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1章-47 彼が戦う理由
「おーーい!」

 沈黙に空気が重くなってきた時、晴れやかな声が響き渡った。

「シーボー」

 アイフェが銀色の髪をなびかせて、千切れんばかりに両手を振っていた。そして両手を挙げたまま、跳ねるような足取りで走ってくる。
 が、案の定つまづいたあとに盛大に一回転した。バタンと大きな布をあおいだような音が鳴った。
 夢の中では見逃してたが、シーグは違和感に眉を上げる。

「アイフェ、大丈夫?」

 ミラが大あわてでアイフェの元に走っていった。

「怪我をしなかった? 痛いところはない? 平気?」

 懸命に聞くミラに、アイフェはうれしそうに何度もうなずいている。

「見事な受身でしょ?」

 レンダが苦笑交じりでつぶやく。

「メティスで欲しいものを得るには、知略が必須でしてね」
「単純に小さな子どもの甘えだろ。かまってほしいだけじゃないか。何を大げさに」
「子どもは大人になるし、小さなことも成長と増長を続けるものです。目的のために手段を選ばないのが魔術師。そして、魔術師にとって手段はいつでも手の届くところにあるのです。人の欲はいつまでも無邪気ではないし、いつか誰かと衝突します」
「…………」
「魔術師が知識を重んじ、実践を軽んじる。更には過程を無視して、結果に飛びつく傾向があることは気づいているはずですよ。メティスで魔術師として育ち、大儀に基づいた理想論を唱えている。私が誰の事を言いたいか分かりますか?」
「サフィリアのやっている事に文句でもあるのか?」

 シーグは怒りをこめて睨み付けるが、レンダには逆効果だ。

「彼女の考えは弱きものを味方にするが、強きものを敵に回すわけです。守るべき足手まといを増やし、頼りになる味方を敵に回してゆく」
「……」
「実現が困難だからこその理想と呼ばれる。大儀が美しく語られるのは、たいてい長続きしないからですよ。分かりますか?」
「知らん」

 シーグは不機嫌に切って捨てた。

「何も理解せずに戦っているわけですか。無責任ですね」
「だから、決闘を受けた」
「ほーう。力こそ正義で、暴力が手段ってわけですか?」

 レンダは嫌味やあてつけ以外の何ものでもない声を出した。

「結局は剣に頼る戦士だから、そうだろうな。だけど、法や理屈で裁けないものに決着をつけるのが剣の法廷なんだろ」
「その通りですよ。法の網目を潜り抜ける悪に対する最後の方法。あるいは、裁きが遅れたせいで恨み辛みが積み上がってゆくのを防ぐ。陰謀と詐術の渦巻く混沌の惨状を防ぐために。2本の剣にて、千の乱を食い止めるのが剣の法廷です」
「だったら、俺のやっている事は法や理屈を真正面から破っているわけじゃないようだ。それなら、決闘以外の方法で俺を排除できるからな」
「その通りですね。いっそあなたが既存の法を破っていてくれたら、グラムファーレはこんなに回りくどい事はしません。ただし、決闘で片をつけると、納得のいかない人がいた場合、新たな決闘者が敵として現れる。キリがありませんけどね」
「だけど、その敵も決闘者だ。軍勢を率いてやってくるわけじゃない」
「……というと?」
「理想を掲げると戦いがつき物で、止めようがない。だけど、サフィリアの守りたい人は戦う力を持っていないんだ。戦いになれば巻き込まれる。俺はシージペリラスだし、国も無く、率いる軍勢もいない。そんな人間が一人でも戦う方法は決闘しかない。剣の法廷なら、数の不利なんて言葉は無くなる。なんと言ったっけ。千の蜂より、一の巨象のほうが戦いやすい。だったか?」
「戦術論としては二重丸ですね。ですけど、相手は国家を代表する最強の決闘者ですよ。ちなみに、あなたはレイザーク最後の決闘者です」
「国家がシージペリラスを敵視しているからな。誰だって万全を尽くすだろうな」

 レンダの挑発は無視して、シーグは口調も変えなかった。

「……つまり、決闘が制度化されたメティスに現れ、決闘で立場をつかみ取るのは予定通りだったわけですか」
「おれじゃなくて、師匠の受け売りだよ。そのための修行もしてきた」
「なるほどね。手袋を投げ返して、わざわざ自分からガリウスに決闘を挑んだのは、計画のうちだったと?」
「いや、あれは勢いだった。いきなりメティス最強の決闘者なんて、さすがに後悔したよ。もっと楽なところから始めたかったな。赤毛を見せておけば、決闘騒ぎはいくらでも寄ってくる。戦いやすい敵が選べると思ったんだけど」

 シーグは気まずそうに頭をかいて、苦笑いした。

「逃げるつもりは無いわけですね?」
「産まれた時から、俺には逃げ場所なんてない」
「絶望的ですね」
 
 レンダは両肩を上げて、仰々しいため息をついた。
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