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キューティーブロンド #4


「り、リザ。ほら、言ってやったんだから離れろ!!」

「No!! 何度でも呼んでほしいノデス!!」


 あれから、休みの時間になればどこからか番長の匂いを嗅ぎ付けてはリザは番長に言いよっている。なのに、番長はいっつも「離れろ」「詩織が好きだ」とか言って彼女を寄せ付けようとはしない。素直じゃないんだから。

 まだ丸1日しか見ていないのに、見慣れてしまった光景を眺めつつサンドウィッチを頬張った。


「山田裕也、お前なんとかしろ!!」

「無理」


 顔を真っ赤にした番長に即答する。

 だいたい、僕らがいるのが分かっていながら屋上にやってきたのは彼だ。なんだかんだでリザに会いにきているんじゃないかと僕は思う。横では末長が「けっ」と悪態をついていた。


「ねぇユーヤの家はスカイプついてる?」


 ふいに詩織から話しかけられた。


「あー、一応入ってるけど」

「リザが帰ったら使わせて」


 そう、リザは明日を最後に留学を終えて本国に帰ってしまうのだ。だから詩織は彼女とこれからも連絡する方法を探しているらしかった。一応2人とも互いの住所や携帯番号を聞いているものの電話は国際電話でないと無理だし、国際郵便は時間がかかるしお金もかかる。だから僕の実家でみたスカイプが使いたいらしい(ちなみにリザの家もスカイプ)。

 どうせ母さんと父さんがかけてくるだけで、それ以外の人なんてほとんど使わない。

 勿論。僕だってリザと話がしたいし、彼女の友情を応援したい。


「好きな時に来なよ」


 詩織はその言葉を聞くと凄く嬉しそうな顔をした。


「五十嵐は私のコト好きににならないデショーカ?」

「ばっ。なるわけねーだろ!!」


 急に大きな声がしてきた。振り返ると追いかけ合っていた2人が向かい合っていた。


「デモ。もう時間ナイ。スキっておっしゃらないと、私、しょんぼりでアメリカに帰るのヨ!?」

「言うか!! あーもう、アメリカでもイスカンダルにでもどこにでも飛んで行け! 俺のいない所にな!!」


 五十嵐番長がそっぽを向いていった。

 だから彼は気づかなかった、リザがとても傷ついた顔をしていた事に。


「ら?」


 彼がこちらの様子に気づく時には、リザは詩織の手を引いて屋上を後にした後だった。

 僕と末長、委員長は彼を冷たい目で見やった。どうして彼女の気持ちが本気で、少しでも引き止めて欲しい、少しでも気にかけて欲しい、というリザのメッセージを素直に受け止めてあげないのだろう。

 僕らの呆れ顔を見た彼は「うっ」とたじろいだあと、肩を落としてこちらに近づいてきた。


「ちょっと、酷いんじゃないですかぁ?」

「そうだよ。リザは本気なのに」


 僕と委員長が彼を責めた。


「いや、でもうまくいかないならいかないで僕はいいけど」


 -----末長…。

 番長に先に彼女が出来る事を危惧している彼は本音をぶちまけた。そういうところ嫌いじゃないけどね。

 大きな体を小さくしながら俯いている。そういえば、勝手に僕は番長は照れていると解釈しているだけで、実は彼の気持ちなんて聞いた事ない。もしかしたら僕の勘違いなだけで、本当にウザイなんて思っているんじゃないだろうね?

 自分の事じゃないのに、怖くて聞けなかった。





 放課後の帰り道。

 委員長も末長もいなくなったコンビニの前で詩織が僕の制服を引っ張ってきた。


「ねぇ明日リザ帰っちゃうでしょ? 何かプレゼントを渡そうと思うんだけど」

「いいね」


 頷いて彼女の意見に賛成した。

 ショッピング街を一緒に歩くがコレといったものが中々見つからない。ショーウィンドウとにらめっこしながら、詩織は頬を膨らませた。ガラスに映る彼女の顔を眺めていると、一人の人物の顔も反射していた。番長だった。

 振り返ると駅の方へ歩いているようで、僕は思わず声をかけた。


「おお、山田裕也…デートか? ああ?」


 胸ぐらを掴まれた。

 誤解だと首を振って、詩織に助けを求めるとすぐさま救出してもらえた。


「明日リザが帰るからプレゼントを一緒に選んでたのよ」

「ああ。アイツ明日帰るのか」

「そうよ。あんたも一緒に買いなさいよ」


 切れ長の目が詩織の顔を捉えた。しかし、すぐに視線は外され彼は歩き出してしまった。


「待ちなさいよ!」

「俺が好きなのは…詩織、お前だけだ」


 -----うわ、クサい…。

 多分、島波さんしか言ってはいけないような台詞を簡単にいう番長を僕は逆にカッコいいと思ってしまった。

 振り向く事さえせず遠ざかって行く。


「でもリザはあんたのことを好きなのよ!!」


 拳を握りしめた詩織が叫んだが、それでも彼は全く反応しようとしなかった。





 そして、ついに木曜日。

 リザはが5時にはタクシーで空港に向かうという。

 机の横には大きな旅行用鞄と通学時に使用していた鞄が並べられている。帰りの会が終わって、お別れの時間が迫ろうとしているのに僕と詩織は先生にお願いしてまだ教室にいた。


「ユーヤ…」


 青い目に見つめられ、堪らず彼女とハグを交わす。目頭が熱くなって鼻がツンとした。

 暖かい体温の余韻を感じながら、ゆっくり離れると微笑された。


「リザぁ」

「詩織ぃ」


 うーっと小さく2人は呻きながら抱き合っている。

 詩織にとっては初めて出来た女の子の親友との別れだ。余程つらいのか、全く彼女から離れようとしない。


「リザ、時間ネー」


 もう一人の留学生の男の子がリザを呼んだ。

 リザは詩織の背中をポンポンと優しく叩いて、チュチュと耳元で音を立てた。


「ユーヤ、詩織をお願い」

「うん」


 顔を涙でグシャグシャにする彼女をリザから受け取って僕は笑顔を作った。詩織にハンカチを渡してリザの後に続く。


「あの、番…」


 言いかけて止めた。今更何を言ってやるっていうんだ僕は。

 変に期待を持たせるような事を言ったって仕方ないし、励ますのだって無意味な気がする。俯いてリザの赤いスカートを追った。

 校舎を出ると、嫌に風が吹いていて目が乾く。

 顔の前を押さえながら黒いタクシーまで歩くと、リザがこっちに向き直った。


「1週間、ありがとうネ。ユーヤにも詩織にもお世話になったし、楽しかったヨ」

「リザぁ。ううー」


 さっきまで少し泣き止んでいた詩織がまた嗚咽を漏らし始めた。


「ユーヤ…詩織泣かしたら腹切SHOWヨ」

「…切腹ね」

「そう、ソレ。詩織…日本に親友で来てよかったヨ。また水戸黄門様の話しようネ、仕事人様も」

「ううー、うん」

「泣かないヨ。せっかく可愛い顔が台無し」

「あうーーー」


 詩織の頭をポンポンと触って彼女はタクシーに乗った。窓が開いて、彼女の顔が見えた。


「五十嵐のことは…残念だけど気にしてないヨ。だから、彼を責めないデ」


 リザは精一杯の虚勢を張って笑っている。


「あ、それとユーヤ、近うヨレ」

「何?」


 耳打ちをしてきた。

 しゃがんで顔を彼女のそれに合わせると暖かい手が僕の耳についたのが分かった。


「詩織とは接吻の関係どころじゃなかったノネ! ゴメン勘違いヨ」

「は?」

「もう…やっぱりユーヤはシャイ!! 2人は…な関係だったなんて」

「!?」


 驚いて後ずさると、ニィっと笑う彼女の顔はゆっくりと水平移動を始めた。


「リザーー!!」


 大きな声が聞こえた。


「五十嵐!!」

「その、なんだ!! また来い!!」

「OK! My darling(ダーリン)!!」

「ばっ…」


 オイル交換されていない黒い煙は吹き上がって、オレンジ色の空に薄くなって消えた。

 一瞬だけだけど、ダーリンと言われた瞬間に五十嵐番長がまんざらでもない顔をしたのを僕は見逃していなかった。案外、うまくいくんじゃないかな? 僕は満足感を覚えて微笑んだ。


 -----と、忘れる前に。

 泣いている黒髪の親友に向き直った。


「詩織…」

「うぐ、ぅ。何?」


 視線を合わせる。

 彼女の顔がビクついた。勘の鋭い君なら、今僕の顔が菩薩のように優しいのに心は黒いのに気づいただろうか?

 鼻をすすり上げながら彼女は涙を拭って、いつもの表情に戻した。


「何よ」

「リザに、僕らの関係をなんて説明したのか教えてよ」

「そ、それは!! さっき聞いたんでしょ!?」

「自分の口でちゃーんと説明してご覧?」


 逃がさないように微笑みかけた。

 それでも目線だけはきっちり彼女は逃げている。ピクリと眉山が上がった。

 -----なんてね、実はそこだけ何言ってるか聞こえなかったんだ。

 初めての完全勝利に心の中で舌を出した。


「じ、実は…」


 彼女の真っ黒な目に僕が映っている。


「ごめん! SとMな関係だって言ったのよ!」

「え?」

「だって、なんて説明していいか分からなくって。だから咄嗟に『ユーヤは私が叩いても嬉しいみたい』そう言ったのよ。そしたら『じゃあ、ユーヤは!! 聞いてもイイネ!?』って言われて。止めてっていったら、少し考えて『ああ、だからユーヤは詩織にナニされても怒らないネ。masochist…(マゾ)』って理解し始めたから…」


 グラリと足下が揺れた。

 -----ちょっとでもシリアスに考えてた僕は何だったの?

 普段なら顔を赤くする所だが、今は頭に血が上ってこない。


「そしたら…『masohistとは体合わなイ。ユーヤはやっぱり友達止まりでイイネ。詩織に譲る』って」


 今すぐリザを呼び寄せて誤解を解きたい。

 おしゃべりな彼女はきっと、向こうの友達に残らずそう言いふらすだろう。でも、彼女は今から連絡の取れない飛行機の中で…。

 詩織をジトっと睨んだ。彼女は焦った様子で僕の数歩前を歩き始めた。

 -----僕はマゾじゃない。


「どっちかっていうと、脱いでもらうより脱がしたい方なんだけど…」

「え、何か言った?」

「んー、そのうちね」

「何ソレ?」

「聞かない方がいいと思う」

「えーなんて言ったのよ!」

「君が女王様で僕が…」

「キャー!! ごめんなさい!!」


挿絵(By みてみん)

↑あるお絵描きサイトで可愛い画を発見致しまして、書いて頂いた挿絵でございます。

柊様。ご無理を言って本当に申し訳ありませんでした、そしてありがとうございました。


見てください、詩織の可愛いこと、ユーヤの弱気な表情。

もうもう、萌え!!(笑)

可愛過ぎです。柊様最高!!

いつか、一杯こう言うの書いてもらったり頂いたものだけの挿絵コーナーを作りたいですね。うふふ。


追伸。

活動報告に裏話をUPし始めました。

題名の由来を中心に色々書いていければと思います。よろしければどうぞ。

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