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Zip #4

 急勾配を一気に走り上がると『出庫』の文字のランプが光っているのが見て取れた。急いでブレーキをかけようとするが先に坂を上りきってしまい、一瞬ウィリーをする格好になってしまった。目の前には先程僕らを追いかけてきていた改造車が止まっているのが見えたので、前に体を倒し車体を平行に戻してハンドルを左へ切りながらリアブレーキをかけブレーキレバーを握った。

 タイヤと道路の摩擦するけたたましい音を聞きながら、左足を地面につける。

 周りには車から降りた数人の男達がいた。


「アイツらだ!!」

「バイクに乗ってやがる!!」


 そんな声がした瞬間、詩織が警棒を伸ばした。

 迫ってくる人達を威嚇するように僕も大きくエンジンを吹かす。


「らぁ!!」


 怯まず、向かってきた男をグリップをゆっくり回しつつ避ける。詩織の警棒に金属バットが当った音を聞きながら、クラッチレバーを握って一気に加速させた。


「待ちやがれ!!」

「逃がすと思ってんのか、コケにしやがって」


 バタンと車に乗り込む音が後ろでした。ミラーで確認すると、カッと白いランプがついて凄いスピードで迫って来る車が2台。

 -----高速はどっち!?

 掲示板を見れば左に大通りがある。とりあえず体の重心を左に傾けながらウィンカーをきった。


「高速どっちか知ってる?」

「このまま国道を突っ切って、左側にあるはずだから」

「わかった」


 互いにくぐもった声で会話をする。

 後ろを振り返るとまだまだ追ってくる車。窓から上半身を出して何やら喚いている。

 -----機動力でならこっちが上だ。

 撒くため一度細い道に入り、すぐさま大通りに戻る。

 -----1台撒いた…。

 速度を上げれば、街灯が線になって素早く通り過ぎて行く。冷たい風に手が直接曝され、かじかみ始めた。メットとマフラーの間も少々冷たくなってきた。

 けど、そんなのはちっぽけな問題だ。

 迫って来た車体を避けると、詩織の警棒が男の顔面をかすった。

 暴走しかける車体を押し付けるよう、体を前に傾けグリップを強く回す。


「高速の看板!!」


 詩織が叫んだ。

 あと300mで高速だ。もう一度ギアを切り替え、体を倒した。


「券取って」


 詩織に言うと少し体を締められた。わかったという合図だろう。

 減速しつつ、ミラーをチラ見すると1台の車が走ってきているのが見えた。料金所では止まることは決してせず、通り過ぎる瞬間に詩織に券を取らせた。

 よしと思っていたら、彼らは迷わずETCの方へ入っていった。ETCだとちゃんと停止しなくていい分早く追いついてくるだろう。

 しかし、加速するのはバイクの方が全然有利だ。

 グリップを回しつつ、クラッチを握って速度を上げていく。時速80kmになったところでウィンカーを上げて高速へ入った。


 少しだけホッとした。

 さっきから高速と言っているが一般高速ではなく、これは都市高速なのだ。やたらカーブが多く車の数も結構多い。そう、普通の高速道路なら向こうが有利だろうが、都市高ならこっちに分がある。

 何度目かのギア変をしつつ、前の車を追った。


 左、右、右…車体を振りながら乗用車を抜いていく。速度を見ればすでに100kmオーバー。とりあえず同じ速度で走る白い軽自動車の後ろを陣取ってしばらくそのまま走行を試みた。

 -----そろそろ大丈夫かな?

 ほっと一息つこうとした時だった、詩織が後ろをしきりに気にしている。

 まさかとは思いつつも後ろを向くとクラクションを連打しながら、他の車をどけ走ってくる改造車があるではないか。しかもさっきより怒っている感じだ。他の車が邪魔なのがもどかしいらしい。

 -----いい加減諦めてよ!

 まぁ高速に入ってきた時点で彼らの辞書に“諦める”なんて言葉はないのだろうとは思っていたが。別に僕はヤンキーと追いかけっこなんてするつもりはない。可愛い子となら砂浜でいくらでもしたいと思うが。

 追いつかれる前にグリップを思いっきり回す。加速度的に車体を飛ばして、するりするりと車の間を抜ける。時速が120kmをオーバーした所で詩織の掴む力が強くなってきた。怖いのかも知れない。

 でも…


「ごめん!」


 謝ってさらに速度をあげる。グイップを手前に引いたまま…125、130、135、140km…限界は180だからまだいけるハズだ。

 どんどん通り過ぎる車を尻目に、トラックを発見した。

 -----僕も後ろが見えなくなるけど、奴らも見えないハズ。

 トラックの前に回り込んで速度を減速させていく。と、丁度いい具合に大正町の一般道に下りれる脇道があるではないか。

 数時間前に呪った神にこんどは感謝をしつつ、車体を傾け、さらに減速させながら都市高速を後にする。トラックの脇を猛スピードで通り過ぎていく改造車がチラリと見えた。

 




「お尻イターイ」

「僕も痛い」


 バイクをコンビニの駐車スペースに置いて二人で地上に降り、愚痴ながらメット外した。

 ずっと暗い高速を走っていたので、コンビニの明かりが目につらい。フルフェイスを抱えながら一緒にコンビニに入った。


「もう大丈夫かしら?」

「うん。高速をまだ走っていったみたいだから」


 もう夜ご飯を作るのも面倒になってきた僕は籠を持って陳列棚に向かった。弁当にサラダ、ペットボトルのお茶、欲しいものを次々に放り込む。ついでに詩織の分も入れてレジに並んだ。


「でもビックリしたわ」

「改造車に?」

「それもあるけど、ユーヤって結構飛ばすのね」

「あれだけ追われてれば誰だって飛ばすよ。ごめんね、怖かった?」


 店員さんに籠を預けながら、財布を出す。

 ピ、ピという音を聞きながら「袋は別に、1善ずつ入れて下さい」と付け加えた。そして先にキッチリお金を出しておく。


「途中からちょっとね。ユーヤは平気だったの?」

「うん、まぁ向こうでは広い道路って結構多いから飛ばすの慣れてるし。それより僕は詩織にビックリしたよ」

「…私、何かしたかしら?」


 首を傾げる彼女を横目に見つつ、コンビニのドアを開けた。預けておいたフルフェイスを受け取る。


「バイクに股がってフルフェイス被って、警棒振り回すなんて、典型的なヤンキーみたいじゃない?」

「ヒドーイ」

「後ろに漢字で夜呂死苦なんて書いたら完璧なんだけど」 

「ふふ。明日からそれで学校行こうかしら。送り迎えしてくれる?」

「冗談…。しばらく乗りたくないよ」


 腰を擦りながら空を見た。

 今まで前々気がつかなかったが、今日は星が妙に綺麗だ。


「バイク、ユーヤのとこの駐輪場に置ける?」

「いいとは思うけど…」


 そういえばまだスペースが結構残っていたなと思い出す。となると、防犯を考えて明日にでもチェーンを買っておいた方が良さそうだ。返すまでに盗まれでもしたら、お兄さんに殺されかねない。


「いつ返しにいけばいい?」

「いいわよ。これ乗ってないもの」

「でも…」

「じゃあ今度私をどこかに連れてって。その帰りにでも置いて帰りましょ?」


 一瞬考える。が、一人では夜だったので返しにいけそうにない。


「まぁ暖かくなったらね」

「どうして?」

「寒過ぎて僕の指が使い物にならなくなるから。メンテナンスだけはしておくよ」


 冷たくなって逆に赤くなった手を見せ、肩をすくめた。

 ふふっと笑って彼女はフルフェイスに頭を通した。

 僕もそれを見て被り、バイクに股がった。一段階バイクが下がって、詩織の腕が僕の体に絡まってきた。


「約束よ。そうね、海がいいわ」

「はいはい」


 暖かい体温と回された腕にちょっぴり恥ずかしさを覚えながら、バイクの鍵を捻った。






 余談。

 次の日、僕はどうしても抑えきれずに詩織を屋上に呼び出した。

 入ってくる彼女に隣に座るように指示して、にんまり笑った。


「何?」

「ここ、弱いんでしょ?」


 人差し指でツーっと左の背中腰の上らへんを触ってみた。


「にゃあ!!」


 またしても変な声を出して地面に突っ伏せる詩織。

 可愛いと思いつつ、笑いながら謝ると目を潤ませて講義してきた。


「ねぇキレてる時にここ触ったらどうなるかな?」

「そんなこと、絶対させないもの! もう次もないの!」


 頬を膨らませ、プンプンしている。

 「弱点みっけ」と冗談めかして言うと顔を真っ赤にして「違ぅ!」と言い始めた。僕にお化けが恐いことにプラスして、またしても弱点を見破られてしまったのが悔しいらしい。地団駄を踏みながら、弁解を始めた。


「うんうん。わかった、弱点じゃない…でも」

「でも?」


 -----性感帯だと思う。

 

「まぁ、大人になれば分かるよ」

「何よソレ!?」

「言ったら怒るから言わない」

「怒らない、怒らないわよ」

「じゃあ言うけど…」

「うん」

 

 勿体振りながら彼女の耳に手を当て、顔を近づけた。

 そして…

 ふーっと息をかける。


「ひあ!!」

「内緒」


 笑って階段を駆け下りた。

 詩織から1日「何?」と聞かれたのは言うまでもない。教えなかったけど。


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