キレlife のうみつ共同作業(ユーヤ編) #6
倒れた格好のまま消えていく彼女の姿を見ていたら、混乱した思考回路が戻ってきた。
-----本人じゃなかったのに…。
一人で赤面し、一人で馬鹿だなと反省し、一人で自己完結した。するとさらに僕の頭は正常に戻ってきて、自分は今アキラくんとクエストの真っ最中だったコトを思い出した。画面を見ればフィールドの端っこで火炎弾を吐き出し続けているレオリウス。
------組んで二人で来てるんだし、一人じゃ厳しい!!
すぐさまアイテムを選択する。その名も“戻り玉”。これは、エリアのどこに行っていてもこのアイテムを使うとプレイヤーの安息の地であるキャンプのある場所に戻る事が出来るモノだ。そこには今、消えてしまったアキラくんが復活する地でもある。うん、キャンプに戻って彼と合流するんだ。
ポンと地面に“戻り玉”を投げつけると、コケ色の粉のようなモヤに包まれる。
よし、と思ったその時だった。フィールド上にいた蜂型モンスター(フィールドにはボス以外にもモンスターがいます)が、
「あ!!」
針で突き刺してきた。緑色のモヤから弾き出され、キャンプに戻る事に失敗してしまった。すぐさま虫モンスターをやつっけてもう1度トライしようとした時だった、チャットが入ってきた。
<詩織って誰、変態>
しまったと、すぐさまいい訳をしようとキーボードに腕を伸ばすと、それ以上の物凄いスピードで文字が送られてきた。
<好きな子でしょ?>
<そうなんでしょ>
<ねぇねぇ>
<照れずにさ〜〜>
一気に顔が熱くなってきた。別にそういう風に詩織のコト見ている訳じゃないけれど、彼女の事嫌いじゃないし、むしろ好きな方だし、そんなこと言われると恋愛経験の少ない僕は小学生さえビックリな照れがでてきてしまう。ってか、出た。そしてパニックだ、パニックに陥った。もうどうしていいか分からない。
なのにナナさんは、追い討ちをかけてくる。
<もし死んだりしたら、関係聞くよ? 彼女との関係をね…ゆっくりとね>
「な、何もないよ!!」
一人でそう叫びつつも、さらに顔が熱くなってきた。多分もう耳まで赤いと思う。
と、ゲームの中で僕が吹っ飛ばされた。画面に映る銀の鱗と減り続ける体力。そしてナナさんの送りつけてきた文字…死んだりしたら関係聞く…。
------し、死んだらダメだ!! 僕が死ぬ!!
打ちかけの文字には目もくれず、コントローラーを握った。すぐさま走ってその場を離れ、回復を行う。
もうサポートは止めだ、最初から一人で来たつもりで行く…スッと息を吸い込んで画面を睨む。
視点移動をし、レオリウスを正面に見据えた。
銀色の巨体がこちらに突進を始めた。
<そのしおりーーーーーの名字はなーに? お姉さんがゆっくりと聞いてあげる>
-----絶対聞かせない!!
強く地面を蹴り付け、モンスターに向かって走り出す。ジャンプして斬り、さらに縦横に腕を動かしていく。回転を始め、大きなシッポが横殴りに繰り出される。前転し回避を2回、懐に飛び込んで2度攻撃を浴びせてBボタンでまた前転する。腹の下を抜けた所で走り出す。後ろで吼える声が聞こえてたと同時にクイックターン、また敵に向かってダッシュをする。飛び上がって頭を狙い、着地するなり連続で回転斬り…翼が広がり始めた。
<持ちこたえろヘタレ〜>
入ってくるチャットを無視して動き続ける。
武器をしまうと同時にドラゴンが空高く舞い上がった。見上げる事はせず、逆に視点を下げて地面を見る。実はコイツ、空中に行った時は陰の下が安全地帯。陰に合わせて動いて降りてくるのを待つ。と、急に追いつけない素早さで陰が走った。
------来る!!
左斜め前方に銀の翼を確認、方向転換。右側へ大きくカーブを描いて駆ける。
1発目の火炎弾砲撃の時に目標の位置に到達、2,3発目が放たれる時には全く彼を無視して“落とし穴”を作る。コンピュータがプログラムした通りに動く様を見つつ、まるで囮のように走ればうまく罠に落ちてくれた。これで一定時間、攻撃を受ける事なく一方的に仕掛ける事が出来る。おかまいなしにドンドン切り込んでいく。回転して斬って、裂いてはを繰り返す。何度目かの斬り技を放ったときだった。画面に『武器の威力が落ちてきた』と表示された。刹那、起き上がるレオリウス。
小さく舌打ちしながら頭部分に走り、盾を使って打撃を加えていく。何度か頭をガンガン叩くとドラゴンの頭の周りを星が回り始めた。すかさず距離とって敵がクラクラしている間に武器の威力を上げる。スピーカーから最大の切れ味になった音を聞きけば、向こう側で星が消えたのが見て取れた。
<死んでねえか、ヘタレ>
もう1度アイテムを展開、“閃光弾”を放ち、目くらましをして懐に飛びこむ。
2度ヒットさせると、相手がバックに飛びこちらに向かってまた火を吐き出してきた。画面が炎に包まれ前が見えない、だから目線をHPに向け、まだ回復をするのは早いと判断する。
そしていつの間にか飛び上がっていたその陰を追う。下に立った所で今度は“痺れ罠”を仕掛ければ…数秒後、そのまま陰の主が落ちてきた。Bボタンで回避してターン、パチパチという音と銀色の体の周りを金色の痺れ表現が現れているのを眺めながら脚部分を何度も何度も狙う。すると…頭がこっちを向き始めた。
<いい加減に死ね!! 童貞!!!! そして答えろ!!>
ダッシュしながらBボタン、無敵回避をうまく利用しシッポ攻撃の1度目をよける。しかし、2回転目が僕を襲う。仕方なく防御すれば、3回転目…4回転目を加えられる。
<早く楽になれ、そして答えろ!! バカ!!>
-----もう体力が持たない。
チラリと奥を見ればそこはエリアチェンジの道。隙をついて一旦戦線離脱。敢えて違うエリアに逃げ込んでモンスターが追って来れないようにした後、回復を2度行う。ほぼ満タン状態でまた元の場所に戻れば今会ったばかりなのにもう僕の事を忘れてのんきに背中を向けている姿…。
砂埃を巻き上げ、距離を詰め、シッポに回転切りを2回繰り出す。
すると僕に気がついたレオリウスが振り向いた。瞬間、Bボタンで回避すれば、僕がいた所でカチンと牙が鳴った。横に立った状態で回転しながら切り、正面に向かい合い、今度は頭に向かって剣を何度も振り上げる。
ふいに目に驚くべき言葉が入ってきた。
<死なねぇとはな。頑張った方だぜ、童貞。もうすぐそっちに着くぜ>
-----褒めるか、けなすかどっちかにしてよ。
思うと同時にアキラくんが帰ってくると言う安心感が出てきた。そのせいか僕の攻撃が止み、今度はその隙をついて討伐対象がいきなり突進の体勢をとってこちらとは反対方向へ駆け出した。すぐに、心を元に戻す。
<戻ってきたぞ!! どーーーてい>
-----お帰り。
心の中で挨拶だけ済まして、レオリウスに向かって走り込んでいく。振り向く頭を狙ってジャンプ。肉のキレる音がした。
<どーていーー!! 落とし穴はこっちよ>
すぐさま武器をしまい振り返れば黒髪の少女が立っていた。急いで罠に向かって走り出すと…大きな音を立てながら僕にモンスターがついてきた。そのまま落とし穴を通り過ぎ、元着た場所を振り返る。レオリウスが土に半分以上体を入れてもがいているのが見て取れた。
ダッシュボタンを押して攻撃のXボタンを押した時だった、そこにアキラくんがいて…僕がジャンプをした瞬間大きな樽が現れた。
------しまった!! 爆弾仕掛け…
やばいと思った時にはもう遅い。一度入力したアクションボタンは取り消し不可能で、剣が爆弾を貫いた。
オレンジ色の炎が舞い上がり、吹っ飛ぶ。視界の端には同じくして宙を舞う少女の姿。そして減り始めた二人のHP。
<何やってんの!!! この糞頭が>
-----おっしゃる通りです。
申し訳ないと心の中で唱える。しかし、チャットを返すほどの余裕はない。せっかくアキラくんが仕掛けた“落とし穴”がまだ効力を発揮しているのだ。今攻撃しなくていつする!? ここぞとばかりに回転切りを繰り返す。隣でも彼が連続コンボを繰り出している。
と…一定時間経ったのだろう。ドラゴンが起き上がった。地面に着地すると同時に脚を引きずりながらも物凄い勢いで走っていく。
追いかけるがシッポに1発当てるだけで討伐対象物はエリアから逃げていった。