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PIN UP GIRL #2

「また着てる」


 朝一番に僕がすること、それは手紙を見に行くことだ。

 昨日の夜は本当に気味が悪くって、詩織に泊まって欲しいなんて思ってしまった。多分言えば1泊くらいしてくれたとは思うんだけど、如何せん彼女を巻き込めない。だから平静を装っていつも通り送ったんだけど…。

 白い封筒を開けると、また何か書いてあるようだった。


「ロジック…?」


 上下左右に規則正しく描かれた升目の左と上側に数字が書かれてある。とっても嫌な予感はするが、これを解けってことだろう。鉛筆と消しゴムを持ってパジャマのまま、机の上にそれをおいた。


「4と7…こっちが8だから…!!!」


 ロジックに浮かび上がってきたのは“や”という文字。野菜、山姥、やかん、ヤクザ、YAHOU…山田の“や”なんて言わないでよ!?

 真っ青になって朝ご飯も食べずに家を飛び出した。






「湯浅先生…」

「おー。お尻のラインが魅力的な山田くん」

「もうお尻は摘まないでくださいね。大変な目にあいました」

「あははー。で、今日は何処?」

「えっと、PCR法のとこなんですけど、ポリメラーゼでプライマーで遺伝子を…」

「そこまでは高校生じゃ習わないよ。まぁ一応教えるけど、岡崎フラグメントが(専門的すぎるので割愛)でしょ」

「はぁ。じゃあ結局Bam H やEco Rは切断部位が…」

「そうそう。やー、神童は違うね!」

「は?」

「知らないの? 山田くん、大正学園の神童って呼ばれてるの」


 先生の整った顔を見る。

 はぁ。


「何そのため息。っていうかさ、思ってたんだけど…顔色悪いよ。せっかくの男子高校生がなんだか疲れきったサラリーマンみたいな顔してる」

「最近寝れてないですから」

「あははー。聞いてるよ、皆のテスト勉強教えてるんだって?」

「はい」


 -----まぁそれもあるけど…。

 帰るのが憂鬱だ。そう、あの送り主不明の手紙のせいで僕は本当に眠れていない。もともとテスト前1週間で皆に付き合わされ寝れていなかったのに加え、真っ白な手紙が気味が悪くてなかなか眠れなかった。そして昨日の夜にはついに、僕の行動を観察しているような内容になっていて多分1時間くらいしか眠れていない。しかも今日の朝は“や”の文字をわざわざロジックにして送りつけてくるなんて…。ちょっとサイコ気味じゃないだろうか。あーでも、本物のサイコなら文字になんてしなかっただろう。サイコを演じているのか?


 この1週間は春の雨続きで人に付けられているのかも足音が聞こえずらくて分からない。もしかしたら、僕の後をつけていなくって、家の明かりを見て帰っているかどうかを確認しているのかも知れない。昨日の手紙からいうと多分そうだと思う。だって僕が図書館から帰る前に手紙があったんだよ? 少なくとも昨日は部屋の明かりか何かを見たってコトだ。あと、あの手紙で言えることが一つある。サイレントストーカーだった彼女が明らかに行動を始めた。あ、あと連日のパターンから言って夜型ってことも言えるかもね。

 雨だからやってはいないが、これから晴れになったとしても僕は外に洗濯物さえ干せない。それどころか、昼間に自分がいてもカーテンを閉めっぱなしだ。はぁ。


「今日から、一緒に帰れない」

「え?」


 驚いた顔をする詩織を一瞬だけ見て、目を反らした。

 顔を覗き込むような素振りを見せる彼女から、さらに逃れるよう窓の外を見た。


「どうして?」


 一番聞いて欲しくない質問だ。まさかストーキングされているかも知れないから…なんて言えない。


「末長、神無月さんと終業式まで詩織を送ってあげてよ」

「いいけど、どうしたんだ?」

「…ちょっとね」


 男の親友からも逃げるようにトイレへ向かった。

 そして次の日にもまた、白い手紙が届いていた。今日は少しいつもより重いし、なんだかモコモコしている。

 開けると、何かが詰められている。机の上で逆さまにすると、


「パズルピース…」


 何も描かれていない真っ白なピースが出てきた。眉をしかめる。

 -----昨日は“や”の文字、今日は…?

 パズルのピースを一つ一つ手に取っていくと、一つたりとも角、もしくは壁が無いのに気がついた。

 -----ホワイトパズルの一部を抜き取ってあるのか…?


 ホワイトパズルっていうのは何も描かれていない真っ白なピースを指す。だからパズルの絵柄を見ながらじゃなくって、ピースの噛み合わせる所の形状を見ながら作っていく。で、普通は角や端から見つけて周りから段々攻めていくんだけど…。

 数はおよそ100、最悪だ。壁が無い状態のミルクパズルが一番難しいのに、なんてめんどくさいことを。これで意味なかったら確実にサイコだ。でも、無かった方が良かった。出来上がったのは“ま”。昨日が“や”で、今日が“ま”なら…もう、わかるよね。山田の“ま”に決定だ。


「ひいいいい」


 理解した瞬間、一人で奇声を発してまたしても家を飛び出した。




「や、山田くん?」

「山田っち、どうしたの? 顔が…なんか酷いよ?」

「なんでもない」


 突っ伏しながら言った。テストだから休み時間は誰にも邪魔されること無く眠ることが出来る。短い時間を僕は夜あまり取れなかった睡眠時間に当てた。

 英語のテストを裏返しながら、時計を見ればあと30分も時間が残っている。腕で顔を隠して、机に伸びる。

 -----一体、誰があんなサイコで頭の使うことをわざわざ、精神削れちゃうよ…紙屋?

 ガバッと起き上がった。

 そういえばバレンタインでの去り際に彼はなんて言ってた?「次は精神的にいたぶってやる」あの言葉は、こういうことだったのだろうか?


 今日も家に帰りたくなんてない。もう、次に来る手紙の内容も分かっているし、家の明かりを付けることだってもう嫌だ。でも、帰る場所はここしかない。朝起きると、またあの白い封筒。吐き気を覚えながらも手に取る。


「紙屋なら、そろそろ」


 独り言を呟きながら、ハサミで切った。カミソリが入っていると悪いからだ。でも、そんな心配いらなくって、替わりに出てきたのは白い紙1枚。真ん中にU+3060という文字。

 -----U+3060…?

 顔をしかめた。Uってどういう意味なのだろう。

 でも、答えが分かってるからピンと来た。急いでパソコンの電源を入れ、そのまま打ち込む。


「やっぱり…」


 検索してヒットしたのは、ユニコードだった。ユニコードって言うのは、コンピューター上で文字を単一化させる為に作られたいわば記号を指す。もちろん指すのは“だ”。

 行く宛もないのでカーテンを閉め切ったまま、電気も着けず、パソコンの明かりだけで過ごす。でも、さすがに僕の体は限界。睡眠時間が少な過ぎたせいか、緊張感で眉をしかめたまま眠ってしまった。そして朝起きると玄関にまた手紙。ストーク文章が3/5、6日が“や”、7日“ま”、8日“だ”…いい加減にして欲しい。


 朝でも閉め切ったままカーテンを開けることなく、暗い部屋を歩く。

 -----次は裕也の“ゆ”?

 どこまで僕と遊ぶつもりなのか、ここまでくればもう野となれ山となれ。最後まで付き合おうじゃないか。

 真っ白な封筒を開いて包まれた中身を広げた。


「うわっ」


 思わず紙を離した。ヒラリヒラリと落ちるそれには…詩織の下着姿。赤くなった顔を抑えつつも、裏返しになった写真の端を摘む。

 直視出来ない。

 僕を怖がらせたいのか、それとも…喜ばせたい?

 -----まさか、何か意味があるはず。

 息を大きく吸って、親友に心の中で謝りながらもう一度ちゃんと観察する。もう、心臓が口から飛び出そうだ。


「…髪が、荒い」


 荒いという言葉はどうかと思うが、何か違和感を感じた。顔の上からだけ折り曲げ、とりあえず顔だけ見る。間違いない、詩織だ。裏返して体の方を見た。

 眉をしかめる。

 -----黒子がない。

 詩織は左胸の上に黒子が2つあったハズ。はい、そこ。いつ見たなんて思わないで。沖縄での水着の時だから。

 …何より、この体、詩織にしてはちょっとふっくらしていると言うか、僕の記憶に引っかかる。

 携帯を手に取った。


『末長? お願いがあるんだけど、グラビアアイドルの画像、今すぐ送れる?』

『お前、エロいらないって言ったじゃないか』

『気が変わったから。僕に見せたことのある赤い下着の写真だけでいいよ』


 待つこと数分、送られてきた画像をクリックしてはゴミ箱に流す作業をしていく。


「ビンゴ」


 画面で笑っている女の人のオデコを指で弾いた。

 そこには詩織の顔の下にある体と同じ下着の色をつけた、同じポーズの女の人。安堵のため息をはきながら、写真を破った。

 酷いことする…。

 -----詩織いなくてよかった…。

 いや、冷静になれ。考えろ、今まで文字だったのに急に写真になったのは何でだ!? そして、僕は…何か思い違いをしているんじゃないか? 何より、この場合、手紙だけの僕より写真を撮られている詩織の方が…。

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