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シャバ・断薬・苦悩
留置場生活にもだいぶ慣れてきた。新宿署の留置場には毎日たくさんの逮捕者が入ってくる。菊水はもう古株だ。新入りに
「何やったの?シャブ?」
とか聞いて先輩づらをしている。傷害、窃盗、強制わいせつ、スリ、いろいろな事犯で入ってくる。でも覚せい剤が圧倒的に多い。
新宿は犯罪都市、そして覚せい剤の街だと菊水は思う。

この日菊水は東京地検に移送され検事から最後の調べをうける日だ。そして起訴か不起訴かが決まる。起訴なら拘置所行き、不起訴なら釈放だ。
もしかしたらとわずかな期待を持って検事調べにのぞんだ。
検事の前に連れていかれる。
菊水の顔を睨み調書を読んでいる。
検事の質問が始まった。

「六本木で初めてあったイラン人らしき外国人から、一万円で買った。調書にはこう書いてあるがこれは事実なのか?」

「はい、事実です。」
菊水が答えると疑いの眼差しで見ている。

「ほーっ随分と気前のいい外国人の売人がいたんだなぁ、相場より相当安い値段だぞ、しかし君が持ってた覚せい剤は綺麗な結晶で相当いいものだな。六本木で外国人の売人はこんなにいいものを随分安く売って歩いてたのか、出回ってる覚せい剤はもっと不純物が混じってるんだけどな。おい、本当に外国人から買ったのかね?」

菊水は相場の値段がわからず一万円で買ったと新宿署の取り調べで答えてしまい、それを押し通していたのだった。

「はい、調書に書いてある通りです。」
そう答えるしかない。

「君はヤクザに脅されているのか?誰かをかばっているのか?こんなにいいやつは末端には出回らないぞ」

その後も突っ込んだ調べが続いたが菊水は調書に書いてある通りといい続けた。

「反省してるのか?今後覚せい剤に手を出さない自信はあるのか?」

「二度と覚せい剤には手を出しません。反省してます」

この時は本当に覚せい剤にもう手を出さない、と思っていたのだった。
検事調べが終わった。検事の心証は相当悪い。
結果は当然起訴された。数日後は拘置所に移送された。
拘置所の生活は留置場とは比べものにならない程厳しいものだった。

菊水もだいぶ慣れてきた頃、同房のがっつり墨の入った男がしみじみと喋りだす。

「あー早くシャバへでてシャブやりてぇなぁ!今入れたらすげぇよな!」
隣りに座ってる若い男と話始める。
「やりたいっすね、俺シャバへ出たら真っ先に打ちますよ。」

刺青の男は菊水に話かけてきた。
「なぁ早くやりてぇよな。」

「まぁ、思い出すとやりたくなっちゃいそうだから、シャブのあるとこに近づかなきゃやめれるかなって思ってんすけどね。」
菊水がそう言うと刺青の男は

「やめようと思ってんのか、偉いじゃねえか、ここに居りゃそう思っても、シャブ覚えた奴はシャバ出りゃやりたくなって必ずやるんだよ!なぁ」

若い男とシャブの話を続ける。
菊水は二人のシャブの話を聞いてると入れた時の感覚を思い出してきた。シャブを入れたくなってくる。
脳が覚えているのか、体が覚えているのか、やりたくなってたまらない。いつのまにか菊水もシャブの話に入りこみ、三人はシャブセックスの話で盛り上がりだした。

「やっぱり変態セックスするでしょ?」
若い男は菊水に聞いてきた。
「もちろんでしょ、顔にマンコ押しつけられて舐めまくってたよ、濡れまくって鼻の穴にまん汁溜まって呼吸困難になったよ。」

大笑いしている。若い男は
「キメセク相手いていいな、俺個室ビデオ屋でエロDVDにハマって気づいたらオナニーホールはめたまま12時間以上たってた。オナホもいつのまにか五個も買ってた。そのあと又ビデオ屋に入ってしまってさー。」菊水も刺青の男も笑いだす。
「オマンコにバイブ入れてチンコふやけるまで舐めさして、あー早く女とやりてぇな。」
こんな話で盛り上がったりすると辛い拘置所生活に楽しみのひとつを見つけだしたようだった。

拘置所生活も月日が流れ菊水は
裁判も終わりあとは判決の日を待つだけとなる。待ちどうしくってたまらない。

そしてやっと判決の日が来た。
執行猶予がつけばシャバにでれる。もし出なければ、刑務所行きだ。


判決は、
懲役一年六ヶ月 執行猶予三年

これが菊水がいい渡された判決だ。菊水は、執行猶予の判決にほっと胸をなでおろしていた。


そしてやっと約二か月半振りにシャバへ出た。


嬉しくてしょうがない。自然と顔がほころぶ。足どりが軽やかだ。スキップでもやりだしそうだ。
煙草を吸う。クラクラする。でも嬉しい。
喉が乾き自動販売機でコーラを買う。
うまい!一気に飲み干した。
そして道行く女達を見ている。まぶしくてしょうがない。歩くと揺れる豊満な胸、ジーンズに包まれたムチムチヒップ、スカートからすらりとのびた美脚
すれちがい様にふりかかった香水の匂い。
二ヶ月半ぶりに目にする生の女たち。
菊水はわくわくしている。あっちこっちの女を見ている。
呑みたい時にコーラを飲む自由。吸いたい時煙草が吸える自由。道行く女を見る自由。

自分でやりたい事ができる。開放感でいっぱいだ。嬉しさと共にありがたみも感じていた。
目黒の自宅についた。菊水はちゃんと今後の事を考える。
シャブはもうやめた。もうやらねぇ。
自分にいい聞かせている。仕事しなきゃよしがんばるぞ、菊水は前向きに物事を考えている。
川島には詫びいれなきゃと思い川島に電話をした。菊水は川島には弁護士から今回の事件の事を伝えてもらっていた。

「もしもし、川島?」
すると川島は


「菊水さん!元気ですか!お久しぶりぶりっす。いやー心配しましたよ。」


菊水は川島が元気な声と今通りに接してくれて嬉しさと安心感でいっぱいだ。
すぐ電話をしてよかったと感じている。


「いろいろ迷惑かけて本当にすまなかった。店はどうだ?来週から俺店でるから、そしたら川島連休取ってゆっくり休んでくれよ。」

菊水は川島にこう話した。川島の声がかわった。

「えっ菊水さん、店戻ってこれると思ってたんですか?社長から聞いてないですか?菊水さんが思ってるほど世の中甘くないですよ!」

菊水は、驚いて言葉がでないでいる。


「菊水さんがいないあいだ本当大変な事があったんすよ。あの…菊水さん貸切のパーティー予約うけたでしょ、予約帳に書きました?ダブルブッキングですよ!二つのパーティーの客が何十人と一度に来て、二組とも、カンカンに怒るし、大変な騒ぎだったんすよ。他の店に頼みこんでパーティーして貰ったんですが金はこっちで持ったんで大損害だしちゃたんです。しかもそのパーティー、オーナーの知り合いでオーナーもカンカンに怒ってましたよ!」


菊水はとまどう。今までそんな失敗した事がない
貸切パーティーを受けた記憶はある。予約帳に記入しないなんて事はないはずだ、記憶をさかのぼる。菊水は思い出したのだ。顔が青ざめる。あの日だ!早上がりして新宿にいった日だ。捕まった日だ。菊水はガンガンにシャブをキメて働いていた。アヤカと電話をしながら予約帳に書いた記憶があった。
きっと全然違う日に書いたのにちがいない。その時菊水はアヤカと会ってキメセクする事に神経が集中して日付の確認もしていなかった。
シャブをやっていたからだ。そう思いこんだ。
ひたすら川島にあやまった。

「あと捕まった事は誰にも言ってないです。それと今俺マネージャーやってんです。後輩がバーテンやってます。」

菊水はあまりにも考えが甘かった。すぐ仕事に戻れると思いこんでいたのだ。

「菊水さん、薬はもうやってないすよね?やめれるんですか?俺草とか吸ってないすよ。卒業です。あとルシアちゃんすげぇ心配してましたよ。」

菊水更にへこんでいる。
「もう薬はやらない。川島迷惑かけてわるかった。仕事がんばってな。」
そう言って菊水は電話を切った。仕事にすぐ戻れると思っていたが解雇だった。

自分の考えの甘さにいらだっていた。
「菊水さんが思ってる程世の中甘くないですよ!」
菊水は川島に言われたこの言葉を身にしみて感じていた。

薬は絶対やらない!
菊水は誓った。

シャバに出てきて喜んで、いい気分だったのは、ほんの少しの間だけだった。
菊水は現実の厳しさを身にしみて感じていた。
この日はこのあと家から一歩も出なかった。
次の日になった。塀の中の生活の時より悩んでいる。家にいると気分が落ち込む。
コンビニでも行こうと外へ出る。コンビニに寄った帰り近所を散歩した。散歩というよりただウロついていた。あてもなくウロついていると目黒駅まで来てしまっていた。引き返そうとしたとき改札から、
なんとルシアが出て来た。似ている子なのか、人違いか、よく確認して見る。
間違いないルシアだ!
菊水はルシアに近づいていった。


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