表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
41/253

先生と呼ばないで #2

 中間テストも全国模試も終わった清々しい月曜日。

 次々と返されてくるテスト結果。成績はいつも通りだ。というか、少しいいかも。当たり前だ、あれだけ皆に付き合わされて勉強したんだ、復習にもなるよね。しかも僕の答案用紙は毎回クラスのさらし者となって皆に成績が筒抜けだった。成績表が配られてもやっぱり誰かに覗かれ、大声でバラされた。感嘆の声が上がったが僕の心はシラケていた。なんだこれは、イジメですか? もはや成績を見せると言う事は僕の中では羞恥でもなんでもなくなってしまった。


 それからの日常生活はというと、僕はやっぱり寝不足で、授業中話を聞いたり眠ったり、たまに先生に言われて黒板の前に立ったりしていつもの変わらない時間を過ごしていたんだけど。放課後になるとまた質問しに来た人がいた。中間テストまでの約束だったじゃない? と断ったがどうしてもと言われ、現在では現代文から英語から化学に至まで全教科を質問されれば教えるようになっていた。

 しかも僕が勉強を教えているという噂は広まってしまい、B組だけでなく他のクラスの人達も一緒になって聞きに来たりしていた。今のところは


「放課後はプライベートな時間にしたいから」


 と言ってあるので、授業の合間の時間や昼休みに留まってはいるが、これがまたテスト期間になったら残されるかと思うと頭が痛い。


「ふふ、すっかり人気者ね」


 毎度の休み時間の質問を教え終わってゲッソリしているところを詩織に話しかけられた。


「脳みそだけがね」

「そんなことないんだけど」

「もう、さしあたっては誰かに脳移植したいくらいだよ。僕の休み時間…」


 安らぎが欲しい。

 そして先生が来る直前に末長からも話しかけられた。首をひねって後ろを向き、


「山田くん、今欲しい物って」

「癒し」


 即答しておいた。


 そして時は流れ。詩織が勝手に勝負を受けてしまった板倉くん(元主席)との勝敗はどうなったかというと…。

 修学旅行2日前の朝。

 出席番号順に名前が呼ばれ、僕の番が来た。そして席に着くと皆の視線が順位表に向かっていた。そう、全国模試は成績上位者は順位冊子に載る事が出来るのだ。ちなみに総合点数もかかれている。


「うわ、板倉くん総合で全国557番だ」

「おおアイツ、スゲーな!」

「総合800満点中763点だってよ、意味わかんね、これで557番なんて」


 -----すごいな、勉強出来そうだったもんな。

 ぼんやり思った。まだ僕は自分の答案用紙しか見ていたので順位なんて分からない。でも…。

 ぶわっと鳥肌が立った。明らかに、合計点数が…。一瞬にして暗算出来てしまう自分が嫌いだ。


「や、山田くんが全国トップ10に入ってる!!」

「何!? どこだ」


 ざわめく教室をよそに、僕は目を閉じて耳を思いっきり塞いだ。それでも、


「ギャー!!」

「何コレ、総合得点793点」

「全国順位…5位!?」


 聞こえて来た叫び声。そしてその後、シーンと教室が静まり返ったのがわかった。

 恐る恐る片目ずつ開けると、みんなの顔が僕に集中していて…

 -----乗り切れ、僕!!

 心の中で叫んだ。


「名前一緒ダネ、同姓同名…」

「大正学園って隣にかいてあるぞ」

「あ、はは…、いや、偶然だって…はは」


 乾いた笑い声だけが響いた。

 本当にそう思っている。だって、こんなに出来ているなんて自分でも想定外だったもの。そう、得意分野だったんだ、そうとしか考えられない。お願い、そんなに見ないで。

 と、教室のドアが勢いよく開けられ、板倉くんが入って来た。


「さぁ山田裕也、ついに時は来た!! 冊子を開けろ!!」

「ん、何? 何だお前ら!?」


 彼は視線の真ん中で目をパチクリしている。

 いたたまれなくなったのか、末長が板倉くんの肩をポンと叩いた。そして、彼の持っていたA5サイズの冊子をパラっと捲った。


「おお、僕の順位は557番か!!」


 自分に感動している彼はプルプルっと身震いした。

 同時に僕も身震いした。ゆっくり立ち上がり、目的の場所までにじり寄る。


「ちなみに山田くんの順位はココ」


 またパラリと冊子が捲られ、末長が指を指した。


「ぜぜぜ、全国、ごごご、5位だってーーーーー!?」


 絶叫する彼を見ながら、詩織の小さな背中の後ろに隠れた。肩から少し透ける髪の暖簾(のれん)から覗くと、人を殺しかけない形相で睨まれた。


「ひぅ」

「5、5位。僕は557位だってのに、5位。その差552人…。点数での差はま、またもや、30点…。」

「あの、そんな気にする事ないよ。偶然だよ、ほら、今回記号問題多かったし、ね?」

「……」

「い、板倉くん?」


 電池が抜けてしまったように動かない彼の名前を呼ぶ。


「な、なんじゃそら−!! お前と僕は絶対に30点開く運命なのか!? ええおい」

「う、うわぁ」


 冊子を引きちぎって大暴れを始めた。

 知的な彼のイメージが一気に崩れた。暴れ馬、いや牛のように猪突猛進してくる彼。情けないが僕は詩織の陰に隠れて細い両腕を後ろから握った。助けて神様、詩織様!!


「ちなみに、中間テストの点数は…?」


 詩織の体から振動が伝わって来た。

 彼の動きがピタリと止まった。そう、中間テストは総合得点は成績表に書かれるが、順位は付かないのだ。つくのは学期末のテストだけ。


「ふふん、聞いて驚け愚民共。合計789点だ」

「ふふ、聞いて驚きなさい。ユーヤは795点よ!!」


 -----火に油を注いでどうするんだ!?


「死ねー!! 山田裕也!!」

「わーーー!!」


 詩織を離して僕は教室中を駆け回った。

 1時間目の先生が来るまで追いかけっこは続けられ、僕は1時間目の授業は疲労困憊で迎える事となった。





 その日の体育が終わって、教室で制服に着替えていると(更衣室は水泳しか使わない、女子は隣の空き教室、男子は教室で着替えるのが通例)


「山田くん、これ男子皆から」


 黒い袋を渡された。制服のズボンだけ履いた状態で受け取る。


「何コレ?」

「ほら、皆のテスト勉強を教えてくれただろ?」

「うん」

「そのお礼。女子は女子でプレゼントするって言うから、これは男子からなんだけど」

「へぇ、ありがとう」


 にっこり笑って机に置き、Tシャツを着た。

 制服の白シャツのボタンをかけている時だった、男子が僕の周りを取り囲んでニヤニヤしていた。


「な、何?」

「開けてみてよ」

「帰って開けるよ、ダメ?」

「今がいいんだよ!」


 -----僕にくれたクセに…。

 悪態が頭をよぎったが、透明なセロテープを開けて大きなその袋に手を突っ込んだ。

 出て来た物は…


「…デラ☆いい女。いけない団地新妻。セーラー服を脱がしちゃイヤ! …ばっ、何考えてるんだよ!!」


 エロDVDだった。

 吹きながらすぐさま袋の中に投げ込んだ。


「いいだろ、それ皆のオススメだから」

「いいわけないだろ! 何、学校に持って来てるんだよ!」

「癒しが欲しいって言ったじゃないか! それで癒されろ!」

「こんな癒しじゃないよ!」

「どんな癒しだ!? 虹村と噂がある割には全然手を出してないみたいだから、タマってるかと俺たちは心配してだな」

「僕たちは友達だ!!」

「嘘付けー、毎日駅近くまで送ってるの知ってるんだぞ」

「それは!!」

「マジか!? 虹村さんの胸のサイズはDか、Eか!?」

「知らないよ!!」


 涙目で訴える。

 教えた結果がこれなんて、しかもエロDVDを学校で渡されるなんて…。

 僕の中の何かが壊れた。

 大笑いする皆の真ん中で、俯いた。


「自粛行為ばっかしてるから、頭悪くなるんだよ…」


 笑い声が止まって、教室がシーンとなった。


「……」

「……」


 ふんと鼻を鳴らして、席に着いた。


「あ、女子帰って来た」

「ヘイ、ガールズー、山田くんが!!」

「!! バカ! 止めてー!!」


 僕が悪かった。だから、本当に止めて。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ