研修医時代~シークレットダンスを君と #2~
「よう、制服好き変態医者」
「やめてよ。ようやく誤解が解けたトコロなんだから…それとも僕を敵に回す気?」
「ははは。そんなつもりはねぇって」
ジロリと睨むと彼はヒラヒラと手を振って患者が座るべき場所に腰をかけた。
カルテに目を通しながら用事を聞くと、ちょっとばかり驚きのモノだった。
「知ってるか。お前の嫁探しの件…」
「…は? 何それ」
顔を上げながら大きく目を開いた。
聞くに、どうやらこないだの雪姫ちゃんが着た時に僕が結婚しているという事実が噂になって「山田先生の嫁は誰だ!?」と当人の知らないトコロで病院内は半分パニックになっているそうなのだ。
大きくため息を吐いた。
「…全く放っておいてほしいね。僕が結婚してたらそんなに可笑しい?」
「仕方ないだろ。なんてったって山田教授のご子息で成績も優秀、一番の出世株なお前が結婚してたなんて知ったんだから。お前ついでに玉の輿狙ってた看護婦も薬剤師共も今頃血眼だろうよ」
まさかそういう風に思われていたとは、自分でもビックリだ。でもほとんどが僕の力じゃない気がしてあんまりいい気分じゃない。
だからそこには一切触れず少しずれた場所を突き刺した。
「…黙ってたのが悪かったかな?」
「うん。拍車をかけた原因だな。でもおかげでさっきそこですれ違った看護婦の話は面白かったけどな」
「何…?」
「「それにしては奥さんらしい人を一度も見たことない」とか「実は仮面夫婦で忙しいから会ってないんじゃない?」とか「今なら寝取れるチャンス」とか…そんなの。笑えるだろ?」
「それは笑えるね」
読み終わったカルテを起きながら、二人で声を上げて笑った。
そうだろ? だって彼女は同じ敷地内で働いている職員で、この病院内に何度も出入りしている。それ以前にここの看護科あるいは薬学科の出身ならば彼女を見たことないなんてあり得ない。学内のパーティーだって一緒に参加したしね。家でも職場でも顔を突き合わせてるし、僕は未だ彼女を捕まえておくのに必死で他の人にまで気を回すまでいかない…というかそんなことしたら殺されるし…彼女以外となんてあり得ない。
ひとしきり笑って立ち上がった。今日の僕のお仕事は終わりなのだ。その事を告げると、
「奥さん、気をつけてあげろよ」
なんて言われた。鼻で笑う。何を気をつけると言うのか、彼女は僕なんかより10倍も100倍も強い。きっとこの病棟内の女性陣全員を相手にしたって余裕で勝って笑顔を振りまいてくるね。
それに今までだって普通に学内で会えばプライベードな話もしてたし、帰りも同じ時間になったら一緒に帰ったりしてた。知ってる人は知ってたし、隠してるつもりもなかった。言うなれば皆がただ単に気がつかなかっただけ。だから大丈夫だと思うんだよね、今まで通りでも。
と、昨日まで思ってた。
なんで昨日までかって? 教えよう。病院内で僕の噂が飛び交う一方…もう一つの噂が飛び交い始めていた事を今日知ったからだ。どんな噂かと言われれば、僕にとってはかなり都合の悪い噂だった。いや、半々かな。まぁココにいれば話す必要もなく分かるから、他の人の会話を聞かせよう。
コーヒーを飲み干しながらチラリと向かい側に座って話している今年入って来たばかりの看護士の子達の会話を聞く。
「あのお姉さん、付き合ってる人いるんだって」
「マジかよ、俺狙ってたのに」
「まぁあれだけの美貌ならいないわけないとは思ってたけど…一体どんなヤツだよ、その羨ましい男は」
「噂によると学内にいるらしいぞ」
「ってことは生徒!?」
「いやいや生徒じゃない可能性も…」
「どっちにしてもソイツ、羨まし過ぎだろ。見つけたらフルボッコだよな」
「はは、そうだな。ボコボコにしてやりたいな。ついでに奪っちゃったり?」
わかっただろうか?
そう、僕のパートナーもどうやら相手がいると言う事が噂になっちゃったみたいで…。お互いにバレると面倒な事になりそうなんだよね。ま、僕は結婚、彼女は恋人って事で、しかもまさか僕があんな美女とくっついているだなんて誰も予想をしていないみたいで、今のトコロは二つの噂が交錯をする気配はない。ま、いつどうなるかなんてわからないから用心するに超した事はないね。
あの子はいいよ、あぶり出されたって特にされる事はないだろうから。でも、僕は…きっとボコボコにされるね。間違いない、だって向かい側に座っている看護士さん達以外にも…他の先生方も…「あの子の相手を見つけたらボコボコ」って言ってるんだもの…。怖い、怖過ぎる。僕が数えただけでももう50人くらいは僕の事をボコボコにするって口走っている人がいるんだよ!? これはもうバレたら血祭りは決定フラグでしょ!!
もう1度チラリと看護士さん達の方を見て身震いした。
------絶対にバレたくない!!
本日「未来の嫁が俺を殺しにきました」の第4話がリリースされました><
ええ。
先日ライブ小説でやりました「将来の嫁にご用心」のあいつ等が主人公の話です。
無料ですので、ぜひどうぞ^^
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