大学生時代〜ナイトの秘密*王子の沈鬱〜
ペンをクルクル回してはどこか天井辺りを見渡す親友。
だから…耐えきれなくなって聞いてしまった。
「そういえば詩織はどこに行くの?」
「え?」
「就職。君今年で卒業でしょ? まさかまだ就職活動してないなんて言ったりしないよね?」
「……。そんなわけ、ないじゃない」
一瞬黙った…一瞬黙ったよね? そんなわけないわけないから、黙ったんだよね!?
不信の目で見やると、彼女は顔を逸らして今までしていたペン遊びを止めてカリカリと卒論を書き始めた。
-----一緒に遊び過ぎた!?
なんだかそんな気がする。そういえば、この子がスーツ着て就職活動なんて言っていたのを僕は見ていなかった気がする。うん、見てない。スーツ姿見てない。見たかったのに…ってそうじゃない。
まさか就職浪人をするつもりじゃないだろうねと疑う。うーん、でも最近は就職氷河期だなんて言われているからあり得ない話じゃない。もしかしたら就職活動はしているけれど未だ1つも受かってないから僕に言えないって可能性もあらずだ。でもこればっかりは僕もどうしてあげる事も出来ない。出来る事と言えば見守ってあげる事くらいだ。
端正な顔に見合う、長い睫毛を眺めた。
あれから数ヶ月前が過ぎて、僕はゼミの教授に連れられてここ1週間日本を離れてた。
正直、体がキツい。こっちに帰って来てすでに8時間は経っているのに…いや、仕方ないかな。帰国したと思ったら荷物を置くだけ置いてそのまま大学の講義に出ているんだから。
-----今日はすぐ帰って寝よう。
ゆっくり伸びをした。
全ての講義が終わった瞬間、荷物を片付けてすぐさま家路に着く準備を始める。
と、中村くんに腕を掴まれた。
「何?」
「俺とお勉強しましょ」
「…珍しいんじゃない? そんな事言うなんて。何かもう危ない…なわけないよね?」
「危ない、かなり危ない」
ヘラヘラ笑っては「危ない」と繰り返す。はっきり言って単位より君の頭の方が危ないんじゃないの? なんて思いつつも、断ったら断ったでまた“危ない”気もするから黙って付き合う。二人で図書館に向かっていると、同じ学科の子達が何やら興奮気味に近づいて来た。
「お〜山田くん1週間ぶり」
「顔見ないと思ってたら島教授と学会行ってたんだって? ご苦労さん」
「うん」
「この方向ってことは、お前らも行くの? 図書館」
「行ってもいいけど人多くて…多分座れないぞ。俺たちも諦めてトンボ帰り組だもん」
「そうそう。ま、行くだけでも価値があるから止めはしないけどな」
顔をしかめた。座れない? どういうことだろう。今はまだ4月の初めでテスト期間じゃないから、いつ行ってもどこでも座りなさい状態な筈だ。それはほぼ毎日図書館通いしている僕が一番良く知っている。それに、行くだけ価値があるって?
意味が分からず、思った事をそのまま言うと皆顔を見合わせた後、先程の興奮をぶり返しながら迫って来た。
「お前、なんで知らないんだよ!!」
「や。ほら山田くん今日までいなかったから知らなくて当然だよ」
「そうだな。行け!! 行ってヤラレて来い!!」
「は? ねぇ何かあるの?」
「ある!! あるっつーかさ…すげーから」
「そうそう。そのせいで、今図書館は大変な事になってるんだって」
「大変な事?」
「利用者は10倍はいってるな。つーか、俺ももう1回行きたいし、もう1回殴られたい」
「あ〜、お前思いっきり叩かれてたもんな。山田も気をつけろよ。一言でも声を発そうものなら殺されない勢いだからな」
「そ。館内完全私語厳禁で破ったら鉄槌が下されるから。筆談はOKらしいぞ。俺、超優しく微笑まれたもん」
「嘘!? マジで!? そっちのほうがいいじゃん。じゃあ俺殴られ損!?」
皆の言っている意味が分からない。何をそんなに嬉しそうに話をしているのか、図書館と結びつくのか分からない。しかし、心のどこかでひっかかるものがある…。不審に思っていると中村くんが「そろそろ行こう」と促して来た。二人で目的の場所に近づく度、向かい合うように歩いてくる人達の会話が所々聞こえてくる。
「マジでヤバかったな」
「俺、これから毎日図書館行くわ」
「可愛過ぎだろアレ」
通り過ぎていく人達の動きにあわせて振り返りながら思う。
-----なんか、すごくイヤな予感がする。いや、嫌じゃないけど…
そう、物凄く苦労するようになる気配がプンプン匂ってくる。中村くんがあまり話しかけて来ないのも気味が悪いし、何より誘われた場所が。
「お〜。やっぱり凄い事になってるな」
立ち止まる彼に従い、脚を止めて視線を同じ場所にやれば…確かに凄い事になっていた。いつもは閑散としたこの場所が正直ビックリする程人で溢れかえっている。眉を潜めたが、彼はまたすぐに歩き始めた。
「お前がさ、学会行っている間に学内は大変な事になってるんだよ。俺はさ、予感がするんだよな。というか、決定事項だと思う。だから連れて来た、言っておく…」
図書館の大きな扉をくぐり、中村くんが指差した。
指し示したその場所には黒山の人だかり。そしてその中心には、
「学内なんかよりお前の方が大変な事になるって」
この大学の図書館司書の制服を着た詩織が立っていて…
僕は音を立ててその場に卒倒した。
僕の倒れる音を聞いて、図書館がざわめき、それと同時にそこの職員である女の子が駆け寄って来た「大丈夫ですか?」なんて言ってきた。言ってやりたい、全然大丈夫なんかじゃないってコト、君の所存だってコト。連れて来られた職員用の部屋で…僕は、その見慣れた、しかし新鮮な後ろ姿を睨んだ。
「分かってるけど聞きたい。君、何やってるの?」
「分かってるなら簡潔に答えるけど、ここの図書館司書よ」
「ここは分からない。いつからここに就職する事が決まってたの? そしてなんで教えてくれなかったの? 僕は僕なりに君の就職のこと凄く心配してたのに…」
「だって、ビックリさせたかったんだもの」
お茶を入れながら詩織が悪びれもせずに言った。
-----ただ僕をビックリさせたいが為だけに…こんな…。
深い深いため息を吐くと彼女は頬を膨らませてきた。そんな顔をしたいのは僕の方だよ。もう1度ジロリと睨むと唇を尖らせる。
「仕方ないじゃない」
「何が? そこまでビックリする僕が見たかった?」
「それもあるけど…だってこの計画は4年計画だったもの」
「は!?」
裏返った声で叫ぶと相手は今までにない程の妖艶な笑みを返して来た。
そしてのたまう。
「さっきのまだ答えてない質問に答えるわね。私のこの就職は…もう4年前には決まってたの。ハッキリ決まったのは18歳の2月ね、でもその前からこの計画は始動していたわ。いつかって言われれば、高3の12月…」
大きく目を開けた。
まさか、まさか…あの時のあの言葉は…
察した僕を詩織が嘲笑う。
「そうよ。3者面談の時ユーヤのお父様と話した将来の内容は…「うちにこないか?」の意味は…」
湯のみが目の前に突き出された。
「この図書館への就職のことよ!!」
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