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大学生生時代〜ごめんね。でも愛してないわけじゃない #5〜

「っ…はぁ…キツ〜!!」


 こんなに走ったのはいつぶりだろう? 大人になってからは車とバイクに頼り切っていて正直こんなに走ることなんてなかった。もともと走るのなんて大嫌いだし。でも、今は走りたい。タクシーやバスなんかに頼らず、自分自身の脚で彼女のもとへ辿り着きたい。辿り着いた時、きっと僕は知るだろう、走ることがすばらしいことだったと。キツい思いをした分きっと僕は知るだろう、達成感の気持ちよさを。そう、全ては彼女の所存。大嫌いなことをしたってあの子の為なら僕は死さえいとわない。


 If you kiss me, take my breath away.

 何回しても繰り返しても、分かっていてもする前には毎回、そんな気持ちになる。

 I love you.

 何年経っても変わらない。全てを投げ打ってでも、君の側にいたい。


 今ならわかる。

 いや、ようやく分かった。

 詩織がどうして虹村家に行く事ができたのか、彼女の親3人の気持ちがどのようなものだったか、手に取るようにわかる。

 好きだから求め合って、でも許せなくて、だから一度別れて、それでもやっぱりそばにいたくて、でもそれは許されなくて。でも…やってきたその子は憎むべき相手の子でもあり、愛する人の子でもある。預けたのは、見せつけでもなんでもなくって同じだったから、分かってくれると信じていたから。二人を愛した男は狭間で苦悶し、しかし二人を受け入れてしまった。身を滅ぼす事なんて分かってたくせに。多分、彼は許してくれなんて言ってない。多分、彼女は預けさせてくれなんて言ってない。多分、彼女は受け入れられないなんて言ってない。

 -----僕も…

 自宅のエレベーターは素通りして、隣の非常階段を駆け上がる。でも決して手すりに手をつく事はない。上がれなくなれば自分の膝に手をついて呼吸を整える。指先に力を入れて、片膝を掴む。

 しかし、手に持った1輪の薔薇は傷つけぬよう。


 最上階に昇って、後ろポケットから数代目のキーケースを取り出した。鍵穴に突っ込み、回せばカチャリと僕を迎え入れる音がする。

 ころがった靴をそろえる事もせず、冷たいフローリングを駆ける。電気も付いていないリビングを過ぎ去り閉じられた寝室への扉をゆっくり開けた。そこには電気も付けず、ベッドの上でシーツを濡らしている僕の大切な宝物があった。


「詩織…」


 呼べば体をビクリと反応させてその濡れた瞳で見上げてきた。しゃくりあげる肩に、真っ暗でもどれだけの涙を流したかを想像出来る。薄暗さに目が慣れてはっきりと表情が読み取れるようになる頃…優しく声をかける。


「どうして泣いてるの?」

「だって、だってユーヤ怒って…」


 まだ嗚咽は止まらない。

 苦笑して言う「怒ってなんてないよ」。だけど彼女は全然信じてくれない。首を横に振っては、シーツに顔を埋めて鼻をすする。


「怒ってなんかない」


 1歩進めば、体を縮こまらせるのが見て取れる。けれど、僕はそんなのおかまいなしに突き進む。

 横に立ち、俯く彼女を見下ろした。

 シワクチャになった青白いシーツに真っ黒な絹糸が綺麗だ。


「何を怖がってるの? 本当に怒ってなんてないよ」

「でも…PHS…」

「あの時は怒ってた。でも…」


 小さな肩がさらに小さくなった。

 ゆっくり、まるで小さな子どもをもあやすように視線を合わせる為にベッドに腰掛け、


「今はもう怒ってない」


 真っ赤な1輪の薔薇を差し出した。

 真っ赤な目が大きく開いた。


「僕はさ、詩織がそばにいてくれればそれで良い。浮気してようが、僕の子どもじゃない子がそのお腹にいようが、関係ない。ただそばにいてくれるだけで良い。そのためなら何だってするし、何だって受け入れるし、何だって捨てられる。浮気は完全には許せないけど受け入れるし、君を取り戻すし、赤ちゃんを一緒に育てる覚悟だって出来てる」


 薄く、唇が開いた。


「何があったって、何をしたって、僕のそばにいてほしい」


 漆黒の瞳に映った自分の、自分の瞳に映った彼女を…奥の奥の奥の、深い所まで見つめる。

 右手の指先に持ってあった薔薇を離す。

 重力に従って、重たい頭を下に堕ちていく。

 真ん中で、軽い音。

 重力に逆らって、腕を上に上げていく。

 右手の指先をその真っ白な輪郭へ沿わせた。

 ベッドを軋ませて彼女に近づく。ふいに…腕が掴まれた。


「違うの、違うのよ」

「何が違うの?」

「私、私のお腹の中には…」


 言っているが分からなくて、眉をひそめるとまた雫が溜まってシーツが鳴った。

 耐えられなくなって、掴まれた腕も何も押し殺して彼女を包み込む。暖かさが胸の中で弾けて、柔らかさが腕の中で小さく抵抗した。

 視線の先にはレースのカーテン。さらに向こうには半月。

 今にも消えてしまいそうな体をさらに強く抱きしめて、指にはさらに髪を絡めた。それでも不安で、顔を首筋に埋めた。


「私はユーヤに謝らなければいけないのよ」


 彼女の息が鎖骨をくすぐる。


「ごめんなさい」

「…少し違うわね。ユーヤは誤解してるんだもの」

「でも嬉しかったわ」

「でも…ごめんさい」


 一体何を言っているのか理解出来ない。

 強く胸を押された。引き剥がされる形で向かい合い、視線が繋がる。


「怒らないで」

「…アレだけのことを言わせておいて、僕はあれ以上の事をさらに言われるの?」

「そうね、それも謝るわ」


 僕の指から黒くて長い髪が逃げていった。

 バックにはレースのカーテン、欠けた月。最後の涙がこぼれ落ちた。


「私、妊娠してなかったみたい」


 レースが揺れて月が笑った。

 -----え?


「ごめんなさい。せっかく期待してくれていたのに、赤ちゃん出来てなかったの」

「え…それ…だけ?」


 なんかもう逆に頭に入って来ない。は? え? ん?

 ポカンと口を開けると、彼女はグシグシと僕の胸の中に顔を埋めて鼻をすすり始めた。


「それだけって、私は凄く悩んだのよ。あれだけ騒いでおいて、期待させておいて…だからユーヤに謝ろうと思ったわ。本当は妊娠してなかったんだってこと。でもなかなか言えなくて…喜んでくれてるのにって思ったらなかなか切り出せなくて…それなのに謝った瞬間PHSが切れて、電源も切れてしまって。怒ってるんだって思ったわ。私が妊娠出来てなかったから、期待はずれな女だと思われたと思ったの…」

「ごめん、僕…」


 浮気を誤解して、挙げ句の果て酷い態度をとった。


「いいのよ。すごく、嬉しかったわ」


 泣いているのに、嬉しそうでそれでいて心底僕の事を許している顔を詩織がした。

 僕は、真ん中にあった薔薇を投げ捨てる。


「あ…」


 白い指先が赤いそれを追いかけた。

 だけど、これは君へのフェイク。僕以外に目が奪われた隙を狙って、阻むようにベッドに彼女の体を押し倒した。

 見下ろして微笑む。


「今回のお話は全てが勘違い。君の勘違いが想像妊娠を引き起こして、それを本物だととった姉さんが僕に電話をしてきて、見に覚えのない僕はさらに勘違いした…さぁここで問題です。誰が一番悪いでしょう?」

「わた…」


 唇を人差し指で抑えて付け、それ以上は言わせない。

 大きく広がる瞳を見つめてから、表情を目で捕まえて、妖艶に優しくでも力強い…特別な時間の始まりの顔をした。そして毎度の如く心の中で書ける魔法…


「“勘違い”さんが悪いよ」


 ------愛してる。

 笑顔と言葉で彼女の心を捕らえた。もう離さない。カウントダウンが始まった。


「君が低い低い可能性にすがるなんて、それだけ欲しかった…と考えて良いのかな?」10…

「…だって」

「だって?」9

「好きな人の、子どもだったら欲しいじゃない」

「そう?」8…

「そうよ!! ユーヤはどうし…」


 唇を捕らえた。

 ゆっくり体を離しながら答える「だって」。7

 今度は彼女が聞く。


「だって?」

「好きな人を子どもにさえ盗られたくなかったんだもの」6…

「ばっ…」


 馬鹿じゃないの? 私たちの子どもなのよ? 嫉妬するなんて。私がユーヤの事、そう言う目で見なくなる訳ないじゃない。子どもはまた別よ。考え過ぎなんだから。

 また唇を盗んでから言う。

 そう、君が言う筈だった言葉に対する言葉を。


「馬鹿じゃないよ、子どもにでも嫉妬する」5

「僕だってそう言う目でずっと見てる」4

「子どもは別に考えようかな」3

「考え過ぎは癖だからごめんね」2


 ニッコリ笑うと、薄く唇が開いた。

 指を滑り込ませれば…驚いた顔。でももう僕は止まれない。


「ゆ…」

「僕さぁ思うんだよね。君の願いは全て叶えたいなんて。でも、理性と恋心がそれを阻んでるんだよ。だから、君の願いを叶えて僕を諦めさせる、打開策…」1…


 左手でネクタイを緩めた。


「とりあえず、どうでしょう?」


 愛する行為、開始です。



★mixiはじめました。

「河合いお」で検索すれば、すぐに見つかる…ハズ。


そこでの主な活動は

ブログやこちらの更新情報に関して。

あと「ピンクシャツデー」の動きをしていこうかと思ってます^^

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