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Close Friend #4

 荒い呼吸を繰り返していた詩織の息を吐ききる音が聞こえたかと思うと、信じられないことが起こった。


「テメーらまとめて、ぶっ殺す!!」


 明らかに詩織の口から低音の、あのキレた時の声が響いてきたのだ。誰も“美人”なんて言葉、口にしていないのに。

 今まで構えらしい構えを取った事のなかった彼女が膝を軽く曲げて半身落とし、右手は前に突き出し、左手で逆手に警棒を持ちミゾオチ辺りに拳を作った。

 -----空手? いや、どちらかというと居合い!?

 しかし普通居合いをする場合は刀の持ち手を利き手で軽く握った状態で構えるのが普通なのだが、彼女の利き手である右手は何も持たず体の正面で手を軽く開いた状態で揃えられているようだ。

 どこかで見た事がある型だった。でも、思い出す事ができなかった。

 僕の不安を他所に女の人達が一斉に彼女に飛びかかった。


「女だからって容赦しない!!」


 詩織は低い声で叫ぶと、正面でカッターを振り下ろさんとしている女の人に飛びかかった。前に出していた手を彼女の肘の下に当て、振り下ろされるのを止めると体を半回転させながら床に女の人を叩き付けた。次に逆手にナイフを持って突っ込んできている人の手を警棒を持っている手で腕を掴んで引っぱり、横に並んだかと思うと顎をグーで殴った。


「虹村ぁ!!」


 何も持っていない女の人が詩織の両手を後ろから持ち、身動き出来ないようにしたが彼女は自分の体を腕より一気に下げて柔道技のように投げた。受け身の取れない女の人は床に落ちた衝撃で苦しんでる。

 彼女は今までの見てきた動きの中で一番素早く、そして乱暴に女の人達を床へ沈めていった。詩織の動きが止まった時にはすでに大我しか残っていなかった。


「こんなもの…」


 そう言って彼女は必要ないとばかりにまだ使っていない警棒を僕の方へ投げた。

 口の端をヒクつかせた大我は何かしらの構えを取った。しかし詩織が間合いに入る方が一瞬早く、何もする事が出来ずに頭突きを食らって、まるで壊れた人形のようにドサリと倒れた。


「あんたが一番弱かったわ」


 詩織は小さく、ふっと笑った。

 殴る、蹴る等の暴力行為しかしていないのに、僕はなぜか彼女の一連の動きを綺麗だと思ってしまった。僕の精神はついに崩壊したのだろうか?

 詩織がこちらを向く前に立ち上がり、振り向く時には彼女に向かって駆けていた。

 もはや条件反射と化してしまったのか、僕は彼女を止める為だけに今動いている。睨まれて構えられても足を止める事は出来なかった。


「詩織!!」


 名前を呼んで手を出すと、彼女は先程ナイフを持っていた女の人を去なした時のように僕の腕を掴んで思いっきり引っ張った。刹那、僕と詩織は交錯し、僕の左耳には彼女の拳が突き付けられ、あと数センチの余裕しかなかった。


「もう少しで僕の鼓膜が破れる所だったよ?」


 ふーっと安堵のため息をついて満面の笑みを向けた。

 ゆっくり腕が離された。

 一文字だった艶のあるピンク色の唇が少し開かれ、彼女の顔も同様に緩んだ。


「大丈夫だって、分かってたでしょ?」

「まーね?」


 彼女が拳を僕に向けるので、僕は末長や坂東とするように拳を合わせた。


「怒ってゴメン」

「いいよ」

「ビンタしてゴメン」

「いいよ」

「一番大切な友達だってくれてありがとう」

「僕こそ」


 彼女と言葉を交わす度に、拳同士でコツンと音を立てる。

 今までにないような美しい、それでいて可愛い笑顔を見ながら僕は目を細めた。

 それは彼女の笑顔のせいか、それとも暮れ行く夕焼けが眩しいせいか…。


「帰ろう、音楽室にいる仲間が来る前に」

「え、そうなの?」

「さっきイケメンがそう言ってたよ、聞いてなかったの?」

「だったら、ボケッとしてないで逃げる!」


 落ちている僕の鞄と自分の鞄、投げた警棒を詩織は拾って僕を急かした。

 鞄を受け取り、一目散に2人で走った。音楽室の横の階段を通り抜け、向かい側校舎に渡り、校門を出た。


「あれ…?」


 詩織の足がもつれて転けた。

 当然と言えば当然だ。あれだけ傷を作って気絶して、起き上がったかと思ったら階段を上がって、しかも何人もの人間を倒してしまったのだから。さすがの彼女の体も限界ということなのだろう。地面に情けなく転がっている前にしゃがんで、


「おんぶ、送るよ」


 顔を見ながらウィンクした。きっとこうなるまで彼女はおぶわれるのを嫌がると思っていたので、手を貸さなかったのだ。


「嫌よ」

「さっきお姫様抱っこしたんだけど。夜市の時も」

「…それとこれとは話が」

「いいじゃないか。ほら、僕の為に格好悪く土下座したっていいんでしょ?」

「ばっ…かじゃ、ないの…」


 そう言いつつも、僕の背中に体を預ける彼女。

 背中に暖かい体温を感じて、ゆっくり僕は立ち上がった。




 

 ☆おまけ☆


後日の話。


 詩織は1日病欠で学校を休んだ。

 当たり前だ。あれだけの打撲、診察した医者が驚いていたくらいだもの。ま、正確に言うと休ませたのだけど。

 実は詩織は次の日絶対に学校に行くと言って聞かなかったのだ。そこで僕はまだ夏休み中だという最凶の姉を呼んで、彼女が一歩もホテルから出ないよう看病と監視をお願いした。もちろん姉さんは快く承諾し、彼女なりに楽しい一日を送ったそうだ。


 3年生のイケメン*大我はどうなったというと、音楽室に呼んであった仲間に倒れている所を発見された。しかも僕を倒すと意気込んでいたのに、みんなが僕より弱いと勘違いしている詩織に負けたということがバレ、取り巻き達も離れてしまって、普通のイケメンになってしまっていると言う事だ。ちなみに僕が勝手にA組の3年生と思っていただけで、彼、彼女らは普通のB組〜D組の3年生である事がわかった。僕としてもそこは勘違いしていたので、心底驚いてしまったが。まぁ悪い事をするからA組だなんて勝手な偏見を持ってしまっていた僕の反省材料でもある。


 そして僕はと言えば、やっぱりというか噂の的になった。

 捕まる所のない屋上から急に詩織を抱えて降りてきて、音楽室に飛び込んだというのは、ある意味伝説となってしまったようだ(Tシャツは次の日に探したが風で飛んでしまったのか見つからなかった)。あと、調理室での一連もなんだか凄い事になっているようだったが、僕は耳を塞いで末長から逃げたのでよくわからない。


 はぁ、せっかく詩織が全国雑誌に載ったというゴシップがあったというのに、あの一連の騒ぎでまた、僕が噂の中心人物になってしまった。ものすごくショックだ。夏休みを挟んでようやく少しは落ち着けるかと思っていたのに、とんだ誤算だった。

 これというのもやはり、元を突き詰めれば、1日早く僕の部屋のドアをこじ開け、自分の好みだからといって勝手に連れ回し、しかもモデルまでさせた姉さんのせいだと僕は確信している。

 まぁ今回の被害状況に付いては、直接彼女に関わった僕や詩織だけでなく、憎いイケメンまである意味不幸のどん底に突き落としたのだからもの凄い被害だったといえよう。


 これを機に、少しは姉さんも反省してくれれば僕は助かるのだが、

「逆恨みしたヤツが悪いのよ」

 と最もな正論で返されてしまったので、僕の取りつく島はなかったわけだけど。

 


こんばんは、河合いおです。

“キレる彼女にご用心”がついに1ヶ月連載できましたー(パチパチ)。

本当は昨日だったんですけどね、話の途中で腰追っちゃ悪いと書かなかったんですが。


飽きっぽい作者が毎日更新出来たのも読者様のおかげです!

毎日多くの読者様に読まれる事を楽しみだけに書いてきましたから、どれだけこれが嬉しい事か!!ありがとうございます。


で、物語的にはですね。

ユーヤと詩織を中心に、またいろいろと展開を考えております。

どういうことかと言いますと今までは友情が主だったんですが、これからは恋愛ももちろん、ユーヤの人間としての成長や葛藤などもどしどし組み込んで行きたいと考えております。

なので、これからも軽い話、戦闘の話もありますつつ、たまーにシリアスな内容も入れて行こうかと思っております(本当にごくたまですが)。


勿論チビチビですが詩織の過去やユーヤの過去なんかも挟んでいきます。



ま、彼がどう動くかは私にも分からないんですけどね!(何せ実は一番彼が癖が強い。さすが主人公)



というわけで(どういうわけか)

これからも彼らについて頑張って書いていきますので皆様よろしくお願い致します!!


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