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合コンしようよ


「どうしたの急に?」

「おー実は、彼女と別れたからな」

「え!?」


 呼び出して来たのは田畑くん。相談があるって言われたから、駅前まで着てみれば急にそんなことを口走り始めた。

 隣に座りながら彼の顔を見るが、別段変わった様子はないように思える。強がっているのだろうか?


「えっと、いつ?」

「ホワイトデーの前くらい」

「そ、そっか」


 何も言えず、駅から出てくる人向かう人を眺めた。こんな時、どんな言葉をかけたらいいのだろう「元気出して」「次があるよ」「女なんて星の数ほどいるんだから気にしないで」「田畑くんならすぐカノジョ出来るよ」…どこかで聞いたことのある台詞だけど全部違う気がする。

 頭をひねっていると、なぜか僕の肩が叩かれた。


「だからさ、傷心旅行じゃないんだけど癒しの旅に出ようと思う」

「うん」

「付き合ってくれるよな?」


 財布の中身を思い出す、手持ちは1万とちょっと。男二人ならホテルじゃなくても漫画喫茶でOKだろうと計算する。それに、今日だけじゃないって言うのなら明日ATMに行けばいい。

 落ちかけた日を見て、今日は田畑くんにオールで愚痴を聞かされるのだろうことを腹に決める。

 こくりと頷く。


「いいよ。気の済むまで付き合うよ」

「決まりだ」


 にっこり笑って田畑くんが立ち上がった。

 そして僕の服を掴んで歩き出す。「駅はそっちじゃないよ?」と言うが、すでに予約を取ってあるという。ホテルの…?

 連れてこられたのは、ある飲み屋。


「…傷心旅行じゃないの?」

「そうだけど、まずは腹ごしらえだろ?」


 -----飲みながら話すってこと?

 不思議に思いつつ、カウンターの横を通り過ぎると、田畑くんが「おう」とテンション高く右手を上げた。挨拶するその場所には…見知らぬ女の子が二人。笑って田畑くんに手を振っている。


「ちょっと!!」


 慌てて彼の服を掴んだ。

 僕の勘が非常事態発生を警告し始めたからだ。そう、これはどうみても合コン…。


「傷心旅行は!?」

「だから、傷を癒すため新たなカノジョを作る、前段階」

「帰る」


 踵を返そうとしたら肩を掴まれた。なんだよ。


「僕じゃない人誘ってよ」

「付き合うって言っただろ? それに、女の子達のリクエストは背の高い人なんだよ!」

「僕の知ったことじゃない。心配してきてみれば、騙すなんて」

「頼むよ、山田くん以外に頼める人いないんだ。それに着てすぐ帰るなんて女の子達に失礼だと思わないか?」


 卑怯…その2文字が僕の頭に浮かんできた。

 確かに言われて見れば田畑くんの後ろとは言え、女の子達の顔を見た。見たと言うことは向こうも僕を見たハズ。ということは、今帰れば女の子達を見て気に入らなかったから帰ったなんて思われかねない。向こうも気分が悪いだろう、自分たちを見て帰られたなんて。


「君の為に参加するんじゃないからね」

「おお、さすが話が分かる男、山田くん」


 これ見よがしにため息をついてやる。なのに彼は全くそれを無視して席に行き、掘り炬燵(ほりごたつ)に脚を入れた。もう一度ため息を深くつき、笑顔を作りながら田畑くんの左隣に座った。

 勝手に自己紹介がされていく。田畑くんの前の子が安藤さん、僕の前の子が綿貫さんね。顔と名前をインプットしながら、刺身を突く。

 -----あ、鯛美味しい。


「山田くんは何が趣味?」

「え?」


 急に話を振られてしまった。

 趣味…言われてみれば僕は家で一体何をしているのだろう。何気無しに生活してたから思い当たらない。えっと。


「読書かな」

「えー、田畑くんは?」

「俺? 俺はギターだから」


 キャーと二人の女の子が色めきだった。うん、僕が女の子なら田畑くんがいい。


「じゃあカノジョは? 田畑くんいそうだモーン」

「こないだ別れたばっかりだよ。だから、心の傷を癒してくれる人を捜してる」

「「キャー」」


 開いた口が塞がらないというか、食べてるんだけど。

 -----田畑くんのタラシ…。ま、いっか。

 彼が今日は癒される日、次のカノジョを作る前段階だと言っているのだ。僕は黙って聞かれたことだけを答えて、適当に帰ればいいのだ。


「山田くんは?」

「僕は…!!」

「山田くんも今探し中」


 田畑くんに足の甲を重いっきり踏まれた。い、痛い。

 別に踏まなくたって僕はそう答えるつもりだったのに。ああ、そうか。詩織とのことは田畑くんは勘違いしたまんまだっけ。いや、でも痛かったし。とりあえずお尻をつねっておく。田畑くんの頬がピクリと反応した。


「山田くんはでんせ…」


 さらにつねる。

<何するんだ!?>←テレパシーです

<余計な事言わないで!>

 横目で見ながら詩織がするように「ふふ」と笑いかける。


「で、山田くんはモデル美嘉子…」


 スネを重いっきり蹴った。

<余計な事言わないでってば>

<俺は山田くんがお持ち帰れるようにだな>

<余計なお世話!!>

 微笑みは絶やさずに掘り炬燵の下で攻防が始まった。普通、脚の引っぱりあいこでこう言うことが起きるのだろうけど、僕は特に話の輪に入れて欲しくないのだ。ただ傍観してるだけ、それだけでいい。だってそうだろ? そんなつもりで最初から来てる訳じゃない。僕のテンションは急に恋愛ごとなんかに移ったりしないのだ。


「え、何何? 美嘉子がどうしたの?」

「僕の姉さん、モデルの美嘉子に少〜〜〜〜しだけ似てるって話。対した話じゃないから」


 なんだつまんないのと、女の子が不貞腐れるように言った。はは、つまんないね。

 その後も話が盛り上がる3人を他所に、一人でホッケを頼んでみたり、オレンジジュースを飲んでみたりとまったく話に加わるつもりはない。え? だから彼女出来ない? うーん、それを言われるとツライんだけど…なんて言えばいいのだろう。場に馴染めないというか、慣れてないから何を話していいのか分からないって言うのか、言っちゃ悪いけど僕は面白いとは思えない。だって、興味ないことばっかり話すんだもの。クラブとか、ダンスとか。なんか遠い国のお話って感じで、ついていけないよ。趣味が合わないね。

 頬杖をついて隣の男性客の話を聞いた。

 っと、皆の飲み物がなくなってる。これはいつの間にか僕の役割だ。


「追加頼む?」

「じゃあ私、生ビール」

「私も」

「俺は芋のロックで」

「はいはい。あ、お姉さん、生2つ、芋のロック1つ」


 にっこり笑顔で下がっていく店員さんを見つつ、体を元に位置に戻す。僕、あのお姉さんのがいい。


「俺トイレ。山田くんも行こう」

「うん」


 有無を言わせないように彼が服を引っ張るので一緒にトイレに付き合う。


「なぁ、どっちのが好み?」

「…あのね」


 何かを答える前に、ピンとコインが舞い上がって裏か表か聞かれた。パシっという音と共に田畑くんの手が上下に重なっている。すぐに察して首を千切れんばかりに振った。


「田畑くんとじゃないと帰らない」

「それじゃあ合コンの意味ないだろ!?」

「じゃあ一人で帰る」

「二人も相手に出来ないわ!」

「知らないよ」


 プイと横を向いて不貞腐れた振りをする。すると田畑くんは迷ったように腕を組み始めた。


「詩織嬢に言うぞ」

「ふん、言ったって怒らないよ。何度も言ったでしょ? 付き合ってないって」

「またまた。大丈夫、ヤキモチ焼かれて怒り狂ってくれるって。ははは」


 -----付き合ってない。

 腹が立ってすぐさまトイレを出てやる。追いかけてくる田畑くんなんておかまいなしだ。もう、一人で帰ってやるんだから。お姉さんを捕まえて会計をしようとしていたら田畑くんから掴まれた。


「わかった、じゃあせめて4人で帰ろう。先に好みじゃない方を二人で送って…、その後山田くんは一人で帰ればいい」

「…ならいいけど」


 二人で割り勘をして席に戻ると田畑くんが会計を済ませたことを言った。

 けど、二人はお礼も言わず当然だとばかりに鞄を持ち始めた。

 -----ダメだ、僕こういう子ダメ。

 一人で勝手に確信し、先に男二人で店先に出たので忠告してやる。彼は苦笑していたけど、どうするんだろうか? まぁ僕の知ったことではない。

 4人で駅へと歩く。4人と言っても前で3人で話しているだけで、本当にただ付いて歩くだけなんだけど。はぁ、こういうのを無駄金っていうのかなと田畑くんに騙された自分を呪いながら歩いた。暗い路地に一人で引きこもりたい。


「あ!」

「最悪ぅ」


 前を歩く女の子が変な声を上げ、立ち止まった。田畑くんも立ち止まっている。何かと思って体をズラしてみれば…向こうの方で男達が何人か倒れ、さらに駆け出している詩織の姿。


「あの子、マジ?」

「お、おい。あれ、詩織嬢じゃ…」

「どいて!!」


 3人を押しのけ、走った。

 -----多分、いや絶対にキレてる!!

 次々と倒されていく男達を見つつ、名前を叫ぶ。

 最後の男を地面に落とした彼女が振り返る。手袋はしているがマフラーはない、でも警棒と鋭い眼光が僕を狙っているのがわかった。

 一気に失速させ、構える。狙うは首から上…。

 息を吐ききると同時に、目の前の人物が躍動を始めた。

 -----最後まで、動きをよく見るんだ。

 逃げてしまいたくなる衝動を抑え、二宮先輩が口を酸っぱくしていった言葉を唱える。目を開いて彼女の動きの細部を捉えように…次の動きは突きか、蹴りか、それとも警棒か…?

 スカートが舞い上がった。


「蹴り!?」


 上段蹴りが僕の肩にぶつかる。

 -----ヤバい。

 思った時には僕は横の壁にぶつかりかけていた。


「ぐっ」


 両手をついて頭を強打するのを避ける。でも次の瞬間には既に次の攻撃、右フックが僕のミゾオチを狙っていた。急いで手で弾く。

 ----今だ!!

 弾いたおかげで懐が開いたので反対側の腕を出した。が、あっけなく手袋に包まれる。

 そしてぐいっと力任せに引かれた。


「「イター」」


 僕は仰け反り、詩織は踞った。詩織の頭突きが僕の顎に当ったのだ。


「だ、大丈夫?」

「うー。平気よ」


 声をかければオデコを擦りながら僕を見上げてきた。ほっと一息つきながら手を差し伸べる。


「何してるの、ヘッドフォンは?」

「コンビニに行こうと思ったらヘッドフォン忘れちゃってて。辿り着く途中にナンパされたのよ」

「ダメだよ忘れちゃ」

「だって…。でもユーヤに電話しても出てくれなかったのも原因の一つよ?」

「え?」


 急いで携帯を出せば確かに着信が入っていた。多分、僕を呼びだして一緒に行こうと思ったのだろう。

 体重をかけながら立ち上がる詩織に苦笑いをした。


「山田くん!!」


 ----しまった、一部始終を見られてたんだ!!

 振り返れば田畑くんが仰天したような目で僕らを見ていた。誤摩化さなくてはいけない、男達のは仕方ないとしても…。


「な、なんで二人が殴り合いみたいなことになるんだよ!?」


 そう、僕らは普通の友達もしくは恋人で通っているのだ。秘密を知っているのはお兄さんと二宮先輩だけ。詩織の3年生を考えると絶対に騙さなければいけない。せっかくクラスに馴染んだと言うのに、今僕が下手なことを言えば詩織が築き上げてきたもの全てがパァだ。

 詩織が不安げに見上げてきた。


「あはは。し、詩織にバレちゃったみたい。合コン行ったの…」


 -----く、苦しい!?

 コクンとつばを飲んだ。


「ほら見ろ! ヤキモチ焼かれるって言っただろ!?」

「あ、ははは」

「マジお前らカップルの喧嘩、容赦ねーな。さすが伝説の男の弟とそのカノジョ!! マジ激しー!!」


 腹を抱えて爆笑し始めた。

 ----よ、よかった。うまく誤摩化せたみたい…?

 ある意味、僕が伝説の男の弟だと誤解されていたため、動ける人間だとこちらの方も勘違いしてくれていたみたいだ。勿論、詩織の強さは皆の周知の沙汰なわけで…。

 ポカンとする女の子二人に一瞬視線を投げ、すぐに落とした。普通の人が見ればこれは異常だからだ。どこのカップルがあんな本気の喧嘩みたいなことをするか、そしてそれを受け入れられるか。


「えっと、田畑くんごめん。詩織を送りたいんだけど」

「OKOK。はぁ、おかし。じゃあ今度詳細聞かせろよ、この後の痴話喧嘩の」


 苦笑いして頷くと彼は二人の女の子を促しながら手を振って闇に消えていった。

 詩織が歩き出したので、すぐさま駆ける。


「合コン行ってたの?」

「うん。えっと、田畑くんに騙されて、それで…」

「私の電話は無視して、合コンには行くのね」

「え?」


 伸ばした手をパシっと払われた。頬を膨らまして、ツンとそっぽを向いている。

 -----まさか、僕に…?


「ねぇ、もしかしてだけど、ヤキモチ焼いてる?」

「焼いてないわよ」

「じゃあ、どうして手を掴まないの?」

「キレた時になんとかすればいいじゃない」


 スタスタとコンビニに入っていく。追いかけられず、レジを済ませ出てくるのを外で待った。

 上を見上げれば、小さな虫が街灯に何度もアタックをかけていた。

 出てきた彼女をまた追いかける。


「じゃあ、電話を取らなかったことを怒ってる?」

「それもあるかもね」

「それ、も?」


 揚げ足を取るように“も”を強調する。


「言い方間違えたわ。それが原因よ!」

「じゃあ、ごめん」


 謝ってすぐに手を出す、けど弾かれる。


「…今、僕は謝ったんだけど」

「……」


 前を歩く詩織の歩き方が、いつもより大股なことに気づく。そして靡く髪が心なしか乱暴なことにも。

 -----ぷぷぷ。


「怒ることなんてないじゃない?」

「怒ってなんてないわよ」

「僕が合コン行ったのがショックだったの?」


 パタリ、と脚が止まった。

 僕も脚を止める。


「違うわよ!」


 また大股で歩き始める。

 意地っ張りは困る。自分の感情を素直に受け止めない、他人に言わない、だから喧嘩するのに。

 ここまで言われて手を出さないなんて、やっぱり相当の意地っ張りだ。知ってたけどね。さて、どうしようと周りを見渡す。開いているのはもう飲み屋とコンビニ、そして詩織のホテルくらいなもんだ。


「…わかった。ここで2人合コンしよう。詩織さん、彼氏は?」


 答えない。でも、僕は一人で続きをする。


「詩織さん、好きな食べ物は?」

「詩織さん、苦手なものは?」

「詩織さん、お兄さんの名前は?」

「詩織さん、得意な蹴りは?」

「詩織さん、ヘッドフォンの色は何色?」

「詩織さん、携帯は何処の会社?」

「詩織さん、今日のパンツの色は?」


 もうすぐ宿泊先のホテルだ。なのに、声を出すどころか振り返ってもくれない、脚も止めてくれない。

 大きく息を吸った。


「ヤキモチ焼きの詩織さん、今までの質問に全部答えられる君の親友の名前は?」

「今日のパンツの色は知らないでしょ!?」


 ホテルの前で立ち止まって詩織が大きな声を出した。笑って答える。


「知ってるよ、薄ピンクでしょ?」

「な、なんで知って…」

「あれ、図星だった? 当てずっぽうだったんだけど」


 振り返り、見る見る顔が赤くなる詩織を見てお腹を抱えて笑った。

 ねぇ彼氏がいなくてアイスが好きで、お化けが苦手でお兄さんはKENで、得意な蹴りは上段蹴りでヘッドフォンの色は白でSoftnoBankの携帯で、今日のパンツの色が薄ピンクな親友さん、そろそろ機嫌直してよ。


「き、昨日は分からないでしょ?」

「うーん、ああ。黒だね」

「!?」

「これまた図星だ? じゃあ一昨日は紺、その前は黄色…。そうだな、明日はなしで予想をしておくよ」


 目を細めると困ったように笑ってきた。

 彼女に近づいて両手をポケットに突っ込んだ。


「外れるかな?」

「大外れよ、私を変態にしたいの?」


 大きく首を振る。


「機嫌を直して欲しい。そうだね、条件は…」

「条件はユーヤのパンツの色でいいわよ?」

「僕のパンツは多分…黒。見る?」

「ふふ、興味ないからいいわ。じゃあね、親友」

「またね、親友」


 コツンと拳をあわせて、詩織がホテルに駆けていく。

 と、振り返った。


「追加条件。来週中に映画に連れてって!」

「OK。また電話する」


 さて、何を見せよう?

 ラブ? サスペンス? アクション? コメディ? アニメ? 

 ホラーだけはきっとないと思う。

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