断薬生活 2
菊水はこの町で生活を始め半年を過ぎようとしていた。
住めば都でこの町にもすっかり慣れた。それなりに楽しさと充実感を味わいながら生活を送り、先月には格安の軽自動車を購入した。休みの日はドライブがてら海岸まで行き日焼けをするのがささやかな楽しみになっていた。
ある休みの前日に、社員の男が菊水に話かけてきた。初めて菊水に仕事を教えたあの二十歳位の男だ。
「菊水さん、今夜飲み会があるんですけど菊水さんも参加しないですか?」
いつの日からかさん付けで呼ぶようになり敬語で話してくるようになっていた。その後ろには部長もいた。
「菊水君、たまには酒でも飲んでざっくばらんに話しようじゃないか。」
二人にそう言われ菊水も快く参加すると返事をしていた。
仕事が終わり近くの居酒屋に集まった。十数人は集まっている。職場の連中と飲むのは初めてだった。
飲み会が始まり菊水に酒を進めようと人が集まりとても楽しい時間を過ごしていた。
酒もガンガン飲んだ。
菊水の周りには珍しがられてるのか人が集まってくる。いろんな話をして盛り上がっていた。初めて見る事務員の女の子も寄ってきてお酌をしてくれる。話も弾み気分よく酒を飲み、この飲み会を楽しんでいた。だいぶ酔いが回ってきた頃だった。菊水は数人の社員の若い男達と話をしていた。みんな酔っている。菊水もだいぶ酔っ払っていた。
一人の男が問いかけてきた。
「菊水さんて東京のお店で働いてたんですか?」
「そうだよ、西麻布にあるバーだったんだけど六本木から歩いても行ける所だよ。」
菊水が答えると
「六本木かっこいい、俺行ったことないなぁ、行ってみてぇ!」
「芸能人とかくるんですか?誰来ました?」
若い連中は菊水の話に興味を示しいろいろ話を聞いてきた。菊水も得意気に答えている。菊水はすっかり気分が良くなり東京で働いていた華やかだった頃を思いだしていた。
「ずっとここで働くんですか?いずれ東京戻るんですか?」
一人の男がこんな事を聞いてきた。
菊水は思わずこう答えてしまった。
「こんなところにいつまでもいねぇよ!」
若い連中の会話がとまる。気まずい空気が流れる。
菊水はあっヤバい、失言だと気がついた。
社員の連中の前で地元の人達の前で、こんなところにいつまでもいねぇよと言ってしまった。
部長にも聞こえていた。
菊水に部長が語りかけた。
「こんなところと思うかもしれないが、みんなこの土地で生まれ育ちこの職場で真っ黒になって体はって働いているんだ。よそ者にこんなところと言われたらみんな面白くねぇんだ!こんなところでもいいところはいっぱいあるぞ!」
菊水は焦って必死に弁解する。
「いゃ、あのへんな意味で言ったんじゃなくて、この土地気に入ってるし好きだし仕事も頑張ってるしあのぅ…」
もう遅かった。菊水の周りには誰もいなくなっていた。幹事がしめの挨拶を始めている。そのまま飲み会は終わってしまった。
部長と若い連中は二次会へ行ったようだ。菊水に声はかからなかった。
大失言だった。菊水は一人アパートに帰った。
「俺はここ好きだよ、気に入ってるよ、誤解だよ、クソーおもしろくねぇなぁ」そういいながら缶ビールを飲みだした。半分も飲まないうちにそのまま寝てしまった。
月曜日になり職場に入り菊水はいつものように挨拶する。
「おはよぅーす。」
最初に顔を会わした男は、なにも言わずその場を離れた。あれ忙しいのかなと思いさほど気にせずもう一人の男に挨拶する。なにも言わない。目も合わせない。菊水は気がついた。飲み会で言ってしまった事か、根にもたれてしまったのか
菊水は落ち込みながら仕事を始めた。仕事中も休憩中も誰も話かけてこない。
無視されている。翌日も同じだった。そのうち菊水も顔を会わしても挨拶などしなくなる。自分から話かけたりもしなくなってくる。そうして隔たりがどんどん深まっていった。いつのまにか菊水は完全に孤立してしまった。
こうなってしまうと仕事のやる気も失せてくる。外へ出てものんびりしていい町だなと思っていたのが何にもない不便な町だと思うようになる。ここでの生活が退屈なだけに思うようになってしまっていた。
菊水はくやしかった。
決意を固めて東京離れこんなに頑張っているのに。みんな誤解してる。わかってくれ!
そんな思いだったがなかなか伝わらなかった。
ある休みの日気分転換になるかなと思いレンタルビデオ店に映画のDVDを借りようと店に入った。
新作の見たかった映画は全部レンタル中だった。
旧作のコーナーでいろいろ探し始めている。
「気分が晴れない日はコメディでも見るか、スカッとするアクション物にしようか」
決められず店内をウロウロしているとアダルトコーナーが目にはいる。菊水は吸い込まれるように入っていった。
目の前に広がる裸の女達がこっちを見ているようだ。
「最近のAVは可愛い子ばっかりだ、うわおっぱいでっかっ!こっちの子のおっぱいの形アヤカに似てるな。むしゃくしゃしてる日はAV借りてやる。」
そんな事を思いながら物色していた。
「可愛いだけじゃなくて内容も過激だ、すげぇこんな事してる。」
菊水は興奮しながらアダルトコーナーの店内をうろつく。今度は最新作コーナーを見ていた。
「ギャル系のAV嬢が最近は多いな。なんかこの女ルシアに似てるなぁ、そっくりじゃん、んーっ!もしかしてこれルシアじゃないの!」
菊水は焦ってパッケージを手にした。
顔はそっくりだ。そして体を見ると胸がでかい。巨乳だ。
「あーびっくりした。違った、良かった。ルシアの胸は小さい。ルシアは今頃結婚して幸せに暮らしてるはずだしそれにしてもよく似てるなぁ。」
菊水はパッケージの写真をじっと見つめる。なんていう名前のAV嬢か気になり、パッケージをくまなく見る。
名前を見て驚愕する!
「なぁにぃー!菊水ルシアーっ!!」
このAVギャルは菊水ルシアという名前だった。
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