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大学生時代〜勘弁してよ! 僕のスイーツ〜

 遠くの方で鐘の音が聞こえた。

 額にはうっすら汗がにじんできて、ついでにアンダーシャツもなんとなく肌にくっついて来た。

 しかし拭う事も服をパタパタさせる事も出来ず、目を細めながら寒天培地に爪楊枝でプチプチと穴を開けていく。半分まで着た所で「暑い」と口走りそうになったのをなんとか飲み込んで、また新たな爪楊枝の先を試験官に突っ込んでは培地に突き刺す。

 パラフィルムをシャーレに巻いてしっかり密封をしてから、ゆっくりとクリーンベンチ(無菌的な環境を作る箱装置)から手とシャーレを抜き取る。


「終わった…」


 右端にある紫外線ランプを付けながら一人呟いた。そのままインキュベーター(恒温機)に植菌したばかりの菌達を突っ込んで片付けを始める。全てを片付け終わり手を洗って、机の上に置いてあった腕時計を掴んだ。

 -----17時…2時間半も…

 ため息を吐き第2研究室に入ると、同じ研究室の数人の男子が「お疲れ」と冷たい缶コーヒーを投げてくれた。


「あ、ありがと」

「山田くんはこの後どうする?」

「この後…あぁ〜ごめん。今日僕は約束があるんだ…」


 斜め上を見ながら貰ったばかりの缶に口をつける。

 と、早合点を始める同級生達。


「な!! 俺たちを捨てて女の所にでも行くつもりか!? 」

「何ぃー!? 何しにいくんだよ!!」

「…一緒にご飯を食べたいんだって」

「何ー!?」

「ふざけんな、この野郎!!」


 鼻で笑った。

 確かに約束はある、確かに君達を捨ていく、確かにこれから合う人は女の子だ、だけど…


「そんないいもんじゃないよ?」


 そう、いいものなんかじゃない。できることな変わりたいね。僕は振り回されっぱなしでいつもいい加減にしてほしいと思っている。だけど断る事が出来なくて「会いたい」と言われれば「じゃあ今から行くね」「急いで行くね」って行っちゃう。正直に嫌いになってやりたい。振り回してくる事は分かっているんだから。突っぱねてやりたいのにそれが出来ない。でもそれって姉さんがいるからかな? いや、そんなの関係ないと思う。そうだろ? もともと僕は…

 そこまで考えると僕の携帯がけたたましく鳴り始めた。


「女か!?」

「見せろ!!」

「山田くんの女から電話が着たー!!」

「ちょ!!」


 指先からもぎ取られる真っ黒なそれ。慌てて同級生の腕を掴んでみるけれど、手首のスナップで違う男の子のところへ飛んでいく。「止めてよ」「返してよ」と叫んでもなかなか返してもらえなくて…それを繰り返しているうちに着信メロディがブツンと切れた。


「「あ」」


 僕も皆も一旦停止。

 次の瞬間、頬を膨らませて奪い返した。中身を開けば約束の人物からで…


「もう、どうしてくれるんだよ。怒らせたら皆のせいだからね」


 大きくため息を吐きながら返信を試みた。けれどコール音が鳴るどころか、聞こえてくるのは「お客様がおかけになった電話は電源が切られているか、電波の届かない所にいる為かかりません」という女の人の声だけ。

 -----ヤバい!!

 そうだろ? 遅くなるかもとは言っておいたけれど、待つのが嫌いだからきっと痺れを切らして電話をかけて来たのだ。なのに僕は電話に出ないという事態。そりゃ怒るだろうし、我慢をまだ知らないんだから仕方がない。

 青ざめてすぐさま研究室を飛び出した。研究棟も飛び出せば、


「振られないように気をつけろよ!!」

「ちゃんと謝れよ〜!!」


 窓から顔を出した研究室メンバーが笑いながら茶化して来た。「君達のせいだ!!」と叫びたいのを堪えて、ギッと睨みを利かせるとさらに爆笑してくる。ムキーと地団駄を踏む思いを噛み殺して、もういいと前を向いた。息を飲んだ。

 だってそこには超ご立腹顔をした僕の…


「「ユーヤ!!」」


 双子の姪ラナとレナが仁王立ちしていたから。


「おそーい!!」

「ずっと待ってたんだから!!」

「電話もしたのに!!」

「とってくれないし!!」


 ラナが先に何かを言えば、それに続けてレナが付け足しをして攻めてくる。だから僕はすでに白旗万歳、無抵抗で「ごめん」と繰り返す。そう、僕は彼女達に頭が上がらない。それは最凶の姉と最強の義兄の子どもであると同時に、僕の女の子と子どもが弱点という全てが当てはまる二人が2倍の威力で攻撃してくるから。悔しいし、不幸だと思うし、いつか仕返ししてやろうなんて思っては見ているけれど、なかなか隙を見出せずに押される一方なのが現状。だって本当に可愛いんだよ、僕に懐いているくせに敢えてほったらかしにして来たり、そうかと思うと誘って来て、でも「「今日は翔太くんに遊ぼうって言われちゃった」」とかヤキモチを焼かせようとしてきたり。子どもなりに一生懸命こちらの気を引こうと頑張ってくれているんだもの。それが分かっちゃう子どもなりの甘さも、不完全さも何もかも全てが面白くもあり、いじらしいところでもある。そう、僕は初めての姪達が可愛くて仕方ない。

 ま、そこはいいとして…僕は叔父としてとても気になる所がある。


「ど、どうやって来たの!? まさか、二人だけで…」

「バスに乗って来たんだもん!!」

「私たちそれくらい出来るんだもん、馬鹿にしないで!!」

「そう…よく来れたね。でも、危ないからもうしちゃダメだよ」


 小さく安堵のため息を吐きながら、注意を促した。けれど彼女達はそれには聞く耳持たず。それどころか僕の事をさらに「遅刻魔」「約束破り」なんて言いつつ殴り掛かって来た。ポカポカお腹や脚を殴られ蹴られ、「痛い痛い」「やめて」「僕が悪かったから」「あやまってるじゃないか」「ごめんってば」と許しを請う。けれど彼女達はやめてくれなくって…。

 しかも上から、


「カノジョに謝れ!!」

「どんな関係だ!?」

「山田、モテるな」

「可愛いカノジョ達じゃないか!! 両手に花!!」

「ロリコン変態!!」

「隠し子か!?」


 と色んな形態のヤジも飛んで来て、その言葉に煽られ小さな僕のスイーツ達は勢いに乗りさらに暴力的行為を繰り返してくる。いいよ、普通の幼稚園生なら。でも、この子達の親は未だ格闘王として名を馳せるKENさんの子だよ? もう腕に受けるのさえ超痛い。しかも子どもだから手加減なんて言葉は知らなくって「痴漢にあったら狙え」と教わっていた人間の弱点を突こうと繰り出してくる。YES!! これこそ本当の駆け引きです。なんてふざけている場合じゃない、早くも僕のか弱い体が悲鳴を上げ始めた。殴られまくって腕も痺れて来たし、反応も少しづつだけど鈍くなって来た。このままじゃ明らかにさっきからラナが狙い続けている男の子の弱点が大変なことになるのは確実…。って思った瞬間、勢いの良い上段蹴りが太ももをかすった。お、恐ろし過ぎる!!

 彼女達の母さんのせいでその痛みをよ〜く知っている僕は仕方なく腹をくくった。そして行動に移す。

 まずは僕の不幸具合に爆笑している上の野郎共を黙らせる為に険しい顔を作って「黙って」「姪だ」と叫ぶ。僕の言葉に怯んだ隙に、今度は微笑して彼女達の為にゆっくり手を広げてやる。


「おいで」


 優しく言えば二人で顔を見合わせて同じタイミングで飛びついて来た。体重を2つ受けて腕の中に二人を納める。腕に青筋を立てながら、血管ぶち切れ寸前まで力を入れて二人を片手ずつで抱え上げた。そう、これが僕らのお決まりの愛情表現。昔は良かったよ、片手ずつでも二人は軽かったから。でも今は…多分一人20kgくらいはある。だから僕は今これをするのはあんまり好きじゃない。ま、今日の所は仕方がないから頑張るけどさ。

 なんとか笑顔を作りながら一人ずつにご機嫌を取るように懇願した「許して?」。

 すると彼女達は僕の肩に掴まりながら耳元で声を上げる。


「「ユーヤがそこまでいうなら、いいわよ!!」」


 ホッと安堵のため息を落として、二人を地面に落とした。でもそれは僕のさらなる不幸の始まり。

 地面に脚がつくなり、何かを見つけた双子が目を輝かせて同時に叫んで駆け出した。


「「おじいちゃーん!!」」


 振り向けば、山田教授が双子を孫可愛がりに「ラナ、レナ」と超嬉しそうに抱きかかえている所だった。

 「「え!?」」上から疑問系の言葉が降ってきた。僕も叫んだ。

 そう、僕は入学をした時から約5年間ずっと山田教授…つまり父さんと血縁関係なのを隠し続けて来た。名字が一緒だとか、ちょっと顔が似てるとか言われたけど「そんなわけない」と一貫して嘘を突き通して来た。それって全て自分のため。七光りとか裏口入学だなんて言われるのがイヤだったし、何より僕は父さんを超えたかったからそんな声邪魔だったんだ。だから、ずっとずっと隠し続けて来たのに…


「おじいちゃん!?」

「山田くんどういうことだ!?」

「あの子達の叔父ってことは、やっぱり山田教授の血縁者じゃねーかぁ!!」


 上から叫ばれ、少しパニックに陥った。

 けれどそれはまだ序章で…

 父さんは二人の孫と両手を繋ぎながらその場で呆然とする僕を抜き去りつつ、


「いつもうちの息子と仲良くしてくれてありがとう。いつか言おうと思ってたんだよ」


 5年間隠し続けて来た秘密を、ぶち壊した…orz



いおの新作「将来の嫁が俺を殺しにきました」の紹介や日常、小説の裏話、作家としての活動をボチボチ書いてます。よかったら遊びにきてください^^

↓あいおーにっき↓

http://www.indie-web.com/kawai/

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