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意地っ張りの修学旅行

 一日目の夜は皆で恒例の枕投げをして過ごした。

 顔面に何回も当っていたかったが、それでも可笑しくて、先生に注意されるまで止められなかった。

 

 修学旅行2日目。

 今日は唯一自由行動の日とあって、朝から皆張り切っている。

 僕たちの班の予定は祇園から八坂神社、ねねの道を通って清水寺、そして五条の坂の下からホテルへというコースになっているのだと、末長から聞かされた。もちろん、班員の中には付き合っている人もいて、別行動をさせる。そこは放っておく。恋人がいない人はいないなりの楽しみ方があるのだ。そう、男女の班が一緒になって移動というわけ。もちろん僕たちと一緒に行動してくれるのは詩織と委員長のいる班の子達だった。

 というわけで、京都駅からバスに乗って祇園へついた僕たち。


「まずはつぢりの抹茶パフェよ!!」


 女の子4人が喜々として騒いだ。先にズンズンと進んでいく彼女達を追いかけると、あったあった。開店前だと言うのに人が並んでいて僕たちは15分程店の外で待たされる事となった。


「おいしー」

「抹茶の味が濃いね」

「あ、そのプリン私のに入ってない!」


 どうして女の子と言う生き物はこんなにも甘い物が好きなのだろうか?

 抹茶と言えど、あまりのパフェの大きさに僕は途中でギブアップしてしまった。


「あ、ユーヤ残すなら頂戴」

「いいけど…」

「わーい、私も食べますぅ」


 ------良く入るよ。

 そして…


「良く撮るね」


「当たり前じゃないか!! 天使達が…ああ!!」


 沖縄旅行の時のように激しく一眼レフのシャッターを切る末長。彼がいればかなりの数の詩織の写真を勝手に撮ってくれるだろう。姉さんに頼まれた彼女の写真は末長に任せる事にした。



<ねねの坂>


「わー、いろんなお店あるよ」

「あ、あのお店可愛い」

「私もそこ行きたかったんですぅ」


「あ、ここ…ちょっといい?」


 後ろを向いたが班員は各々の好きなお店に入ったり食べたりしていて誰も僕の話なんか聞いていなかった。いいけどね。

 昔っぽい扉をくぐって中に入る。

 ------姉さんが言ってたのどれかな? 高いからそんなにいらないって言ってたけど。

 そう、ここは姉さんが大好きな梅干し専門の老舗。

 京都に修学旅行に行くと言ったら、ここの梅干しを買って来いと言われたのだ。


「すみません、一番いいのは」

「お土産ですね。修学旅行生さんでしょ、これが一番高いんだけど、そのバラがこちらに」


 値段を見たら梅干し一つ300円。

 なんて高いんだ。

 でも、10個くらいは買って帰らないとなーあとが恐いし。ま、残金は13000円。あとはお昼以外にそんなお金使う所ないし、いいかな。そう思い財布を取り出した。


「あ、ユーヤこんなとこに」

「うん、姉さんにね。好きなんだって、ここの梅干し」

「へー美味しいんだ! じゃあ私もお姉さんに半分出すよ」

「え、いいよ」


 詩織が財布を出すのを止めるが、思いっきりデコピンされた。痛い。


「どうせ私もお姉さんに買って帰ろうと思ってたの! だったら、好きな物の方がいいでしょ。ほら、割り勘」

「う、うん」


 彼女から1500円受け取って、おじさんにお金を渡した。

 



<清水寺>


「うおー高いな!」

「山田くん飛び降りてみてくださいよ」

「馬鹿言わないでよ、ペチャンコになって死んじゃうよ」


 今度テンションを上げたのは男子だった。男ってのは結構、仏閣とか寺院だとかが好きだったりする。

 って、女子がいない。


「山田くん、末永くん、坂東くん、こっちですぅ」


 委員長が手招いた。

 そこは京都地主神社と書かれてあった。

 -----清水寺のなかにこんな神社あるんだ。それにしても…。

 女子が多い。大正学園の女の子全員が集まったんじゃないかと思うくらい、人で溢れ替えっていた。


「きゃー、可愛い!」


 彼女達が叫ぶ目線の先には金色の兎が小槌を持った像。小槌には(えんむすび 京都地主神社)と書かれている。

 -----恋愛の神様ね。

 なるほど、と手を打ち、委員長に連れられて鳥居をくぐる。

 すると多くの観衆に見守られ、女の人が目を瞑って歩いていた。


「何やってるの?」

「あれは、そこの石から向こうの石まで目を閉じたまま行き着けると、恋愛が成就するんですぅ。もう他の人達は先に並んでくれてるので。男子はしますかぁ?」


 首を横に振る。末長だけが参加するようだった。誰となんてお見通しだが。班員の子2人も、委員長も、詩織も、そして末長も石渡りに挑戦していた。

 ------委員長とかは分かるけど、詩織もあんなのするんだ。

 意外なものを見たような気がして、目を丸くしてしまった。ああ、そういえばメルヘン好きだったな。

 清水寺の本堂に参拝して、音羽の滝へ。3つの筋からなるこの滝は、右から健康、学業、縁結びと言われているらしい。本当はこれは観光用らしいけど、まーどうでもいいか。


「山田くん、どれにしますか?」

「坂東は?」

「健康ですかね」

「プッ、爺臭い。じゃー僕もそれにしようかな」

「しかし、多いですね」

「暑いしね」


 そう、ここは結構渋滞ポイントになっていて、僕たちの学校以外の修学旅行生もいっぱいいて、時間がかかる。朝祇園から歩いてココまで来た僕らはすでに体力の残りゲージも少ないのだ。でも、それは僕らだけじゃなくって、女の子達もそうで。暑そうに何度も手をパタパタさせている。

 ようやく順番が来たって言うのに前にいた老夫婦がなかなか健康から離れてくれない。

 ------仕方ない、学業でも…。


「全国模試5位はもう学業なんて飲むなー!!」

「え?」


 真ん中の水を飲もうと思ったら、下の方でまだ並んでいるクラスメイトが喚いた。

 -----じゃあ縁結び。


「馬鹿か! てめー殴るぞ! これ以上誰とくっ付くつもりだ浮気者が!!」


 今度は違う所から罵声。

 はー。諦めて、当初の目的である健康からお爺ちゃんおばあちゃんがいなくなるのを待った。



 ようやく清水寺を脱出し、バス停に向かって長い坂を店に入りながら下っていく。と、ここで女子グループの脚が止まった。ガラス細工のお店だ。末長と坂東に目配せをして一緒に店の中に入っていく。中にはアロマのランプやかんざし、トンボ玉のネックレス等、如何にも女の子が好きそうな物が所狭しと置いてあった。

 中にはもう買う物を決めてレジに並ぼうとしている子もいた。

 店内に目をさらに廻らせると、ある一カ所で詩織が足を止めて真剣に何かを見ていた。気になって近づく。


「何かいいのあったの?」

「ん、これ可愛いーなって」


 彼女の手には小さな薄ピンクの蝶を象ったトップがついたネックレス。蝶々の中には京都らしく和っぽい金色の華で模様が描かれている。欲しいのだろう、さっきから全然ココを動かないでずっと腕を組んでいる。


「買いなよ、京都なんてなかなか来る事ないんだし」


 頷きながら彼女は財布の中を確認した。残金、3000円。蝶のネックレスは4,500円、明らかに足りない。買い物をし過ぎたのだ。僕は見ていた、お昼ご飯以外に、もの凄い勢いで手ぬぐいや油取り紙や小物入れを買ったり、八つ橋や京都プリンを買っている所を。がっくりと項垂れてネックレスを元の場所に戻す彼女。


「さっき姉さんのお土産分がちょうど1500円だから、返すよ」

「いいの、あれは私が出したかったの!」

「でも…欲しいんでしょ?」

「もういいのよ、またどこかで似たようなの見つけるわ」


 そんなこと言いながらも、まだ未練があるようで彼女はネックレスをちらりと見た。

 -----意地っ張り。

 きっと無理に1500円を握らせたって、彼女にプレゼントだって買ってあげたって彼女は受け取らないだろう。珍しくトボトボ歩く詩織の後ろ姿を眺めた。


「……」


「ねぇ委員長、さっきさ…」




 夕食の時間がやって来た。

 今日は京風すき焼きらしい。何が京風なのかというと、多分おふが入っている事だろうか? もしかしたら作り方とか出汁が違うのかも知れないが、見た目ではそれしか変わらない。

 各班、グツグツ鳴っている鍋を囲みシーンとしている。そう、肉がほどよくなるまで待っているのだ。食べ盛りの男子高校生が肉を食べずして何を食べるって言うんだ。お互いに牽制しながら自分のテリトリーの野菜を食べていく。


「ユーヤ!」


 振り向くと詩織が立っていた。

 息を切らして、下を向いている。


「どうしたの!?」

「ユーヤでしょ、委員長に…私が落とし物したって言ったの」

「…さぁ?」


 僕は自分の前にある肉を見た。まだ赤い。隣では坂東と末長が2人の間にあった肉の取り合いを始めていた。

 腕を掴まれた。

 ゆっくり振り向くと顔を真っ赤にした詩織の顔。

 そして鎖骨の位置には…薄ピンクの蝶のネックレス。


「あ、ありがとう。そ、それだけだから!!」


 僕は笑って鍋に目を戻した。最後のお肉が末長の口の中に吸い込まれていく瞬間だった。



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