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私の彼は格ゲーオタク 〜ある意味最強・七菜子ちゃん2〜
作:深水晶


「あのさ、七菜子ちゃん。良かったらなんだけど……俺と付き合わない?」
 同じバイト先――ファミレス――の高校二年生の高木くんに言われた時、私はびっくりしてしまった。
「え?」
 どうして? 確かに高木くんはいい人で、バイト仲間の中でも仲良くしている方だと思う。けどなんで急に?
「……あのさ、前から可愛いなって思って気になってて、だけど彼氏いるっていうから諦めてたんだけど、この間別れたって聞いたから。ダメだったら良いけど、俺のこと嫌いじゃなかったら、付き合ってくれない? 俺、本気で好きなんだ」
 照れたように言うその顔が可愛くて。
「だけど私、年上よ?」
 高木くんはそのこと知ってるはずだけど。
「いいじゃん、別に。好きなんだから関係ない。それに七菜子ちゃん、話してて全然年上って感じしないし、むしろ危なかっしくて可愛くて、ほっとけないし。今、口説いておかないと、またすぐ次の彼氏できちゃいそうだし。だから今の内に言っとかないと、後悔しそうだし」
 それから真っ赤になって、高木くんは私を見た。
「それとも、七菜子ちゃんは年下イヤ?」
 少し潤んだ真っ直ぐな瞳で見つめられて、胸がキュンとした。
「どうしてもダメだったら諦めるから」
 哀しそうに、辛そうに言った彼の顔に、胸を締め付けられるような思いがして。そんなに私の事が好きなんだと思ったら、嬉しくなった。だって今まで、そんなふうに言われた事なかったから。
「ううん。こんな私で良かったら」
 そう答えたら、高木くんは、小さくガッツポーズを取って、
「やったぁ!」
 と叫び、私を抱きしめたかと思ったら、スルッと顎を掴んでキスをした。
「!」
 本当に心臓が飛び出すかと思うくらいびっくりした。場所は休憩室。いつ誰が来るか判らないのに、高木くんは一度唇を離しても、そのまま私を離さずに、何度も何度もキスをしてきた。苦しくて呼吸を荒げると、だんだんエッチなキスになってきて、ついには舌が滑り込んできた。
 さすがにちょっと恥ずかしくて、高木くんの肩や背中を叩いて抗議した。そしたらますます強く抱きしめられて、窒息しそうになった。
「やっべー、スッゲー嬉しい。もう最高。玉砕覚悟だったから、もう死にそうに嬉しい」
「た、高木くん。ここ、休憩室だから……」
「あ、ご、ごめん。つい嬉しくて。興奮しちゃった。マジごめん。つーか、告白OKされて即キスってガッツキ過ぎだよな、俺。本当ごめん」
 申し訳なさそうに言われて、慌てて言った。
「あの、えと、気持ちは嬉しいの。だけど、人が来ちゃうかもだから」
「あ、そうか。ムード無さすぎだよな。それに見られたら困るよね。本当考えなしでごめん。理性ぶっ飛ぶくらい嬉しくて。俺、マジ最悪だよな。嫌いになった?」
「ううん。……あの、あのね、気持ちは本当に嬉しかったの」
 だってあんなに情熱的なキスされたことなかったし。心臓ばくばくして、すっごくドキドキしてる。高木くんの顔がまともに見られないくらい。びっくりしたけど、嬉しくて。
「本当に私で良いの?」
「七菜子ちゃんが良いんだ。七菜子ちゃんだから、付き合いたいんだ。だから、こんな俺で良かったら、どうか付き合って下さい。あ、も、勿論こんなところでキスしたりしないから」
 真っ赤な顔で言われて、コクリと頷いた。


「で? それ、今度こそまともな男なの?」
 美夏は胡散臭げに私を見た。
「まともって?」
「あんたの彼がまともだった事なんかないでしょ」
「えっ、ひどいよ」
「ひどくないわよ。で、デートはしたの?」
「うん。昨日バイトの帰りに、初めてゲームセンターへ行ったの」
 私の実家は田舎で、ゲームセンターは勿論、コンビニもファミレスも本屋もない。喫茶店も夜にはスナックになるような、煙草とアルコール臭いお店で居酒屋も一軒だけ。短大になって初めて街中に出てきて、コンビニやファミレスを利用するようになった。ちなみに実家から短大のある街中まで、バスと電車を乗り継いで、片道一時間半はかかる。
「ゲームセンター? プリクラでも撮ったの?」
「ううん。高木くん、格闘ゲームが好きなんだって。良く判らないけどすっごく強いんだよ。二時間くらいしてたんだけど、対戦全員勝っちゃったの」
「……は? 二時間?」
 美夏が嫌そうに顔をしかめた。
「ねぇ、ちょっと。七菜子、あんたもしかして二時間ずっと見てたの?」
「うん。高木くん、すごく真剣な顔でゲームしてて、かっこよかったよ。あんな真面目な顔見たことなくてびっくりしちゃった」
 そう言ったら、美夏はハアァーッと大きなため息をついた。
「あんたはそれ、退屈じゃなかったの?」
「え? 別に。初めて見たし、ルールとか良く判らなかったけど、画面ずっとめまぐるしく何か動いてて、これが格闘ゲームっていうんだ、とか思って見てたよ」
「それ、興味あるの?」
「ううん。でも、高木くんの顔見てたら楽しかったし」
「まさか、それしかしなかったわけじゃないでしょうね?」
「ううん。ちゃんと帰りにラーメン屋に行ってご飯食べたし、終電に間に合うようにバス停まで送って貰ったよ」
「……やめなさいよ、そんな男」
 美夏が渋面で言った。
「え、なんで?」
「初デートでそんなとこ連れて行く男なんか、ろくな男じゃないわよ。それでラーメン屋? まさかカウンターで食べたなんて言わないわよね?」
「カウンターだったよ」
「……当然男のオゴリよね?」
「え、違うよ。だって高木くん、高校生だし。割り勘だよ」
「……あんたのオゴリじゃないだけまだマシなのかもしれないけど、たかがラーメンくらい相手に奢らせれば良いじゃない。付き合い長くて深い付き合いならそれでも良いけど、初デートでしょう?」
「良いの。だって給料日前だもん。お互い様よ」
「あのね、七菜子。男との付き合いは、付き合い始めの三回のデートでほぼ決まるの。支払い、行く場所、距離の取り方、互いの扱い方が確定しちゃったら、容易に変わらないわよ。今は付き合い始めだから許せても、その内に許せないこととか不満とか出てくるわよ。っていうか、初デートは気を使い過ぎるくらいでちょうど良いの。どうでも良い付き合い方したら、どうでも良い付き合い方しかできないわよ?」
 私は美夏の言ってる意味が理解できなかった。


 一ヶ月後。最初は目新しくて面白かったゲーム画面だけど、だんだん飽きて来ちゃった。だって同じ事の繰り返しだし。高木くんは何が楽しいのかな。だけど、すっかり夢中で真剣だし。
 だけど、本当はせっかく二人でいるんだから、もっとお話したり、二人で歩いたりしたいな。高木くんはそう思わないのかな。良く判らない。
 声をかけると「黙ってて」とか「あっち行ってて」とか言われて、悲しくなっちゃう。だけど高木くんはちっとも気付かないの。私よりゲームの方が好きなのかな。好きって言ってくれたのに、本当は私なんかどうだって良いのかな。私、なんだか淋しいよ。
 高木くんは「退屈なら、何か他のゲームとかしてきたら」って言うけど、私、ゲームは良く判らないし、一応いくつかやってみたけど、あまり面白いとは思えなかった。
 だけど、ゲームに夢中な高木くんを見てると余計に悲しくなっちゃって、だから、自販機でジュース買って、その前の椅子に座って、高木くんに居場所をメール送って、ぼんやり座っていた。
「彼女、一人?」
 知らない男の人に、声をかけられた。私は首を振った。
「いえ、人を待ってるんです」
「でも、一時間前くらいからずっとここにいるじゃん。相手、来ないんじゃないの?」
 高木くんが来ない? ううん、そんなことない。どんなに遅くても終電に間に合う時間までには必ず、高木くんは私を迎えに来てくれる。
 私はブルブルと首を振る。
「違います。ちゃんと迎えに来てくれます」
 すると相手は意地悪な表情になった。
「いや、最近、君良くここ来るでしょ? だけどいつも、ここで座ってたり、一人で店内歩いてたりするじゃない。本当に連れいるの? 嘘なんじゃないの? 嘘じゃないなら、相手に大事にされてないんじゃない? 俺ならこんな可愛い子、一人でほっとかないよ? それとも脳内彼氏とか? 心配だなぁ?」
 何故かだんだん距離を詰められて、なんだか怖くて、後退さってしまう。
「だ、大丈夫です。嘘じゃないです。心配いりません」
 どうしてかな。どうしてこんなに怖いんだろう。なんだか怖くて緊張するよ。初対面の人で何も知らないのに、何の理由もなく怖がっちゃったら失礼だよね。だけど、足がガクガク震えちゃう。どうしよう。
「何やってるんだよ!」
 高木くんの声だった。男の子は驚き、彼を見た。
「え? な!?」
「俺の彼女に何か用かよ!! いったい何をしようとしてんだよ!!」
 安心して、思わずその場にペタンとお尻をついて座り込んでしまった。高木くんが駆け寄って、私を抱きしめてくれる。私は思わず彼にしがみついて泣き出してしまった。
「ごめん、ごめんな、七菜子ちゃん。怖かったんだな」
「うん……うん、良いの。大丈夫。大丈夫なの、高木くん。高木くんが迎えに来てくれたから、大丈夫なの」
 私は本当に嬉しかった。何故こんなに嬉しくて幸せなのか判らなかったけど、しっかり強く抱きしめられて、本当に嬉しくて幸せだったのに。


「で?」
 美夏は眉間に深い皺を寄せて言った。
「今度はいったいどういう理由で別れようって言われたの?」
「あのね、高木くんはね、すっごく責任感じちゃって『俺が七菜子ちゃんを一人にしたのが悪かったんだよな』って。私はそうじゃないって言ったんだけど、『俺、彼氏失格だ。七菜子ちゃんをこんなに泣くほど怖い目に合わせて。俺、七菜子ちゃんにちっともふさわしくない。好きだけど、俺なんかと付き合ってたら、七菜子ちゃんを不幸にする』って」
「……それで別れたの?」
 美夏はしかめつらになった。
「私は高木くんがそばにいてくれたら、それだけで良いって言ったんだけど、高木くんは『俺は七菜子ちゃんを幸せにする自信がない』って言って、バイトやめて、メルアド変えて、着信拒否されちゃって連絡つかないの」
 そう言ったら、美夏は深いため息をついた。
「私、何か悪いことしちゃったのかなぁ。高木くんに嫌われるようなことしちゃったのかしら。ねぇ、美夏、どうしたら良いと思う?」
「そんな勝手で甘えたふざけた男、さっさと別れた方が良いわよ。っていうか一刻も早く忘れなさい。向こうから別れ切り出してくれて良かったじゃない」
「え? なんでそんなこと言うの?」
 私はびっくりした。
「どうせ連絡つかないんでしょう? あんたは連絡先変えてないんだから、向こうから連絡ないって事は、もう向こうにその気がないんじゃない。だったら仕方ないでしょ。とりあえず次はもっとまともな男、捕まえなさいよ。頼むから」
「私、嫌われるようなことしたのかな? 何がいけなかったのかな」
「そんな事は気にしなくて良いから」
 美夏は恐い顔になった。
「とにかく早く忘れなさい」
 私はやっぱり納得できなかった。


The End.


やはり一部実話(苦笑)。
最近のゲームセンターはバリエーション色々増えて少しはマシになりましたが、それでもやっぱり興味ない人間には居心地悪いというか何時間もいるのは辛すぎです。
とりあえず好きな人は、彼女がゲーマーじゃない限りは連れて行かない事をオススメします。

なお例によってこの物語は事実とはだいぶ異なる改変が行われており、フィクションです。

しかし、人によっては笑えないかもしれないので、分類コメディーで良いのかちょっぴり心配です。
少なくともバカウケしないことは明白ですが。













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