a couple of affair-IV
―異界 ???(万里)―
万里「鴻ー…」
なんとかバイクから逃げおおせた万里。
しかし、何処を探せど一向に鴻は見つからない。
いくら喧嘩中とは言え、榎璃と祥は別の所にいるのだ。
鴻を探すしかない。
『パチン』
指をはじいたような音がする。
パッ、と万里にライトが当る。
頭上からの円錐形の光。スポットライトのような光が。
そして―
『パチン』
もう一度、指をはじいたような音。
続いて、万里の後方に別のライトが当る。
そこには、一人の少女。
襟足の長い深緑色の髪、華奢な体格。
反対側を向いているので、顔は見えない。
が―
万里「…鴻?」
万里がそう声をかけると、それに反応するように振り返り、その少女は万里を見た。
?「鴻、とき、―羽生 鴻。…何と懐かしき名前でしょうか。」
その人物は、深緑のウルフカットの髪に右の青緑の目をした少女―鴻だった。
いや、鴻のような少女だった。
しかし、その顔には左半面を覆うような黒い刺青、そして、その青緑色と対を成す緑色があるはずの眼球には―
瞳が無かった。
万里「―じゃないみたいですね。君は…誰です?」
?「私…私は羽生 鴻。あなたは…佐藤 万里、ですよね?」
その『鴻』はそう言った。
鴻『正しくは羽生 鴻のクローンと言うべきなんでしょうけど…まあ、今はそんなこと関係ありません。』
万里(クローン…学園の出か!!)
鴻『こんにちは。あなたを消しに来ました。』
そう言って、『鴻』は小さく微笑んで見せ、両手に持ったジャマダハルの切っ先を万里に向けた。
―現世 20時41分 榎璃の部屋―
榎璃「え…ぇえ!?どーしよ祥!」
祥「心配ないよ…あの黒いのは俺が仕組んだんだ。ちょっと…シナリオを立ててね。途中までは上手くいってたんだけど…」
祥は黒い箱を弄りながら言う。
榎璃「…また、乱闘?」
祥「うん…ちょっと。」
祥は玄関の方に目を向ける。
祥「邪魔が入ったみたいだね…」
『ピーン ポーン』
チャイムが鳴る。
榎璃「…来た、の?」
祥「らしいね。出なくていいよ。どうせ、あいつは…」
『ガシャン―』
榎璃の部屋の窓ガラスが弾け飛ぶ。
榎璃「―!?」
その後に、一人の少年が部屋に飛び込んで来た。
深緑色で、伸ばした襟足を紐で結っている少年。
顔の左半分には刺青を入れ、青であるはずの左目瞳が無い―
祥そのもののように、そっくりな。
祥「榎璃…来客用の紅茶は必要ないよ。この場で仕留めっから。」
そう言って、祥はベルトの背中から三節槍『九曜』を抜いた。
―異界 ???(鴻)―
鴻「―っ!」
鴻は目を覚ました。
また、闇の中で寝そべっている。
鴻(最初の場所か…?)
万里『第二ラウンド…スタート!』
『万里』が近くにいるらしい。声が聞こえた。
『パチン』
指を鳴らしたような音が聞した。
明かりがつく。
そこは、学園の地下にある訓練場だった。
鴻「ここは―!」
コンクリートに囲まれた円形の何もない、だだっ広い部屋。
鴻は確信した。
あの暗闇が、何を意味する物なのかを。
鴻(でも、何で学園のトップしか持ってないアレをこいつが―)
万里『さあ、いきますよ。』
『万里』が長刀―『青麻』と見える物を構える。
鴻「しょうがないね―」
鴻は、ベルトの背中に付けていた物の布を解く。
すると、中から一対の円月刀―『金木犀』『銀木犀』が現れる。
『万里』は長刀を向けたまま、鴻の後ろに回り込んだ。
『ガキン』
金属同士がぶつかる音がして、振り返った鴻の『金木犀』に当たった。
万里『チッ―!』
一度離れ、助走をつけて飛び上がる『万里』。
鴻「―!?」
鴻は一瞬、その姿を見失った。
『ザクッ』
刃物が刺さる、鈍い音。
見ると、『万里』が鴻の右肩を長刀が貫いていた。
鴻「―っ…!」
万里『攻撃、してみてくださいよ。』
―異界 ???(万里)―
『鴻』がジャマダハルを繰り出す。
万里「―っ!」
万里は長刀―『青麻』でそれらを防ぐ。
二つの刃物の間で、火花が散った。
鴻『その長刀…丈夫ですね。』
万里「ええ、特注品ですから。」
鴻『折るのは無理そう…っと。』
ため息をつく『鴻』。
鴻『じゃあ…』
一気に、万里との間合いを詰める。
『ガキン!』
鴻『弾き落とすまで!』
万里「くっ…!」
長刀が弾き落とされる。
鴻『もらった!』
『鴻』が右手のジャマダハルを振りかぶる。
『どすっ』
服に血が飛んだ。
しかし、『鴻』の腹部から。
鴻『―!?な…!?』
『鴻』の腹部には、肘のあたりまで血に染めた万里の左手が突き刺さっている。
万里「何、油断してんですか?それじゃあ、鴻のクローンなんかじゃないですね。」
鴻『…あなたを見くびっていました。』
『鴻』は、万里の腕を引き抜き、腹部を手で抑えつつ離れる。
そして―消えた。
万里「え…っ!?」
次の瞬間。
『 』
何が起こったのか、何が聞こえたのか、何が見えたのか、万里には解らなかった。
鳩尾に、熱い―冷たいものを感じる。
床に、赤い液体が落ちた。
下を見ると、自分から銀のジャマダハルの切っ先が覗いていた。
鴻『全く―向こうの羽生 鴻は、あなたに何を教えたのですか?』
―現世 8時44分 榎璃の部屋―
?『こんばんは、祥。』
祥「まさか―自分…いや、自分だったやつに挨拶されて、それを片付ける日が来るとはね。」
榎璃「ちょっとっ―何なのよ、これ!」
祥「あいつは羽生 祥。俺のクローンだよ!」
そう言うが早いか、祥は『祥』へ三節槍を繰り出す。
『祥』は居合抜きのように反った日本刀を抜き、弾き返す。
祥「ここは不利だな…」
祥『そちらは…榎璃さんですか?』
榎璃「はいっ!?」
祥『怪我したくなければ―手を出さないことですね。』
祥「同感。榎璃、手ぇ出すなよ。」
二人の祥がそれぞれの得物を榎璃へ突き付ける。
榎璃「りょ…りょーかいしました。」
自然と榎璃は両手を上げる。
祥「こっち来い!」
祥はそう言うと窓から飛び出す。
榎璃「ちょっ!ここ五階―!」
しかし、祥は外へ開いている窓に乗り、上―屋上へ跳んだ。
榎璃「ええ!?」
榎璃が呆気に取られている間にも、『祥』も祥に続く。
榎璃「っそ―!」
榎璃はというと、隠し階段を使って無難に上がった。
さて、榎璃が屋上に上がった頃。
二人はすでに刃を交えていた。
『カン!』
祥がそこらへんにあった鉄パイプを蹴り上げ、野球のバッターがボールを打つように槍の柄で叩く。槍の使い手としてあるまじき行為だ。
その鉄パイプは尖った先端を向け、『祥』へ飛ぶ。
しかし。
『祥』はそれを空中でスパッと切り落す。
祥「さすが俺。やっぱ一筋縄じゃいかないか?」
挑発的に祥が言う。
祥『心外だなぁ…後から造られた方が、改良されてるに決まってるだろ?』
祥「はぁ…残念だ。」
祥は小さくため息をついた。
祥「性格は馬鹿なアイツ寄りなのか…」
―異界 学園地下訓練場―
万里『もう終わりですか?』
『万里』が続けて長刀を振る。
鴻「まったく―本物かどうかもわからずに戦うなんて…」
鴻が円月刀を盾にしながら言う。
鴻「……『万里はこんなヤツじゃない』とかって言えるようになっとけば良かった。今まで何してたんだって感じだよね。」
万里『全くですね。』
『びっ』
布が裂ける音がして、鴻はまた、右腕に怪我を負う。
鴻の右腕は、先程と今の攻撃で完全に垂れ下がっていて、到底使い物になりそうにない。
万里『スピード…遅れてますよ?』
『万里』が一気に間合いを詰めて、鴻に長刀を突き刺そうとする。
鴻は長刀を握った『万里』の右手首を円月刀の腹で思いっきり叩いた。
『カシャン』
音を立てて、『青麻』が滑るように転がる。
万里『痛っつ―っ!』
仕返しとばかりに鴻を思いっきり蹴る『万里』。
思いきり腕を振り、体勢を崩した鴻の腹部にヒットする。
鴻「っ―!」
『万里』はそのまま後ろへ跳び、距離をとった。
万里『そろそろ―終わりにしましょうか。』
『万里』はにこりと笑う。
そして、腰のホルスターから銃を一丁取り出し、片手で鴻に向ける。
万里『こんなに遠いと死に様がよく見えないから残念だが、仕方ないですよね?』
鴻「ああ…もう…無理…なの、か…」
腕からの出血で既に貧血状態に陥っている鴻は、ガクリとその場に膝をつく。
鴻「……え?」
“こんなに遠いと死に様がよく見えない”?
鴻の脳裏に、現世での万里がふっと掠めた。
鴻「は…はは…」
笑い出す鴻。
万里『何です?苦しまないように撃ちますから、動かないでくださいよ。それとも―やっと死ねるから、嬉しいんですか?』
鴻「なーに言ってんの?」
鴻はユラリと立ち上がる。
『金木犀』を持った右腕は垂れたまま、首の力が抜けたように横にかしげた状態で仁王立ちになる。
鴻「万里に謝ってからじゃねぇと死にきれねえよ。」
下ろしたままだった『銀木犀』を『万里』にピタリと向け、にぃ、と笑う。
鴻「It's a showtime!」 |