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イブ*イブ*イブ


 街を見渡してもテレビをつけても、学校に行っても話題は12月の最大のイベント、クリスマスについてだ。まぁせっかくの24日だというのに、午前中だけ学校で終業式があるのだけど、そんなことは皆おかまいなし。午後から誰と何処に何をしに行くなんて話ばかりだ。まだ12月半ばでこの調子なのだからクリスマスが近づいた日にはどうなるのか。

 皆の高いテンションとは逆に僕はだるくて、窓の外をぼーっとしながら皆の話を聞いている。


「山田くんはクリスマスどうするの?」

「馬鹿、虹村と一緒に決まってるだろ」


 ゆっくりと前を向きながら机の上に伸びた。そして首を横に振る。


「ええ!? どうしてよ、ヒドーイ」


 酷いのは皆の方だ。全然僕らの関係を信じてくれない。

 クリスマスはクラス何人かで集まってパーティーをするとか言っているのに、僕たちは付き合ってるのだからと誘ってもくれない。え? 拗ねてるよ、当たり前だろ。予定なんて全くないのにあるものと見なされているから除け者扱いだ。


 まぁ実は心のどこかでそれがいいとも思っている。なぜか? それは僕には唯我独尊、天上天下、我が道を行く姉さんが詩織を狙っているからだ。傍若無人な彼女がクリスマスなんてイベントを見逃すなんて思う? ないね。しかも今年は珍しくお付き合いをしている男性はいないようだから、確率はグーンと上がる。ああ、ブルーだ。僕の予想ではそろそろ…

 携帯にメールが入ってきた。

 予想通りの人物からのメールだと気づいた時点で内容が分かってしまった。一応確認してみるが(クリスマスイブは詩織ちゃんを誘いなさい、うちに。姉より)と書かれてある。やっぱりね。もう説明をするのも面倒になってきて詩織の肩を叩いて携帯画面を向けた。


「予定は?」

「未定よ」

「来る?」

「いいの?」

「迎えに行くから…」


 姉さんに詳細を聞くメールと父さん母さんのことも聞いておく。そう、あの2人は婚約者だなんて、してはいけない勘違いを起こしているので詩織を家に連れて行くのは怖いのだ。程なくしてイブの詳細と父さん母さんの所在が帰ってきた。いないらしい、ホッ。


 なぜか浮かれたムードについていけない僕はボーッと過ごしてしまって、気がつけばクリスマスのイブのイブのイブだ。つまりは、12月22日。

 明日は休みってことで、追い込みをかけるように学校中でデートの誘いだとかパーティーの誘いだとかが行われている。眠った振りを机の上でしていたら、席の前で神無月さんが末長を誘っている声が聞こえてきた。バレないよう顔を上げれば、真っ赤に俯いた神無月さんの顔と驚いて腰を抜かしそうになっている親友が見えた。

 -----積極的だ。

 さすがはムードメーカーだと感心しつつ、気づかないふりをしてまた机に突っ伏した。

 肩を叩かれた。

 起き上がれば末長に田畑くん、他数人の男の子が僕の周りを囲んでいた。


「明日休みだろ? 買い物に行こうよ」

「何の?」

「ばっ、クリスマスのプレゼントを買いにだ」


 そういえばこの顔ぶれ、みんなどこかにデートだと言う人達ばかりだ。末長を見れば、珍しく自信なさげに俯いている。

 -----仕様がないな。

 ついつい親心というものが芽生えてきてしまって、末長の為に承諾する。すると彼は曇らせていた表情をパッと明るくさせた。僕に来て欲しかったみたいだ。心の中で可愛いとこあるなと思いつつ、明日の集合時間を聞いた。

 電車の中でつり革に掴まって揺られている。目指すはいつぞやで行ったデパート街、平城駅だ。


「わざわざ平城駅まで行かなくても」

「馬鹿だな山田くんは。それくらいしないと満足してもらえるのなんて買えないぞ」

「そうそう。サボってて逃げられても知らないからな」


 唇を突き出す。逃げられるも何も、付き合っていないのだからそんな心配は無用なのに。

 ふと横を見るとまた表情が芳しくない末長。


「どうしたの?」

「いや、神無月さんって何が好きなのも知らないなって」

「「あーあ」」


 一同肩を落として「前もってリサーチしとけ」だの「最初で最後のデートでいいじゃないか」だの好きなことを言い始めた。可哀想に思いつつも矛先を向けられないよう黙って傍観した。


「なかなかいいのないなー」

「だいたい、アクセサリーなんて男の俺たちがわかるわけねーよな」

「そうそう。可愛いって何?」


 ブツクサ言いながらも一生懸命選び始めるクラスメイトを見つつ、末長の背中を軽く叩く。


「たぶんさ、神無月さんは君が贈るものだったらなんでも嬉しいと思うよ」

「そうかな?」

「自信持って、僕も一緒に選ぶからさ」

「山田くん、やっぱりいいヤツだな」

「今更わかったの?」


 笑いながら他のメンバーの隣に並んだ。でも確かに良く分からない。指輪だけでも飾りの何もないものから細いもの、太いもの、石が入ったもの、掘ってあるものなど様々だ。他にもネックレスや髪飾りなど…あり過ぎて皆の言うようにどれがいいなんて決められない。仕方なく2件目に脚を運んでいると、反対側から女の子達が歩いてきた。それは、神無月さんや田畑くんの彼女など丁度僕らとクリスマスを過ごすメンバーに対をなす人達だった。

 -----あっちはあっちで買いにきてるんだ。

 そうは思ったものの、ここは互いにプレゼントを買いにきたなんて一言も言い出さない。お互いに空気を読み合って「買い物?」なんてハグラカし合っている。わかっているのにこんなことするなんて、オカしいとしか言いようがない。吹き出しそうになりながら我慢した。

 神無月さんの隣でヘッドフォンを着けている詩織に目をやると、耳から外した。


「何してるの?」

「皆と買い物だよ」


 僕も皆に合わせるようにそう言った。詩織はニコッと笑って他の人達を観察し始めた。横顔を眺めながら、思わず口にしてしまった。


「詩織は何か欲しいものある?」

「うーん。言われると難しいわ。ユーヤは?」

「僕? 僕は姉さんさえ憚って入って来れないような落ち着ける場所…かな」


 無理な注文をしてみる。こんな物、プレゼント出来る訳ない。そう、お金出してまで買わなくていいということを暗に指し示しているのだ。詩織は首を傾げ、斜め上を見て思考を始めた。


「詩織こそ欲しいもの言って欲しいんだけど」

「そう…ね、一生忘れることの出来ないもの…かしら」

「それは物? それとも…」

「どっちでもいいわ」


 僕の思考を理解したのか、それとも理解していないのか分からないがこちらも難しいことを言ってきた。

 -----忘れられないもの、ね…。

 グループ同士で手を振って歩き出すと頭を小突かれた。痛い。


「何聞いちゃってんだよ」

「そうだ、こっちまでヒヤヒヤしただろ?」

「ごめんごめん」


 笑って誤摩化すと今度はニヤニヤされた。


「で、何欲しいって?」

「一生忘れられないものらしいよ」

「何だそれ?」

「さぁ」


 すると田畑くんが僕の肩に腕を巻き付けてきた。こ、れは!!

 ヘッドロックだった。ぐ、苦しい。


「山田くんがついに男になる時が来たか」

「はぁ? げほ…離して、よ」

「嫌だね、言ったら走って逃げる準備なんだから」


 ぐぐぐっと首が絞まってきた。涙目になる視界で周りを見れば、末長も他の男子も少し距離を取って走り出しそうな体勢だ。


「ちょ、本当苦しいから」

「思い出に残るものって何だと思う?」

「さぁ…ね、そろそろ、離し…」

「聖なる夜、恋人同士の夜。そんなの決まってるだろ、初エッチだと思う!!」


 キュっと最後に締め上げられたか思うと、街中では決して言ってはいけない爆弾発言、いや核爆弾を投下して田畑くんが走り出した。そして爆笑しながら走って行くメンバー。喉を抑えて大きく深呼吸しながら赤くなった顔で彼らを睨んだ。

 -----最低。

 姉さんがいる家でそんなこと出来る訳がない。というか、恋人でもないのにそんなこと…またしても顔が赤くなってしまって、皆を追いかけるのが遅くなってしまった。



 

 結局、田畑くんともう一人はプレゼントを買ったものの、僕と末長ともう一人の男の子はまだ何も決めていない。気分転換にと昼ご飯を食ているが、末長の浮かない表情は一向に良くなりそうにない。仕方なく皆に電気屋さんに行こうと提案してみた。そう、末長の大好きなカメラがあるのだ。行けば彼のテンションが上がる気がした。


「カメラなんてどう?」

「高ーよ」


 なんて言いつつもコンパクトカメラを見て歩く末長。この子も素直じゃない部類のようだ、知ってたけど。


「うぉおお!?」

「どうしたの?」

「これ、トミのトイカメラで定価だと2万5千円くらいするんだけど…」


 見てみれば価格がかなりプレイスレス。

 皆でこれだ!! と騒いですぐさま末長に買うよう言った。彼は顔を赤くしながら渋々的なかたちでレジへ行った。ぷぷ、本当は自分もコレがいいと思ったくせに。


「あ、ipodコーナー行っていい?」

「プレゼント!?」

「まさか。新しいの出たらしいから自分のをね」

「おい」


 突っ込みを受けながらコーナーをグルグルまわる。ふと、ヘッドフォンコーナーが気になった。別段今使っているのに不満がある訳ではないが、とりあえず見に行ってみる。


「あ」


 視界に頭から掛けるヘッドフォンが目についた。

 -----そういえば詩織が今使ってるのは耳に直接付けるやつだったな。

 彼女がコトある度に耳からポロリと落としていたのを思い出した。耳の大きさに合っていない証拠だ。この頭に掛けるヘッドフォンならそんな心配はいらないし気密性も高くて、プッツンワードを誤って聞く可能性も低くなるだろう。

 しゃがんで本格的に見始める。

 多分彼女は持つもの全て可愛いものを揃えるようにしていたので音の良さよりデザイン重視で見る。と、panaさんの歴代シリーズの一つが「私を買って」と僕に語りかけてきた。頭の部分は珍しくただのプラスチィックじゃなくって革製品で包まれていて、耳当ての部分だってちゃんと設計されているようだ。ちょっと年式は古いが…。

 膝を打って立ち上がる。


「山田くん、いいのあった?」

「うん」


 にっこり笑ってレジに並んだ。


挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)



連載2ヶ月記念に頂きました絵たちでございます。

詳細&お礼は活動報告にて。


でも一応、お礼を一言。

舞花ちゃん、のんべぇさん、絵をありがとう!!

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