キレlife カオス会の憂鬱(ユーヤ編) #3
ガールズトークが止まらない。どこのヘアエステがいい香りがするだとか、ミントとあずきゴマージュが最近気になるだとか、今年の流行はトゥーオープンだとか、普通一般の男の子ならわからない用語が飛び出しては消えていく。ついで、たまにテンションが上がり過ぎて「キャーっ」なんて声を合わせて、はしゃいでいる二人が見て取れる。ええ、もう完全に友達通り越してます、僕とアキラくんが対照的にシーンとするくらい。
はー。
本当は僕たちのオフ会だったのになぁと、恨めしく思いつつもふざけ合う女の子達を見ては、男二人で顔を見合わせて「風呂に入るまでの我慢だ」「長風呂して癒されようね」とアイコンタクトをとった。
さて、僕らがついた家族風呂の説明を少しだけしよう。
門構えはど日本で、中身はフローリングなんだけど古民家チックな和風で、非常に僕とアキラくんの好みな温泉施設だ。で、肝心の温泉なんだけど、男女の大浴場が1つずつに家族風呂が7つと結構大きな所みたい。予約してあった名前を言い、脱衣所となるコテージの鍵を貰う。どうせ一緒になることはないのだからと先に行く事を伝え、家族風呂へ続く扉へ脚を踏み入れた。
「わ。いいね、日本庭園。やっぱ和風だよね」
庭にでた時点で道が何本にも分かれているため、看板に書かれてある通り動く。プライベートを護る為か、数歩歩くと隣の道さえ見えないように壁木が植えられていて…僕らはそこをゆるゆると歩いていく。
「そうだな〜、お互い温泉好きだからここを予約したんだが迷惑じゃなかったか?」
「ううん、全然。こっちこそ任せちゃってごめんね」
「でもまあ、温泉でも入ってゆっくりと話しますか!」
うんうんと頷き、鍵で扉を開けて先に入るように促した。檜のいい匂いがする。
篭を一度ひっくり返してから鞄を突っ込み、ボタンに指をかけた。
「…ナナさん、あれですね。中身はネット上と変わらないですけど、見た目にギャップあってビックリしました。もっと子どもっぽい外見してると思っていたんですが」
「外見と言えば詩織さんの容姿は僕の使っているゲームキャラとそっくりだな。びっくりしたぜ。まあ、最初は怪物だと思ったがな…」
「僕もあんな変顔見せられたのは初めてだったよ。ごめんね、驚かせちゃって」
「いや、こちらこそナナが彼女の色んな所を触ったり見たりして悪かったな」
僕に謝っても仕方ないことを言う。
まぁ言わんとする事は分かっているからそこには触れないけれど。
未だプチプチとボタンをいじくる。
「ああ。でも大丈夫なんじゃない? 女の子同士だし。もう僕たちが付いていけないくらい仲良くなってるしさ」
「でも、あいつ公共の場でオッパイ触ったり、パンツを見たり…常識がないからな…」
「…脚も触ってたね」
まるで飲み屋のお姉さんを触るオジさんだったなと、あの綺麗な顔からは想像出来ないナナさんの醜態を思い出す。全く羨まし…じゃない、そうじゃなくてさ…
思考回路があらぬ方向へ走り始めた。しかしそれって僕だけじゃなくて、
「詩織さん…スタイルいいね」
「まぁ」
「いいな、女は堂々と触れて。俺たちが苦労して何年もかかるところを一瞬で…」
やっぱり男なら普通だと思う。っていうか、男の社交のネタ…?
多少コレが出来なきゃ男の世界渡っていけないよね。
「くそ!! なんでナナの手が俺の手じゃないんだ!!」
隣でヒートアップを始めたアキラくんに軽く付いていく。
「揉ませろ!! 吸わせろ!!」
「はは。パンツ見せろ…?」
「×××見せろ!!!」※school life にいくと全貌が明らかに(笑)
「!?」
突然の直接的過ぎる言葉にビビった。目をむいて横を見るとすでに彼の姿はなく脱衣所を飛び出していて、水飛沫が湯気と共に上がっていた。
------アキラくん言うな〜。
そこは見習うべきか、男らしいと尊敬すべきか、でも言っちゃいけないよね〜とゆっくり後に続いた。
「いい景色だのー」
「いいね。やっと落ち着けるね」
「いいのー。どっこいしょ」
「おっさんクサ!!」
「「ははは」」
なんとも言えない暖かいような親父臭いような笑いを零してポカンと海を並んで眺める。いいね、こういうの。僕は好きだよ。詩織といる慌ただしい毎日も好きだけど、僕って本来こっちの人間だからさ。似た者同士にしか分からないこの空気感、この沈黙の時間、会ったばかりだけど全然苦じゃない。むしろ癒されるね。
海が近いってことは、この後一緒にご飯食べるなら刺身だな〜なんて次の事を考えていると聞いた事のある大きな声が聞こえてきた。
「ひろーーーい」
ナナさんの声が響き、水の弾ける音がする。この感じは多分隣だと思う。
気にせず景色を見、ただ無言で聞き流…
「詩織ちゃん! やっぱり胸大きくて、ふわふわ〜」
「ぁ。ナナちゃ…やめ」
「え〜、いいじゃん」
-----せません!!
って、ダメだダメだ。聞いちゃダメだ、聞いちゃダメだ。
僕だって健全な男子高校生。想像しちゃう。
しかしあからさまに耳を塞ぐ訳にもいかない。なるべく無視して、聞こえてしまった分は仕方ないと考えよう。その代わり…
ゆっくり隣に首を向け、アキラくんの横顔を見る。
YES!! あの声は全て彼が出していると脳内変換します(超勿体無いけれど)。さすれば、萎えます、大いに萎えます、萎えさせます、萎えさせられます。っていうか、むしろ聞きたくないです。だからほとんどシャットアウト。
「…安産型〜」
アキラくんがそんなこと言うとか、萎え…。
「…ウエスト細い〜」
アキラくんのそんなとこなんか興味ない、萎え…。
脳内変換は完璧だと、心が超萎えてきた時だった。僕の所存ではなく、彼自身が僕をさらにというか、どん底まで萎えさせてきた。
「おっきした」
イヤ、萎えるどころじゃない。引いた。
ついでに体も引いて、彼から目算2m、サーと体を離す。
目を瞑り、何やらブツブツ呪文のような物を唱える彼にさらに恐怖を抱いた。しかし、その間にもガールズトークは激しさを増す。するとさらに彼もブツブツ繰り返す。
ふいに目がカッと見開いた。
「待ってろ、僕のおっぱいたち!!」
彼の中で一体何が起こったのか、声と共に浴槽を飛び出し浴室を走り始めた。そして壁際まで走ると急に岩肌に飛びつきよじ上り始めた。
------ちょ!! あれ、でもそっちは…いや、そんなのどうでもいいよ!!
さすがにヤバいだろうと腰を上げた。しかし、そんな僕の動作よりも数十倍の早さで、神がかり的な速さで垂直に彼は壁を登っていく。声を出して注意する訳にもいかず、走っていくには遅いと計算し、
目の前にあった桶を掴んだ。
瞬間、アキラくんの手が岩肌の頂上に到着。
------見ちゃダメだって!!
振りかぶる時間も惜しく、フリスビーのように横投げをした。
昇り詰める彼…
回転しながら宙を飛ぶ桶…
二つが、岩の上でぶつかった。
「あ!!」
カポーンという、効果音が鳴ってアキラくんが落ちた。向こう側に。
遠くの方で水飛沫が上がる音がする。
僕の血の気が引けば、反対に上がる叫び声。
「ぎゃあああああああああああ!! ばばああああああああ!!」
-----んぇえええ!?
一瞬で理解した。そう、運良くと言うかアキラくんは詩織達が入っている家族風呂ではない方に行ってしまったんだよ!! 途中から可笑しいとは思っていたんだ。詩織達の声は右側、僕の方側から聞こえてきていたと思っていたのに彼が走り始めたのは左方向で…。
一瞬の安堵。見られなくて良かったなぁなんて思ったのも束の間、これはこれでヤバいだろうとその脚で風呂を飛び出した。
簡単に体を拭いてトランクスを履き、浴衣を羽織る。素早く帯を巻きながらアキラくんの分の浴衣とトランクス、バスタオルを引っ掴み、日本庭園へダッシュした。先に見た館内図を思い出しながら庭を駆け抜ける。
------ここだ!!
脚にブレーキをかけ、扉をドンドンと叩いた。
「す、すみません!! 僕の連れが!!」
中で何やら声が聞こえ、しばらくするとドアがゆっくり開き始めた。
------!!
半分以下でも見えた瞬間、吹き出すかと思った。
だって、太ももと言うか腰と言うか、お腹と言うか、一直線な肌色の何かが見えたから。
判別するのも怖く、自分の動ける中でも一番速い動きで下を向いた。多分、マッハという単位では遅い(何かが見えてからここまでの時間、0.000000001秒)。
「す、すみません!! あの…僕の連れがこちらにお邪魔してるかと思うんですが」
綺麗にそろえられている2足の靴だけを見つめながら、引きつる顔を抑える。全く、アキラくんのせいで後もう少しで僕の4Dの世界が壊れるトコロだった。確かに僕は年上のお姉さんが好みだけど、年上過ぎるのは頂けないし綺麗だった人には興味はない。というか、ご遠慮願いたい。
が、それも叶わぬ願い。
「ほらー。人と話す時、顔を見て話すのが常識でしょ」
-----んぇええええええ!?
僕の世界を壊す気か。常識を語るなら、まずは服しっかり着てから対応してくれ。そうは思うものの年長者だし、先にやらかしたのはこちらのほう(ってか、アキラくんだけだけど)。クッと苦虫を潰した感覚で、一瞬だけ顔を上げる覚悟を決める。
上げて、下ろす!! 視界がぶれて何も見えなかった。
-----Good job!! 僕。
「あらーーーー!! かわいい子!!」
「もう〜恥ずかしがり屋さんなんだからぁ」
-----ひぃいいいいいいいいいい!!
声色が怖い。正直に話そう。キレた詩織なんかより数百倍怖い。あれだ、もうこれは関わらない方がいい。アキラくんには悪いけど、僕はもう退散だ。僕まで掴まる義理はない。彼が勝手に妄想して走り出して覗きを働こうとしたからこうなったんだ。天罰だ。
彼がどうなったって知るものかと、片方のつま先を90度にセットする。
顔は下を向けたまま、腕だけ突き出してアキラくんの着替えを差し出す。
「あ、あの…いると思うのでこれを!!」
腕が軽くなるのを確認するや否や、ターンして地面を蹴った。
「待ちなさい!!」
物凄い力で腕が掴まれた。
引かれる体に声にならない悲鳴が上がる。
「せっかく来たんだから、ゆっくりしていきなさいよ」
「け、けけ、結構です!!」
「そうだ! あの怯えている子を入れて4人で仲良く晩ご飯を食べましょう」
「キャーいいわね!!」
4人で? 晩ご飯? 仲良く? キャー?
------よ、よよ、よよくないよ!!
温泉に入っていたのにすでに青くなってきた指先達。もう、ぶっ倒れそうです。いや、むしろ倒れさせてくれ。
しかし無情にも天使達は何も知らず無邪気で…遠くから声が聞こえる。
「アキラー。先出てるね〜」
「ユーヤも、早くね!!」
悪魔は…
「「さあ、一緒にご飯食べましょうね〜!」」
物凄い勢いでタックルと言う名の抱きつき攻撃をかましてきた。
よろめく体に…
包まれるは天使の笑顔ではなく、オッパイと言う名の脂肪。
…折れる心。
ポキン。
「妄想世界にもう一度行きてええええ」
「現実世界なんて大っ嫌いだ!!」
キレlife、終了でございます!!
ということで、作者の河合いおです。
いや〜ようやく終了いたしました番外編「キレlife」。
と言っても、最終終了ではありません。
なぜか?
それはですね、2週間後に裏話をするからです!!
大変恐縮なのですが、私たちの「キレlife」の裏話まで見て頂ければと思います。
正確な日時は決まり次第、活動報告の方で連絡させて頂きます。
とにかく、キレlifeを呼んで頂き、本当にありがとうございました。
カナダくんもありがとうございました。
では、また2週間後によろしくお願いいたします><