里。
榎璃(これは、日常会話なの…?)
祥(つか、鴻も概要だけ言えばいいのに…)
「…地図は、こないだの資料に入ってたはずだけど…。」
榎璃「これよね?」
そう言って、ポケットから地図を取り出す榎璃。
榎璃「このマーカーで引いてある通りに行けばいいってこと?」
祥「そういうこと。」
鴻「祥、そろそろ時間じゃない?依頼人を待たせちゃうよ。」
祥「あ、ほんとだ。急がないと…。」
鴻「じゃ、行ってくるね。それと、建物には裏口から入らなきゃだめだよ。」
榎璃「ええ!?ちょっ、待っ…!」
祥「大丈夫だよ。たぶん、シナリオ通りにいくだろうから。」
万里「シナリオ…?」
しかし、双子は逃げるように出て行ってしまった。
―23時21分 I.J.H.医療健康保険機関裏口前―
万里「あぁ、それで合ってる。」
榎璃「うわぁ!?何あんた、読心術?!」
万里「ほれ、行くぞ。」
榎璃「………うん。」
―23時24分 ???―
男1「博士、ヤツらが侵入してきたようです。」
男2「既に、例のダミーは待機させてあります。」
二人の男は、どちらも黒のスーツに襟足を伸ばしていて、一人は紙紐で結い上げている。そして、二人とも深緑のネクタイを締めていた。
博士「ああ、すぐ連れてってくれ。こっちから連絡はしてある。」
『博士』と呼ばれた茶髪で無精鬚をはやした年配の男が、眼鏡を押し上げながら言う。
男1・2「…了解いたしました。」
そう言いながら、二人の男は立ち去ろうとした。
博士「ちょっと待て。」
しかし、博士がそれを制止する。
男1・2「……なんでしょうか?」
博士「今回、スケジュールを変えて君達にこの役をやるように仕向けたのは…君らか?」
男1「…わかっていらっしゃったんですか?」
博士「わかるさ。ついこの間まで私達が面倒を見ていたんだからな。」
男2「連れ戻さないんですか?私らを。」
博士「そのうち…な。それよりも、はやく橘のシナリオにのってやってくれ。あいつらが逃げてしまう。」
男1「…シナリオは貴方が作ったんですか?」
博士「いや、橘だ。…もういいだろう。行け。それとも何か?お前らの商売は客の意に反するほどのものなのか?」
男1・2「…毎度、万屋『Silver Pendulum』を御利用頂きありがとうございます。また会える日まで、博士。」
―そう言って走り去った男達は、深緑色の髪をした双子だった。
―23時24分 I.J.H.医療健康保険機関ホール―
万里「さすがに中も広いな…。」
榎璃「大丈夫だよ。祥達がくれた地図が……………れ?」
ポケットに手を突っ込んだまま、口を閉ざして青ざめる榎璃。
万里「どうした、榎璃?まさか、お前…ベタに地図を―…」
万里もこの状況を感じ取ったらしく、どんどん顔が青くなってくる。
榎璃「えへへ。」
万里の方を振り返る榎璃。
榎璃「地図、忘れちゃった………」
長い沈黙。
榎璃「ど…どーする…?」
万里「どーするったって…行くしかない……だろ?」
榎璃「だよ…ね。やっぱ、行かなきゃ…」
榎璃・万里(殺されるッ……!)
榎璃(特にあたしが…)
二人の脳裏に双子(凶器を手にした守銭奴)の姿が想い浮かぶ。
万里「…行こうか。」
榎璃「…うん。」
―23時28分 I.J.H.医療健康保険機関1番通路―
万里「…なあ、地図もなしにどうする……って、榎璃!?」
榎璃「こっち…かなぁ?……あ。」万里「適当に行くな!迷いたいのかよ!自分が先天的な極度の方向音痴だっていう自覚がないのか、お前は!」
榎璃「いや、違くて…アレ…」
そう言いながら、真横に延びる通路を指差す榎璃。
万里はその先に視線を向けた。その先には…。
万里「あれは…」
榎璃「ギャーーーーーーーーーーーー!!」
万里「五月蠅いな。見つかるぞ?たかが死体くらいで…」
榎璃「たたたたたた…たかがぁ!?」
そう、通路にあったのは死体。それも多数。
万里「お、ちょうどいい肉片があるな。よし、土産に持って帰ろう。鴻が喜びそ―」
榎璃「いや、いいから!喜ばないし!いや、喜ぶかもしれないけど、鴻だけじゃ祥が可哀想でしょ、ね?つーか、テンション高くない?」
万里「じゃあ、祥にはこいつのチョーカーで…」
榎璃「スルーかよ!?ってか、やめなさいって!腐敗は首から始ま―!」
『ごろん』
重量のある何かが転がる音がした。
万里「あ…首が取れ……うおっ!?」
いきなり榎璃に首根っこを掴まれた万里。
榎璃「ほら!もう行くよ!あたしたちは仕事で来たんだから。(棒読み)」
万里「そういや、あそこに血文字で矢印書いてないか?何か見覚えある筆跡だし…たどってこーぜ?」
榎璃「うん、そうだね!(棒読み)」
万里「って、榎璃ー。方向逆だぞー?」
―5分後―
榎璃「これでよし―っと…」
そう言って、榎璃はパソコンからCD-Rを取り出す。
万里「ごくろうさん。」
榎璃「あんたもちょっとは手伝いなさいよ!」
万里「…この警報機が鳴ってるのは誰のせいだったかな?でかい叫び声あげて…」
榎璃「うっ…だって…」
ここは研究室。
どうやら、二人は何事もなく(?)目的のデータが入ったプログラムを盗れたようだ―
と書きたいところなのだが。
建物中に警報ブザーが鳴り響き、おまけに全てのブレーカーまでも落とされている。
万里「しっかし、よかったなぁー。祥がくれた懐中電灯とパソコン用のバッテリーがあって―ん?」
榎璃「『しっかし』じゃないわよ!人が来る前に行くよ!」
万里「そうだな。でも、けっこう時間かかったし、やっぱここはベタに―」
万里が言い終わる前に、研究室の扉がバタンッと勢いよく開けられた。そして、研究者らしい白衣を着た白髪交じりの背が低い男と、―そのSPだろうか。暗くて顔は見えないが、黒のスーツを着た若い男が二人入ってきた。
SP1「教授…こいつらです。侵入者とお伝えしたのは。」
SP2「間違いありません。」
『教授』と呼ばれた白髪交じりの男が万里と榎璃を睨みつける。
教授「誰だ、お前達はっ―!」
榎璃「…やっぱベタに――見つかっちゃうんだよねー……。」
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