大学生時代~王様ゲームと僕 #2~
明らかに自分の想い人の顔があるのに目を見開き口をパクパクさせた。歓声を上げるクラスメイトに妖艶な微笑みを零す詩織に視線を繋げると、さらに口の端をあげられた。
-----どういうこと!?
意味がわからなくてポカンと口を開けると携帯が震えた。なんとなく開けなきゃいけない気がして合コンのルールなんて無視して見ると、
<護って王子様>
詩織からこう、送りつけられていた。
眉毛をピクリと上げる。そしてポーカーフェイスを作り出す、勿論Sにスイッチを入れて。
自己紹介と詩織への注意喚起が行われ、すぐにフリーの時間にされた…瞬間僕はニッコリ詩織と目を合わせた。すると向こうもニッコリ笑って誘うような目をしてくる。
だから誰よりも早く動いて彼女の横を陣取った。
「何のつもりかな?」
「あら? ユーヤが合コン参加していいなら私だってしていいでしょ?」
「そこじゃなくて…」
コソコソ話していると残りの一席を強奪しようとし始めるクラスメイト。さらに声を小さくする。
「分かってるわよ。真相は、もともとユーヤのクラスメイト達と真美ちゃん達が合コンするのは知ってたの。で、どうしても新顔が欲しいからって誘われてたのよ。昨日の夜確認とれば男子の幹事は中村くんって人で場所と時間が一致するから絶対コレだと思ったのよ。だから了承したの…聞いても良いわよ? ユーヤの電話あってから私がOKしたか」
「それはいいよ。で、参加理由は僕の驚く顔を見たかったと?」
「それもあるわね」
ふふっと専売特許の綺麗な笑顔。チラリと争う後ろを盗み見てさらに続ける。
「お姫様になりたかったのよ。ついでに遊ぼうと思って…」
「…それはとても悪い考えだと思うけど?」
「そうね。でも、もうユーヤも共犯よ? すでに初めて会う振りしてる」
全くこの子には敵わない。でもこんなトコロも大好きだ。でも不安でいっぱいだ。
王子はこの蠢く餓えた狼達をかいくぐり安全にお姫様を奪取しなければならない。しかもこの後、このお姫様がこんな会に呼ばれないようにもしなくてはいけないのだから。
小さくため息を吐きつつ、グラスを手に取った。
「やり方は任せてくれるよね?」
「ええ」
「合わせてね」
コクリと頷いていているのを確認して思考を巡らせた。
----よし、コレで行こう。
大きく息を吸って席を立ち上がる。するとチャンスとばかりに彼女を取り巻き始めた。その様子を尻目に女の子達に話しかけた。
「ごめんね…そのクラスメイトが…」
「いいよ。こうなるって分かってたし」
「そうそ。詩織ちゃんの可愛さじゃ私たちは引き立て役にもならないんだから」
「せやからうちらな、実は普通に飲みに来るつもりやってん」
シシシと笑って舌を出してくる。
-----タダ飲みしにきたってワケね。したたか過ぎ…。
まさかの事態に他の男子3人が哀れになってきた。まぁ欲に目がくらんだ結果だと、勉強代だと思って諦めてほしいね。
サラダを摘んで女の子達に頼まれた追加注文する。
その間も激しい詩織争奪戦が繰り広げられている。なんか、恥ずかしいね。友達のくどき文句を聞くって…。これが合コンかとなんて醜い世界なんだと僕も今その一部になってしまっているのだとため息を吐きつつ、先程女の子達と話している所に戻った。
もうこの頃には、女の子達とも僕は打ち解けていてポーカーフェイスではなく素の笑いで接するようになっていた。ついでに僕も奢られ人だよと話せば、あちら側も本音トークで推測した通りタダ飲みをしに来たのだと笑いながら打ち明けてくれた。4人でにんまり笑って詩織を落とすことにせっせと勤しむ3人を哀れんだ。
時計を見れば今の状態になって20分が経過していた。
そろそろかな…と女の子達をジッと見つめれば、真美ちゃんが箸で空中に円を描きながら聞いてきた。
「山田くんはええの? 詩織ちゃん…一番最初にスタートダッシュは早かったんに、あれから話してへんやん」
「…良くはないけど、入る隙間がないでしょ?」
「ってことは山田くんも詩織ちゃん狙い!?」
-----高校時代からね。
なんて言葉は絶対に出さずに、よしよしとほくそ笑む。何にって? 兄弟、女の子のパワーを甘く見過ぎだよ&僕は誰の弟? モデル美嘉子と格闘王KENの弟だよ? あの人達の得意技を実行しているだけだから。
ほら、微笑めば…
「じゃあ私たちが応援してあげる!!」
「そそ。やっぱり詩織ちゃんにはガツガツしてるような男より、こういう周りに気配り出来る人がいいもんね!!」
「せやね。山田くんなら任せられそうな気がするわ。よっしゃ。私たちがキューピットになったる!!」
周りを固い込み作戦完了。
こうなった時の女の子達の団結力は凄まじいんだ。ああ、でもここで気を抜いちゃいけない。
今にも立ち上がりそうな子を制する。
「いいよ。あの子がその気じゃなきゃ意味ないから。ね?」
「ダメだよ、恋は早い者勝ちなんだから!!」
「せやせや。大丈夫、うちらが付いとる。ちょい待っとき!!」
「私たちがなんとかしてあげるから」
顔を見合わせ、詩織の名前を呼びトイレに誘う子達。YES、全て作戦通りです。多分あの子達は詩織に聞くだろう
「あの中で誰が一番良かった?」と。勿論彼女は王子の名前を言う。そうなれば後1時間は女の子達が僕以外の男の子の防波堤になるはず。しかし手は抜かない。より確実にするため詩織に<僕って答えおいて>とメールを送っておく。
女の子達がいなくなった部屋で今度は男達の作戦会議が始まる。どうやら詩織を持ち帰るのは誰かで揉めているようだ。と、僕にも話が振られた。
「山田くんは誰狙いだ?」
「詩織ちゃんだなんて言うなよ?」
「あ〜でもコイツ一番最初走っていったから、そうじゃねーの?」
微笑めば察したようで鼻息荒く、乱闘に巻き込まれる。
「諦めろ、お前もお前も!!」
「お前こそヤメとけ!! 高嶺の花なんだよ!!」
「痛い、ちょ。叩かないでよ」
「皆な敵じゃー!! 叩くなもクソもあるか!!」
ギャーと暴れれば、女の子達が戻って来た。
真美ちゃんと目があうなり男子には見えないようにVサインを示して来た。分かっていた結果とは言え、ちょっとドキドキしたね。
次の瞬間、3人が示し合わせたかのように僕以外の男の所に振り分けられるように付いた。
見上げれば少し驚いたような顔をしているお姫様。だから隣の座布団の前のテーブルをコツコツと爪先で叩いて詩織を促した。隣にくるなりフサフサの睫毛を上下に振る。
「ねぇどんな魔法を使ったの?」
「何が?」
「だって…皆ユーヤの事すごく褒めて「絶対良い!!」って口を揃えて進めてくるんだもの。勿論私も言われた通り「ユーヤがいい」って答えたけど、あの子達の喜びようが半端なかったのよ。そして今のこれでしょ? ねぇさっきの時間に何を話したの?」
「仲間意識って言葉知ってる?」
「知ってるけど」
「それをね、少しくすぐっただけ」
笑ってグラスを傾ける。
隣では未だ納得しているような、していないような顔の詩織。
でもそんなのおかまいなしに最後の締めのお話を始める。
「じゃあ後は救出とフォローなんだけど…友達と帰ったりしないでお持ち帰りされてね」
「え?」
「何度も言わせないで、恥ずかしいんだから。それに別に変な意味じゃないから。王子はこの後の事も考えてるの! もしね、君が友達と帰ったら中村くん達は確実に、なんとしてでも君を次の合コンに誘うね。それどころか大学まで押し掛け兼ねない。ま、番長の第2号が出来ると言ったら良いかな? 君もそんなの嫌でしょ? だから…だからさ、僕とそういう関係になったと思わせればその心配はないわけ。君も僕もこれから合コンに誘われる事はなくなるし、1石3鳥くらいでしょ? …ま、君がその後の心配は不要でもっと合コンに行きたいと思うなら友達と帰れば良いと思うよ。そこは強要しない。僕の役目はこの合コンでお姫様を護る事なんだからすでに目的はほぼ達成してるもん」
顔を覗き込んで「どうする?」と聞いた…Sっ気全開で。
すると彼女は期待通り、
「一緒に帰る」
と俯いた。“お持ち帰り”という言葉のスパイスで少し顔を赤らめながら。良い表情だと満足感を得てニッコリ笑う。
会計をして貰い(これも満足)、すぐさままた女の子達が各男子に張るのを見ながら詩織を誘う。あっけにとられるクラスメイト達を尻目に誘う。
「よければ来る?」
「何か良い物あるのかしら?」
「そうだね、僕の部屋は姉さんと母さんのせいで男にしてはちょっとビックリな部屋かな。きっとメルヘン好きな君の趣味に合うと思う」
「他には?」
「他は…僕の親友が借りてまだ観ていないDVDがあるかな。ま、それはもう遅いから後日ね、明るい時に。代わりに付けるのは22時までに君の家まで送るってことくらいかな。心配するでしょ、神無月さんっていうルームメイトが」
「ふふ」
手を差し伸べれば、お姫様がそっと乗せてくる。
振り返り女の子達にウィンクを、男の子達に舌を出し、間髪入れず詩織を促した。
「は…さすがに疲れたかな…」
ため息を零して隣の子に愚痴れば笑って家主より部屋に入って行った。そしてわざとらしく、初めて入ったかのような演技をしてみせる。
「本当に私の趣味に合ってるわね」
「はいはい。もう王子様の役割は終わりましたよ」
もういいからと片方だけ靴を脱ぎ、腕を掴む。ついでに玄関へ引っ張る。そう、もう後は送り届ければ本日の任務は完了だ。全く、よく振り回してくれたよと悪態が頭をかすめた…ら、
「でも約束は破ったわね」
「は?」
「ユーヤは合コン行っても一人で帰るって言ったわよね?」
大きく目を開けた。
そしてようやく僕は気づいた。これは、彼女の罠だった事に。
「約束破ったら、お兄ちゃん達が帰って来た時あの子達をどうするんだったかしら?」
「…一人で子守り、です」
「正解!!」
愕然と項垂れた。しかし、僕は、Sの僕は、死んじゃいなかった。そう、彼女はこうも言った。
「帰りは、君の家に寄らなくても良かったんだよね? 僕のコト信頼してるから」
「え。ええ…」
真っ黒な黒真珠を見上げながら口を歪ませる。そしてゆっくり後ろ手でドアを閉めにかかる。
「一人で帰る? それとも…」
本日「未来の嫁が俺を殺しにきました」の第3話がリリースされました><
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また、9月4日にいおが小説を書き始めて1周年ということでイベントをかいさいしますvv
くわしくは活動報告まで!!