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禁断症状
作:百合茶


気分が悪い。また手が震えだして体が言う事をきかない。早く、早く探さなきゃ。この症状を止める、唯一の特効薬を…。
どこかしら?アレは一体どこに?…机の…上かしら?でも、でも手が…


「だっ、大丈夫ですか!?」
誰もいないはずの病室で、女性が苦しそうに這っていた。震える手で必死に花瓶を取ろうとしている様子から、アル中患者と思われる。
「可哀想に。目に映る瓶は全て酒に見えるんだな。」
しかし…なぜ患者がこんな所にいるのか?ここは先週まで普通の大部屋だったが、精神病患者が身投げしたので、安全のための格子の設置工事が終わるまで、一階の診察室以外は新館に移っているのだ。
どうして、どうやってここまで来たのか分からないが、このままでは危ない。とりあえず元居た病室に連れ帰ってやらないと…。
「さ、行きましょう。手を掴んで…」
体を支えて立たそうとするが、彼女の目に僕は映っていないようだ。
「苦しいのは分かるよ。楽にしてあげるから、僕の手を…」
背中をさすりながら優しく話かけると、花瓶に伸ばしていた手が急に止まり、僕の目を捕えた。助けを求めるように、瞬きもせず僕だけを見つめる。
「ほん…と?」
安心させるため、僕は無言で頷いた。
「欲しい…アレ…」
しかし彼女はすぐに視線を花瓶に向けた。そして、もどかしそうに腕を動かし、執拗に花瓶を求めた。
よく見ると、枯れかけた花が生けられている。
もしかすると彼女は、身投げした患者同様、精神を患っているのかもしれない。
「ほら、これと一緒に部屋に帰ろう。」
欲しがる彼女へ、花瓶から一輪の花を抜き取った。
と、その時、彼女の腕が今までの動きとは明らかに違う素早さで、がっしりと僕の腕を掴んだ。
「ど、どうし…」
言い終わらないうちにそのままぐいっと彼女の方へ引き込まれた。恐ろしい形相で僕を見つめる。僕だけを見る。鼻筋の通った白い顔が美人である事を証明しているが、それ以上に乱れた髪と黒ずんだ爪と狂気に血走った目が僕を捕えて動けなくした。
「取って…早…く」
しわ渇れた声で彼女が囁く。僕は彼女から震えが伝染したのか、左手に花瓶、右手に枯れた花、その腕に彼女をつけたまま震え始めた。恐怖に腰が抜けて動けない。
「ひっ!」
ゆっくりと彼女の腕が僕の体を這って、少しづつ体重をかけ始めた。そしてようやく左手の花瓶に手が届くと、安心したように笑いかけた。
ちょっと僕も安心して力を抜いた。
途端、後頭部を襲った打撃。耳をつんざくような激しい破壊音とともに僕の悲鳴がズキズキ響く。彼女を突き離して地面に手をつくと、頭を触らなくてもぽたぽたと垂れ落ちる花瓶の水が、だんだん赤く染まっていく。
どくどく波打つ脈が心臓から腕の動脈、こめかみへと移動し、傷口を刺激する。
「そう、これ…簡単にはやめられ…ない…のよ。」
彼女の悲鳴のような笑い声が聞こえる背後から、ズキリ、ズキリと割れた瓶の切っ先が当たる。左の肩や腕へ続く筋繊維や血管が、ずたずたに切り裂かれるのが分かる。耐えられずに地面へ伏っした瞬間、最後の一振りが僕の鼓動の根源を捕えた。
カチリと音がして、地面にボールペンが落ちる。


×月×日、午後23時14分。今度は忘れないよう、しっかり手帳に記録しておかないとね。…次は再来週の火曜日までに殺れば表れないわね。
人を殺さないと気が済まない、禁断症状。


殺人中毒に禁断症状…
そんな人がいたら困ります(汗)
最後までありがとうございました。













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