女心
ルシアはまだ菊水に気がついていない。
菊水のいる方に歩いて近づいてきた。一度顔を見たような素振りをしたので菊水は手を振った。ルシアは気づいていなかったのか菊水がいるところと違う方向に歩いて行った。
「あれ無視されたのかな、捕まった事知って避けてるんだろうか、でもなんで目黒に来たんだろ。」
菊水は不安ばかりが先にくる。
小走りで近づきルシアに声をかけようとした。
ルシアもやっと気がついた。
「あっ菊水さん。」
ルシアは一瞬びっくりしたようだがすぐ笑顔を見せた。菊水はルシアの笑顔を見て安心している。
二人は近くのカフェに入った。
菊水は部屋に連れて行こうとしたがルシアは時間がないと部屋に行くのを断っていた。
「菊水さん、捕まってたんでしょ。」
ルシアは知っていた。川島が教えたのならしょうがないと思っていたが聞いてみた。
「川島さんは何もいわないよ、事情あって休んでるって言ってた。ルシアだいたいわかるよ。」
ルシアはしゃべり続ける。
「ルシアね、デリやめた。今度から昼間働くんだ。あと薬はもうやってないよ、ていうかもうやらない!菊水さんは又やるの?」
菊水は答える
「もうやらないよ。」
ルシアは話続ける。
「ルシアね、カレシできたんだ。」
はにかみながら嬉しそうに話す。
菊水は当然気になる
「えっそうなの、どんな彼氏?どんな人?どこで知り会ったの?」
ルシアはニコニコしながら
「なんかねぇ菊水さんにちょっと似てる、菊水さんを真面目にして健康的にした感じ。」
照れ笑いしながら菊水を見ている。
「ここ、目黒で知り合ったの。菊水さんいなくなっちゃて心配で菊水さんの部屋に何回も来てたんだよ、あっ薬欲しくてじゃないからね、まぢだよ。今日もいないって思って帰る途中ケータイ見ながら歩いてたら男の人とぶつかってルシア転んじゃたのね、大丈夫とかいってくれて、その日はそのまま帰ったんだけど次の日又目黒に来てたら偶然その人と会ったの、昨日はごめんねとか言ってきてコーヒーごちそうしてくれたんだ、それから仲良くなったんだよ。真面目でいい人なんだよ。」
菊水はくやしい思いがこみあげてきていた。捕まってる間にルシアが心配して来てくれて、その帰り目黒で知り合っただなんて、彼氏に嫉妬していた。ルシアが可愛くてしょうがない。他の男にとられたくない!そういう心境になっていた。
菊水はとっさに思わずこんな事を口走ってしまう。
「ルシア、その男とはまだ付き合いはじめたばかりだろ、別れて俺と付き合ってくれ!薬もやらないしやらせない。大事にするから!」
ルシアはびっくりした。
一瞬時間が止まったようだ。ルシアは一呼吸おいて
「菊水さんおそいよ、もっと早く言ってくれないと。ルシアはついこの間まで本当に好きだったんだから、その時言ってくれたらルシア超喜んで、すぐ菊水さんのカノジョになってたのに、おそすぎるよぉ。」
菊水はへこみまくりだ。
ルシアが話題をかえる。
「ルシア昼間働くの楽しみにしてるんだ。ルシアね、ホントは昼間普通の仕事して、ごく普通の生活がしたかったの。普通の生活に憧れてたかもしれない。今度働くとこね、カレシのお母さんが雑貨屋さんやっててね、そのお店で働くんだよ。」
「えっ彼氏のお母さんって会った事あるの?もう紹介されたりとかしたの?」
「もう何回もあってるよ、カレシのお母さん優しくしてくれて好き。」
「そうかぁもうそんなつき合いをしてるんだぁ。」
そう言ったあと、すっかり口数が減ってしまった。菊水はクラブとかセンター街あたりでナンパしてきた遊び人の男だろうぐらいに思っていた。捕まっている間に、たった3ヶ月位の間にルシアは、変わってきている。成長している。大人になったと感じた。
「なんか元気ないよ、どうしたの?」
そう言ったあと、ルシアは時間を気にしはじめている。ルシアは彼氏と待ち合わせをしていた。
「菊水さん、そろそろここ出よう。」
二人はカフェを出た。
「菊水さん、元気だしてね、じゃあね。」
ルシアは彼氏との待ち合わせ先に向かっていった。
菊水はひとり寂しく家に帰ろうとする。ルシアの彼氏はどんな男なのかどうしても気になる。菊水はルシアが待ち合わせしてる場所の方へ向かって歩き出していた。
ルシアがいた。ルシアはエスプレッソカフェの店の中に入っていく。菊水は気がつくと店の入口まで来てしまった。ルシアが店からすぐ出てきた。菊水と目があう。
「あれ、菊水さんどうしたの?」
ルシアがいった直後男も出て来た。
ルシアの彼氏は菊水の存在に気づいた。
「お友達?知り合い?」
彼氏はルシアを見て聞いている。すぐルシアは
「うん、西麻布のバーでマネージャーしてて、ルシアよく行ってたの。昔ルシアの憧れの人だったんだよ。菊水さんっていうの。」
ルシアは臆する事なく彼氏に紹介した。するとルシアの彼氏は
「あぁそんなんですか、僕は安藤といいます。ルシアはお店でわがままいったり困らせたりとかしなかったですか、お世話なりました。じゃ失礼します。」
彼氏は丁寧に礼をしてルシアとタクシーに乗りどこかへ行ってしまった。
ルシアの彼氏は、真面目な好青年だった。
仕事帰りでビジネススーツだ。菊水と背丈や体格は同じ位年も一緒位だ。丁寧に挨拶されると印象は悪くない。
複雑な心境で家に戻ったのだった。
菊水は、近くにいたはずのルシアが手の届かない遠くへ離れて行ってしまった。そんな気がして寂しくてたまらなかった。
菊水はアヤカにはまだ連絡をしていなかった。
アヤカも心配してるだろうし菊水もシャバに出たらすぐ連絡はしようと思っていたのだが連絡するのを躊躇していた。
菊水の頭の中には、アヤカの声を聞けば会いに行きたくなってしまう。アヤカに会えば薬をやりたくなってしまう。やりたくなって目の前に薬があったら絶対やってしまう。そんな不安があった。
シャバに出てきて気分が晴れない日が続いていた。
菊水はあまり外に出なくなってしまった。引きこもり状態になっていた。
ソファーに寝転びながら、アヤカの事思いだす。
このまま連絡とらない方がもしかしたらいいのかも知れない。でもいつかはアヤカから連絡が来てしまうだろう。それでも自分から連絡するのはやめよう。
もう、思いきってアヤカの電話番号を削除してしまおうか、それがいい。
そう思い起き上がり携帯を手にする。
アヤカの電話番号の画面をだした。
あとは削除を押すだけだ。なかなか押せないで長い間画面を見つめている。思いきって削除を押した。携帯を放り投げ又ソファーに寝ころぶ。
これでいいんだ。そう思い寝ながら煙草を吸い始めた。一本吸い終わると床に転がってる携帯を拾い携帯を開いた。なんと画面には、本当に削除しますか、はい、いいえ、確認の画面が表示されていた。まだ削除されていなかった。菊水は又携帯画面を見つめて考え込んでいた。
いや、アヤカには捕まった事を話してシャブはやめた、もうやらないってちゃんと話しすればいいんだ。そうだ、それだけの事だ。
深呼吸をして、気合いをいれる。
菊水はアヤカに電話をした。
アヤカはすぐ出た。
「菊水ちゃーん、連絡待ってたの、心配したよぉ。」
菊水はその言葉がうれしかった。でも冷静に話をした。
「実は新宿で待ちあわせた時、俺捕まってこの間出てきたばっかなんだ。」
「やっぱりそうだったんだ。連絡取れないからまさかとは思ったんだけど菊水ちゃんかわいそう、大丈夫だった、体調崩してない、もう落ち着いた?元気だすのよ、落ちついたら会おうね、私の顔見たら元気になるわよ。あっ体を見たらかな、アッハッ、菊水ちゃんの顔が見たい、早く会いたいわ。」
アヤカは前と変わらず優しく明るく接してくれてる。励まそうとしているのか?責任を感じているのか?
菊水はアヤカの声とその受け答えに心が和んでいた。アヤカと会いたい気持ちが湧き出てきた。
でも菊水は意を決しこういった。
「俺、薬はやめた。もうやらないと誓ったんだ。だからアヤカとはもう会わないよ。」
アヤカの返事は菊水の想定外だった。
「えっ何言ってるの?菊水ちゃん、言ってる意味がわからない。」
菊水はもう一度いう。
「だから薬はやめた。もうやらないからアヤカとも会わない方がいいって思ったの。わかってくれ。」
「菊水ちゃんが薬やめたのはわかったわ。それと私と会わないってなんの関係があるの?それがさっぱりわからないわ!」
「アヤカと会えば今まで必ず薬やってたし、会ってアヤカの顔みれば薬思いだして絶対やりたくなっちゃうからもう会わないって決めたんだよ!」
菊水はちょっと口調が強くなる。
しかしアヤカはもっと口調が強かった。
「何勝手に決めてんのよぉー!じゃあ私の気持ちはどうなるの?私は会いたいのよ、菊水ちゃんとこれからも会いたいのよ、連絡取れなくなってどんだけ心配したと思ってるのよぉ、勝手な事言いださないでー!」
アヤカは興奮してきている。更に
「私の顔みたら薬やりたくなるって、じゃあなに菊水ちゃんは私の顔が、でっかいガンコロにでも見えるとでも言うのぉー!!失礼な事いわないでっ!」
菊水は圧倒されてしまった。
「ガンコロに見えてるわけじゃなくて…」
アヤカはとまらない
「だから、薬やめるのはわかったわ、それで私と会わないって言うのはおかしいでしょ、筋が違うでしょ、会って薬やるもやらないも菊水ちゃんの意志でしょ、今までだってやりたいって言うからやらしてたんじゃない。私押さえつけて無理矢理打ったりなんかしないわよぉ!」
菊水は興奮しているアヤカをなだめるように薬をやめたいだけなんだと会話を続けた。
「やめるって言うのはわかったって、菊水ちゃんがやめようとしてるなら協力するわよ。」
アヤカは少し落ち着いてきたようだ。
でも菊水はアヤカにまくしたてられ押し切られたような感じだ。
又連絡するからとアヤカにいい電話をきった。こういう展開になるとは思ってもいなかったので困惑していた。
翌日アヤカから電話があった。元気だすのよと励ましてくれてる。仕事も今してないと言うとお金貸してあげるからいつでも会いにきてと言う。そしてアヤカは最後にこういった。
「今電話で話をして菊水ちゃん、薬やりたくなった?ならなかったでしょ、ねっ菊水ちゃんの気持ちしだいなんだからね、じゃ又ね。」
そう言って電話を切った。確かに今電話してた時は、薬がやりたいって気にはなってはいない。でも不安はもちろんあった。
アヤカは薬をやめる気はないだろう。
アヤカがやめようと思ったとしても竜次との関係が終わらないかぎり無理だ。
なぜアヤカは会わないと言ったらあんなに怒り出したんだ。
アヤカの事を考えている。
「もしかしてアヤカは、俺がルシアが遠くへ行ってしまったような気がして寂しく感じたように、アヤカも俺が遠くに行ってしまいそうな不安や寂しさを感じたのだろうか、それとも…」
菊水を悩ます不思議な女、アヤカ
菊水に薬の快楽を教え与え続けた女、アヤカ
菊水の性的欲望をすべて満足させた女、アヤカ
天使なのか悪魔なのか?
女神なのか疫病神なのか?
菊水はその答えが出せない。わからない。
悩んでばかりだ。
アヤカと薬をひとつとして考えている。
菊水が完全に薬を断つ事ができれば、それができればおのずと答えはわかるはずなのに…
菊水にその日は訪れるのであろうか
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