キューティーブロンド #3
結局その後、リザと詩織は別々の方向へ走って行ってしまったので、僕はどちらも追いかける事が出来ず一人で家路についた。
そして隣には昨日まではあんなに仲良さげに話していた2人が全く話をしようとせず、時計ばかりを見ていた。
朝の会が終わって気づけば彼女らの姿は教室にはなくって、僕は1人焦った。
-----どこに!?
「おい! 山田くん!?」
末長の声を聞きながら先生のいない教室を飛び出した。
授業のあるこの時間、2人が行く場所は多分、いやほぼ屋上だ。何度か仲良く食べた昼ご飯を思い出しながら、僕の脚は階段を上った。
相変わらず体力のない僕は、手すりに体のほとんどの体重を預けながらようやく屋上の前の扉の前についた。そっとドアを開けると、2人が向き合って黙って立っていた。声をかける事もせず、ゆっくり扉を閉めた。なんだか僕がいてはいけない気がして。でも、せめて…留まらせて欲しい。扉を背にして座り込むと、無機質な校舎のコンクリートと見えない冷えた空気が僕と向き合ってシーンとしていた。
リザの大きな声だけが聞こえてくる。きっと詩織も何か言っているんだろうけど、彼女ほど声は張っていないのでよくわからない。
「昨日も言ったケド、ユーヤを返して!!」
「大切なら、傷つけるなんてオカしいヨ」
「私は!! 私の方が先にユーヤのこと好きになったんだから、返してヨ!!」
指先だけがピクリと動いた。
-----スキ?
堪らず顔を手で押さえ込んだ。リザが僕の事をそういう風に見てたのか、それとも友達としての好きなのか? 言葉だけじゃ、表情を見なくちゃわかならい。でも、今の僕にはどちらだったよかった。
2人が早く仲直りしますように…それだけを願って止まない。
でも、それを邪魔しているのは僕と言う存在で、僕と詩織の関係のせいで、詩織とリザの友情のせいで、リザと僕の思いのせいで…全てが繋がっていて全てが障害だ。
「ユーヤの事、どう思ってる!?」
扉の向こうで風が唸ったのが聞こえた。
分かっている答えに僕は思わず耳を塞ぐ。聞こえもしないのに。
「納得出来ないヨ」
「しっかり私を説得してヨ」
-----もう止めてよ。
それは詩織に対してか、リザの行動か、僕へか…。
思った。
でも、僕は今飛び出して行けない。これは彼女達の問題。
またくぐもった色をしたコンクリートを見た。
「じゃあ、ユーヤは!! 聞いてもイイネ!?」
「え?」
意図に反して声が出た。
途中から2人が何を話しているか、聞こえなくなったと思ったら今の言葉だった。
リザはなんて言っていたんだろう? 詩織はなんて応えていたんだろう?
「止めて!!」
詩織の声が初めて聞こえてきた。
「どうして!?」
「どうしてもよ!!」
項垂れてことの運びを見守る。
小さく呼吸を繰り返しても聞こえてくるのは風の音だけ。冷たい床のせいで、お尻の感覚がだんだん奪われてきた。
「お?」
「あ」
と、目の前に番長が現れた。
「何やってるんだ、こんなところで」
「いや…ちょっとね」
視線を泳がせると、彼は何も気づいた様子はなく普通に笑いかけてきた。
「屋上…」
「え?」
「屋上入らないのか?」
「いや、今は」
応えようとして、立ち上がると彼は空気も読まずにドアノブに手をかけた。
-----番長のKY!! 少しは雰囲気を察してよ!!
「ちょ!!」
風に押されてドアは勢い良く開いて大きな音を立てた。
振り向く2人の美女。大きな体に阻まれて、よく表情が見えない。
「詩織!! 今までの無礼を許して欲しいヨ!」
「リザ?」
「私、やっぱり恋に生きるヨ!!」
満面の笑みでこっちに走ってきた。
でも僕の胸にはリザは飛び込んでこず、前にいた番長に彼女は飛びついた。
「「え?」」
「鬼タイプ!! この男、私の鬼タイプ!!」
「へ?」
「日本人で私より背が大きいのユーヤくらいしかいないと思ってたけど、こっちの方が背が高いネ! それに、顔がとってもキュートね!!」
嬉しそうに詩織に叫んでいる。
僕と彼女は思わずポカンとした。いや、それ以上にポカンとしている人物がいた、番長だ。
「なん、なんだこの外人さんは!?」
「あーれー!! 声も渋くって最高ヨ!!」
「離せ! なんだお前!?」
「私はユーヤの友達、詩織の親友!! そして貴方の恋人になるデショウ」
「何言ってるんだお前!?」
「No! お前違う、リザよ!!」
目を丸くしながら、僕は詩織の元に歩いた。
「どういう…ことかしら?」
「あーいうことなんじゃない?」
前を向けば顔を真っ赤にして逃げる番長に、満面の笑みで彼に走りよるリザ。引きはがしても引きはがしても、まるでゴムでもついているかのように執拗に追いかけている。どうやら、本当に番長に恋してしまったようだ。
-----一体、さっきまでのはなんだったんだ?
「ねぇ、どこまで聞こえてたの?」
隣で腰を抜かしている詩織が聞いてきた。
「…リザの声だけだよ」
「本当に?」
「本当。あ、でも詩織の声も少しだけ聞こえたかな。『止めて!!』と『どうしてもよ!!』だけ。ねぇ途中は何話してたの?」
彼女は僕を真剣に見た。
どうやら僕の目に嘘がないと判断した彼女は視線を外して笑った。
「教えない」
「酷い! 心配してきたのに!!」
「内緒よ」
「教えてよ!!」
「…そのうちね」
彼女の綺麗な笑顔がめいっぱいに広がって、僕はそれ以上聞けなくなってしまった。
-----ん?
「リザは番長に惚れたんだよね?」
「多分ね。一目惚れじゃないかしら?」
「…てことは、少なからず僕と番長は似てるってこと!?」
僕のコト好きっていうのは聞こえたんだけどと、付け加えて言うと詩織は大笑いした。
なんだよ。
「似ても似につかないわ」
それはどういう意味?
リザのあの好きは、恋としての好きではなく友情の好きだったのか? 僕は分からなくってしばらく頭を抱えた。
リザの本音も、詩織の言葉も全ては闇の中。それはもしかしたら、男子禁制*女の子同士しか話せいないような内容だったのかも知れない。僕はそう完結して、走り回る2人を見た。
「ユーヤ、彼の名前は…」
ほぅっと恋するため息をつくリザを横目で見ながら五十嵐番長だと伝えた。
「OH! 名前もSo cool!! ああ、デモ五十嵐は詩織のコト好きだって…」
「大丈夫よリザ!! 私は絶対に番長なんて好きにならないから!! この友情ストラップにかけても、いいえ、血判に賭けてもいい!!」
リザの手をキュッと握りながら詩織が目を輝かせた。
僕は何も言えない。この場合、一番可哀想ななのは誰だろう…詩織の事を好きな番長だろうか? 番長の事が好きなリザだろうか? それとも振られたか振られていないかもよくわからない僕なのだろうか? 僕な気がする。
「絶対ヨ!! 血判は痛そうだからしないケド、友情はお陀仏したくナイ!!」
「勿論よ! 私はリザとの友情の方が大切!!」
「さすがBest friend!! ユーヤを譲っただけはあるネ」
------譲るって…僕は物じゃない。
肩を落として彼女達の後ろに続いた。