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X'mas Secret

「ちょっと近寄らないでよ!!」

「テメーが俺の横を歩いてるんじゃねーか。自意識過剰女!!」

「ふん、あんたなんて100万回プロポーズしてきても相手にしてあげないわ」

「お前にだけは相手になんてしてほしくねーよ」


 僕たち4人は今、大型のアウトレットショッピングモールに来ている。なぜかって、そりゃあ昨日の破壊活動でなくなってしまったものを買いにだ。面倒なので本来なら僕一人で行こうと思っていたのだが、家の食器全てが割れていたため姉さんに車を出してもらっているのだ。いや、この言い方は間違っている。姉さんが割ったのだから、来るのは当たり前だ。そして、お兄さんはというと怒って詩織をバイクに乗せようとしていた所を姉さんに「責任も取れないの!?」と挑発されたがために今ここにいる(お兄さんはユーヤの服を着てます)。


 言わずもがなだが、有名人に属している2人は目立つ。1人でも目立つのに揃っているからさらに目立っている。尚言うなら、デカイ声で口論をしているから何倍も目立つ。

 まだ昼過ぎだというのに僕はぐったりだ。気の強いもの同士がぶつかり合うと、他人までこんなに疲れるなんて。全く迷惑極まりない。


「詩織ちゃん、私からもプレゼントしたいんだけど」

「いいんですか!?」

「もちろんよ」


 手を握り合っている2人を見てちゃぶ台返しならぬ、引きはがしを計るお兄さんを横目で見ながら本日何度目かのため息をついた。ザカザカ歩いて行く女子に食らい付く格闘王の情けないことと言ったら。


「さ、こんな馬鹿ほっといて行きましょ」

「はい」

「ふふん、バリアーよ。これ以上入ってきたら変態と見なしてあげるわ」

「て…テメー。汚ねーぞ!?」

「馬鹿ね、私はクリスマスプレゼントに詩織ちゃんに下着を贈るのよ、変態!!」

「俺は変態じゃねーアバズレ!!」 


 彼はチッと舌打ちしながら僕の横に立った。そして不機嫌そうに腕を組んでいる。

 憧れの人が今、目の前にいるのにサインも頼めそうにない。というか、僕が頼んでもくれないだろうが。


「おい」

「はい」

「詩織とはどういう関係だ?」

「友達です」

「本当だろうな!?」

「本当です」


 じっと目を見られ、思わず緊張する。妹のことに関しては情けないとは思いつつも、やっぱり憧れの人なのだ。


「にしては、随分気に入られてるんだな。ああ?」

「…お兄さんは…」

「お兄さんって呼ぶな」

「KENさんは、彼女がキレること知ってますか?」

「あー。そういや昔言ってたな」

「なんか、僕のそばにいるとキレないそうなんです」

「はぁ?」


 不思議な顔をされた。しかし、本当のことは言わない。だって、直接肌に触れないといけないなんて言ったら、多分僕は今頃生きていない。

 妙に早く流れる雲を見ながら、マフラーを巻き直した。


「…わかった」


 詩織と一緒で妙に物わかりがいい所があるらしい。やっぱり兄妹だな…と感じてしまった。でも、あんまり似てない。詩織に初めてお兄ちゃんがいるって聞いた時、もっと細くて華奢な感じをイメージしていたのだが、目の前に立つ男ははっきりと分かる程筋肉が付いていて、凛々しい。まぁ世界で活躍する格闘家なのだから、華奢な訳はないか。いつかテレビで見た鍛え抜かれた体を思い出した。


「で、友達ってのはどういう友達だ?」


 意味が分からなくて顔をしかめた。けど、彼はそれ以上何も言う気はないようで、そっぽを向いてしまった。

 -----全部、説明しろってことかな?


「詩織さんが友達いないのはご存知でしたか? キレるのが原因だったんですけど。で、友達のいない彼女に始めて出来たのが僕という友達です。僕は親友だと思っていますし、詩織…さんも親友だと言ってくれています」

「そうか。ま、詩織の可愛さだ。変な気を起こしたりしないわけはないだろうが、したら殺す」

「……」


 絶対に今の大正学園には来て欲しくないと思った。来たら、僕はあらぬ噂のせいで殺されてしまうだろう。

 ちょっとだけぼやけた視界を拭った。


「溺愛し過ぎだと思ってるか?」

「い、いえ。そんな…」

「いいんだよ、どうせ思ってるんだろ?」


 笑顔を引きつらせて彼の顔を見ると、始めて僕を見て笑っていた。

 -----うわ…。今、僕は憧れの人と一緒にいるんだ。

 今更鼓動が早くなってきた。ようやく実感が湧いたのだろう。仕方ない、昨日の時点から色々と可笑しかったのだ。感覚が鈍っていたとしか言いようがない。


「なんか、お前はあの狂暴女とは違って、素直そうだな」

「はぁ。よく正反対の性格だって言われます」


 彼は笑って白い息を吐いた。


「なんとなくだが、信用出来そうだ」


 俺の勘はよく当る、なんて姉さんが言っていたことと同じことを言っている。やっぱり性格似てるかも。


「お前にだけ言っておこうと思う。今アイツもいないしな」

「何を…?」

「詩織の秘密だ」


 思わず目を大きく開けてしまった。

 -----詩織の秘密?

 今まで笑っていた顔がいつの間にか真剣そのものになっていて、息を飲む。

 僕が、聞いてしまっていいのだろうか?


「お前だから話すんだ」


 僕の心をまるで読んだかのように、お兄さんが言った。無意識のうちに向かい合うよう彼の方を向く格好を取ってしまった。しかし彼は横を向いたまま、バイク用の革手袋に入った手を擦り合わせ、息を吐きかけている。


「きっと、いつか…お前は…いや、やっぱいい。本題に入ろうじゃねーか。面倒なことは嫌いだ。お前もだろ?」


 微笑すると、彼は一度下着屋の方を確認した。

 そして言った。


「俺たちは…本当の兄弟じゃない」


 口角を引っ張っていた筋肉が全く動かなくなって呆然としてしまった。


「詩織は…」

「知ってるのかどうかまでは知らねー」


 どういうことか聞くと彼は続けた。


「俺が5歳の頃、アイツはいつの間にか家にいた。最初は驚いた、お袋は全然お腹大きくとも何ともなかったからな。でも、オヤジたちに言い聞かされて、なんとなくその時は妹が出来たんだと喜んだよ。でもな、やっぱり高校生くらいになって気になって一度調べてみたんだ。そしたら、明らかに母親が違うじゃねーか。ああ、やっぱりなっていう気持ちとショックな気持ちが湧いてきた。んでも、それ以上に、だったらもっとアイツを愛してやらねーといけねーなって思ったんだよ。俺は馬鹿だからな、それしか出来なかったんだ。まーこんなとこはどうでもいい話だ。ここからがミソ、よく聞け。アイツの母親、失踪してるんだよ。死んでるのか生きてるのかさえ分からねー。俺のオヤジは父親だって言い張ってたけど、別にDNA検査してる訳じゃねーからな。だから、俺とアイツは全く血がつながってねー可能性がある。まぁ腹兄弟の確率もあるが、わからねー。そこまではオヤジもちゃんと教えてくれないうちに死んだからな。詩織は…もしかしたら、母親が失踪してることまで知ってるのかも知れねーし、俺の知らない処まで知ってるのかも知れねー。俺の憶測だと、勘のいいアイツだから母親は違うことまでは知ってるとは思うんだが、何分聞けねーだろ? だから、アイツはホテル暮らしなんだよ」


「は?」


「引っ越しの時とかに謝って戸籍を見せない為だ。あれには色々書いてあるからな。ま、理由はそれだけじゃなくって、さっきも言ったが、オヤジもお袋も死んでる。火事で死んだんだよ。それに、俺は俺で世界中飛び回ってるから家なんて必要でもネーし、何よりアイツに家事だ、学校だ、受験だって苦労させたくねーから、ホテルに住まわしてるんだよ。ま、これはアイツにも話してねーから、内緒な」


 一気に聞いてしまって少し頭が混乱したが、はっきり言えることが2つある。1つはKENさんと詩織は腹違い、もしくは血のつながらない兄妹だってこと。もう一つは詩織のお母さんが行方知れずってことだ。そして一番分からないのは、詩織が何処まで知っているかってこと。


「お母さんのコトは調べたんですか?」


 ふと気になった。


「調べた。けど、そこまで言う必要はねーな。個人情報保護法ってやつだ。ま、一つだけ教えてやるよ。かなりの美人だったそうだ、昔モデルやってたらしいぜ。やー、腹違いだとしてもオヤジに似なくてよかったな、アイツ」


 先程までの神妙な面持ちは全くなくなって、ははは、と笑い出した。

 この話は終わりってことだろう。でも、どうしても聞きたいことが一つだけある。


「一つだけ。どうして僕にそんな大事なこと…」

「お前に触ると、キレるの直るんだろ?」

「!?」


 僕は確かにさっき、キレるのを直ることは言ったけど“触れる”なんて一言も言ってない。


「バーカ、凛に聞いたんだ」

「ああ。二宮先輩…」

「アイツとも長い付き合いだからな。何かお前らの関係の秘密が隠されてるのかも知れねーと思って、詩織の秘密は話してやったんだよ。嫁入り前の大事な妹にベタベタ触って欲しくねーからな。早めになんでかを解決して触らなくていいようにしろ!! んで、そっからは詩織に触んな!!」

「てっきり僕が秘密を話したから信用してくれたのだと」

「馬鹿か、男はみんな狼だ! 信用ってのは段々勝ち取って行くもんなんだよ。っと、俺が知ってるコト言うなよ。凛が秘密バラしたって叱られるからな。俺が無理矢理聞き出したんだから」

「そうですね。言ったら多分、詩織は怒り狂います」

「だろ?」

「お兄さんに」

「…そうかもな」


 お兄さんは身震いしながら笑顔を零した。


「って、どさくさに紛れてお兄さん呼ぶな」

「サインくれたらもう呼びません」

「あ?」

「ずっとファンだったんです。憧れだったんです」

「…無表情で言う言葉じゃねーよ」

「無理ですよ、あんなディープな話を聞いた後じゃ」


 顔を灰色の手袋で覆って暖めた。


「ま、そのうちな」

「はい」


 ようやく笑顔を出せるようになったころ、姉さんたちがキャッキャしながら出てきた。


「寒かったでしょ? コーヒーでも飲みに行きましょ」

「ったく、遅ーんだよ。さっさと連れて行け」

「アンタに言ったんじゃないわ!! 凍死でもしてなさい」


 また口論が始まった。

 -----詩織は何処まで知ってるんだろう?

 先に大股で歩き出す2人を追いかけながら横目で詩織を見た。「何?」って聞かれたけど、なんでもないとはぐらかしておいた。


「あ」


 詩織の腕を引っ張って制止させた。


「どうしたの?」


 詩織の目を手で覆って顎を上に向けた。そしてゆっくり手を離す。


「雪だよ」

「ホワイトクリスマスね!」


 ふわりふわりと白くて冷たい結晶たちが降りてきていた。それは僕や詩織の肌に当って、じわっと水になって消えた。

 くるくる回って雪と戯れ始める彼女に目を細めた。

 -----ああ、詩織は詩織だ。僕の親友の、詩織だ。

 そう思った。

 これはなんという感情なのだろう? 

 でも、先程までまとわりついて頭を離れないだろうと思っていた、KENと兄弟じゃないかも知れないだとか、彼女のお母さんは本当の所どうなんだろうとか、何処まで真相を知っているのだろう…なんてどうでもよくなるような感覚だった。

 あふれる想いをなんていうのか僕は分からない。

 けど、真っ白な雪にただただ祈った。




 もし。

 詩織がキレないようになっても、この笑顔を見ていたい。


 もし。

 僕がいなくて対処出来るようになっても、そばにいたい。


 もし。

 サンタが本当にいるなら、この願いだけを叶えて欲しい。


 -----できることなら、ずっと一緒に。


X'mas Secretの後の話を活動報告の方にUPしております。

本当は本編で上げようかと思ったんですが、主役がユーヤでなくKENとミカコになってしまったので、こちらにはUPを敢えてしません。


UPするとすれば、“キレる彼女にご用心”が本当に最終回を迎えた時に、番外編として最後の方に組み込む予定ですので、それまで待てない!!と言う方は、活動報告の“最強兄貴と最姉貴にご用心”を見て下さい。

ユーヤ目線、KEN主役でございます。


よろしければどうぞ。

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