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PIN UP GIRL #3

 気分最悪で学校に行く。

 今日はもう学期末テストから解放されて&明後日から春休みってことで皆浮かれ気分だって言うのに、僕の気分は重い。

 考える。僕は表札にも名前をつけていないし、登録もしてない。ってことは知り合い? だとすれば合点がいく、名前を知っていること、詩織と親しいこと。でも、なんでわざわざ詩織の写真を撮って画像加工までした? 結構卑劣だと思う。一緒にいるなってことだろうか。うーん、でもそういうことするのって…。

 ああ、ダメだ。寝不足で思考が纏まらない。

 -----もう逆に不良みたいにパッと出て、パッと殴ってきてくれた方がいいんだけど。

 面倒なことこの上ないくせに、精神的にも肉体的にもキツい。


「山田くん、やっぱりおかしい」


 学校に着くなり、先に来ていた末長に言われた。


「何が?」

「顔色もだけど、君が朝からエロを要求するなんて。普段でもそんなことないくせに」


 -----しまった。

 精神的にイカれていたみたいだ。学校来る前、しかもあんな朝早くから末長にグラビアアイドルの下着姿を頼むなんて、確かに普通でもオカしい。


「年頃」

「ならいいけど」


 頭を掻きむしりたい。最近あんまり寝てないし、気分も悪い。そのせいか頭もボーッとする。

 焦点があってない感覚だ。


「ユーヤ」


 いつの間にか来ていた黒髪の女の子から声をかけられた。顔を向けることは決してせず、続きの言葉を待つ。


「今日は一緒に帰りましょ?」

「何か用事ある?」

「…ない、けど」

「じゃあダメ」


 末長が素早い動きで後ろを振り返って僕の顔を見た。何?

 と、強い力で右肩が振られた。椅子の引かれる音と同時に詩織の顔が視界に入った。

 -----ヤバい。

 脳裏に浮かぶのは朝見てしまった詩織の下着姿。体は他の人のものだと分かってはいても…。目を閉じ、心の中で唱える。

 -----あれは詩織じゃない、詩織じゃない、詩織じゃない。あー、フェニルアラニン、ロイシン、イソロイシン、バリン、セリン、アラニン…よし。


「ユーヤなんか変」

「僕は元々変だよ?」


 茶化すが、彼女の視線から逃れられない。

 大きくため息をついて立ち上がった。


「変かも、保健室行ってくるから先生に言っておいて」


 末長の肩を叩きながら教室を後にした。

 形式的に体温を測らされれば、37.5度…微熱だ。保健室の先生に言うと、気分が良くなるまで眠ってていいと言われた。しめしめとシーツに潜る。多分熱は眠れていないから、体温が上がってきたのだろう。

 -----明日で学校終わりで良かった。

 もうそろそろ皆を騙すのも限界。神無月さんや末長、はたまたあまり接点のない生物の湯浅先生まで顔色が悪いだの変だの言っている。勘の鋭い詩織が僕の異変に気づいていない訳がない。


「でもなー、ストークいつまで続くか分かんないし」


 枕に何度も頭をポフポフしながら呟いた。

 なるべく早く決着をつけたいが、犯人も皆目見当がつかない。いや、1から考えよう。3月1日、白い紙とデージーの花。そういえば花は最初の日だけだった。花言葉…無邪気、純潔、貴方と同じ気持ちです。

 -----ひいいいいい。


「ん?」


 僕に無邪気と純潔…男なのに? しかも詩織の下着写真。全然純潔じゃないじゃないか。

 ロジックにパズルはもしかして自分の心理? …論理的試行錯誤、違うな、わざわざそんなことを言いたいんじゃない。パズル、パズル…。

 あとユニワード。なんで急に…よくわかんない。ネタ切れの可能性も…いや、検索したから悪かったんだ。もともとあれは照らし合わせさせるつもりだったんだ。ということはパズルと同じように面倒だったはず。面倒、面倒…ったく、答えなんて見つかる訳ないじゃないか、なんでこんな思い。

 シーツを叩いた。


「ジレンマとパラドックス…」


 そう、パズルと言えば迷うことだ。複数正解があって、でも一つのものに最終的に辿り着く。確かパズルの定義は、論理学的には、複数解が矛盾してしまう「ジレンマ」、論理的に解けそうでいて不思議と解答が見つからない「パラドックス」に対して、唯一解が出せるものだ。

 花と白紙の手紙から始まって、パズルというジレンマ、解答のないパラドックスに陥る。その後は…詩織の写真? 意味が分からない…もう一回。白紙って言うコトは敢えて言わないってことだろう。ということは、正解は花の方にある。無邪気と純潔、同じ気持ちにジレンマとパラドックスを感じて、詩織の下着? いや、パズルってことは、答えが出たってコトだ。それを示すのがユニコード。単一のコードってことは、同じ、応えは同じ。んー、わらんない。そこからどうして合成写真にいく? 思考回路が変わったとしか…。

 -----もしかして、考えが変わったのか?

 そうか。白紙の手紙は意味がないんじゃなくって、沈黙…つまり何もしないでいるって言う意味だったんじゃないだろうか?


「あ、無理」


 そこまで思考を行った後、僕は重い目蓋に絶えきれず眠ってしまった。

 呼ばれてる、起きなきゃ。


「行動に出る!!」


 膝を打ちながら起き上がった。


「何の?」

「?…うわっ」


 声のする方を見れば詩織が笑って僕を見ていた。僕の鞄をぶらぶらと顔の前でさせ「帰ろう?」と言っている。

 ベッドのカーテンを開いてみれば時刻は4時半過ぎ。朝9時前から来ていたから6〜7時間は眠っていたことになる。あちゃー。


「一人で帰るよ」

「嫌よ」

「鞄、返して?」


 遠ざけられる鞄を取ろうと手を差し出した。しかし詩織は僕の顔を見つめるだけで鞄を返してくれる気配を見せない。

 -----参ったな。

 頭を掻きながら考える。やっぱり一緒に帰るのは不味いと思う。もし僕に好意を持ってストーカー行為をしているのだとすれば、危ないのは詩織だ。というか、すでに写真を撮られているから狙われているのかも知れないし…。あ、そういえば僕さっき何か思いついたんだっけ。


「腕なんか組んで何考えてるの?」

「んー、僕の将来」

「嘘つき」


 プイっと頬を膨らませながら、怒った様子な詩織。ああ、何か機嫌を直す方法は。


「今度ハーゲンダッチュ買うから、とりあえず一人で帰らせてくれる?」

「なんで1人なのよ! ふん、もう私、神無月ちゃんと末永くんに先に帰ってって言っちゃったもの」

「……」

「最近、やっぱりおかしいわ」


 俯いて顔を背けた。これ以上ここにいたら「一緒に帰ろう」と言ってしまいそうだ。


「もういい、帰るよ」


 ベッドから降り、保健室を出た。鞄は詩織のことだろうから机の横にでも掛けといてくれるだろう。手ぶらで帰ればいい。


「ユーヤ!」

「何?」

「私のこと、嫌いになったの?」


 思わず振り向けば、今にも泣きそうな顔。

 そんな顔、しないでほしい。卑怯だよ。僕が潤んだ瞳に逆らえないのなんてとっくに気がついてるくせに。


「そんなことないよ?」

「じゃあどうして?」


 なんだこれ、別れ際のカップルみたいな会話。ああ、堪えられない。


「ごめん、一緒に帰ろうか」

「うん!」


 ああ、言ってしまった。僕の馬鹿…。

 握られる小指に冷たさを久しぶりに感じながら、校庭を抜けた。




 


 2年生最後の朝。

 白い封筒が明らかに膨らみまくっていた。パズルの時とは違って明らかに枚数が多い感じだ。もう、クロスワードなんて嫌だよ?

 逆さまにすると、出てきたのはデージーの花びらと花弁。


「バラバラにされてる?」


 そして、デージーなのに甘い香りがしてくる。


「香水…ローズの香りかな?」


 首を傾げながら、逆さまにしても出てこない紙を引っ張った。何枚もあるかと重いきや、実はそれは1枚のものだった。寝癖が跳ね上がる。今度はポスター大の詩織の妖艶な下着姿。

 白い肌に、黒い下着がよく映える。

 視線が絡み付いてくる。

 濡れた唇に今にも誘惑をされそうだ。

 口元を抑える。例によって多分これも下の体は違うのだろう…わかっちゃいるけど。

 -----PIN UP GIRL…。


「壁にでも貼ってやろうか?」


 馬鹿なことを口走ってみる。が、写真が応える訳もなくゴミ箱に捨てるしか出来なかった。

 体育館の一番後ろで校長先生の言葉を右から左に受け流す。

 -----詩織の写真にデージーの花、そしてローズの香りかぁ。

 花や香水は女の人らしいのに、どうして同性が同性の体をああも出来るか? 普通、ああいうのは性欲の強い男の人のストーカーがよくやる手…そうだな、ボーダーライン系ストーカーってとこだろうか。


 そういえば、昨日何か思いついたんだよな。えっと、白い紙が沈黙で一緒に入っていた花はデージー、花言葉は無邪気と純潔&貴方と同じ気持ちです。そしてパズルでジレンマとパラドックス、ユニコードで考えが変わったってことを表してて…次が下着写真。で、今日が下着ポスターとデージーの花にバラの香水。最後が分かんないんだよな。いや、最初にデージーで今日もデージー。花繋がりで言うと、バラも妖しい。バラの花言葉は愛、恋、貴方を愛してます。加えてデージー。そういえば最初のは完全な状態だったのに、今日のはバラバラ…。


「ひっ」


 小さく叫んだら、前の田畑くんから変な目で見られた。苦笑いでゴマかし、すぐさま頭を抑えた。

 -----僕、掘られたりしないよね?

 どういうことか? 説明なんてしたくないんだけど…。いい? 多分推測は間違ってないから言うけど、写真さえ無視してしまえば答えは簡単なんだ。デージーと白い紙は純潔を守るっていうこと。で、パズルはジレンマ。ユニコードは、出た答え…考えが初めと変わったことを表している。


 そう、これはメッセージ。


 ああ一つ言い忘れてた。写真のことなんだけど、僕は僕をストーカーしてたからてっきり犯人は女の人だと思っていたんだけど、ちょっと女の人がああいうことをするとは思えない。ということは、女の他は男しかいない訳で…。

 纏めよう。純潔を守ろうと思っていたけどジレンマとパラドックスを感じ、考えが変わった。で、バラが愛、散らされたデージー、イコール…愛で純潔を散らすってこと。そうだよ、暗に襲うって言われてるんだよ!!

 しかも、推測するに男に…。初体験が男なんて、とんでもない!!

 寒い寒い、寒過ぎる!! 大寒波だよ!!


「あ」


 でも詩織の写真だけが解けない。

 犯人が…その、ホモであるなら、わざわざなぜ詩織の写真を用意する? アニキの写真でいいじゃないか。


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