キレlife のうみつ共同作業(ユーヤ編) #5
はーと大きくため息を吐く。普通はさ、ここはモンスターがいなくなったという場面だから安堵と言うか達成感と言うか、なんかそんな息を吐く所なんだけど…今日の場合は違う。そう、今オンラインゲームでパートナーを組んでいるアキラくんの同棲相手に文句を言われるだろうとこれからの境遇を嘆いての嘆息だ。
予想通り、ナナさんからチャットが入ってくる。
<どうだ、モヤシ! これがアキラと童貞の力の差よ!>
<申し訳ないです>
<まぁ、これ以上痛い目にあいたくないんだったら素直にヘタレ戦法でもやっておきなさい>
<…そうさせて頂きます>
<そうね…石を投げまくるとか>
<石vv>
------石だって立派なアイテムで一応有限なんだけど…
実はこのゲーム、意外に“石”が使えるアイテムだったりする。他のアイテムと合わせて違うアイテムを作ったり、爆弾にぶつけて起爆させる事だって出来る。
まぁでもそれって投げる以外にはほとんど…
<うん、つまり貴方の価値は石以下よ>
<石よりは…価値上がるように頑張ります>
------価値ないけどね。
本日何度目かのため息を出しつつ、返信した。
<頑張りますって…やいモヤシ! さっきから誰が活躍してる?>
<アキラくんですね>
<じゃあさっきから誰が足を引っ張ってる?>
これは、何を言ってもイチャモンを付けられるフラグだ…。でも答えない訳にもいかず、無難な所を選択してみる。
<…僕ですかね>
<僕ですかね、じゃないわよ。あきらかに貴方でしょ。というか“僕”って何よ…童貞だよ童貞…>
<すみません。“僕”は癖で…>
-----やっぱり。
非を認めても認めなくても、関係ない所で攻めてきた。僕ってそんなに悪い事した? もししたならいつどこで? って聞いても理由なんて返って来ないのは分かってる。もうコレってアレだよ、クラスのいじめっ子、町中のチンピラ。目が合ったから、なんとなく、のび太郎のくせに生意気なってやつだ。
-----いや、僕がアキラくんのことクエストに誘っちゃったからかな?
それこそなんとなく、そう思った。だってアキラくんと話している時割り込んできたし、僕と初めてチャットした時<アキラってさ、ずーとネトゲーでつまらなかったから、ネットチャット楽しい>って言ってたし、その後も妙に突っかかってきては僕と彼を比べては自己満足して、僕を傷つけるような事言っては何かしらこのゲームの中に入って来ようとする。多分彼女は寂しいんだと思う。
眉がハの字に自然となった。
同情ではないけれど、なんとなく彼女に悪い事をしてしまったなと思った。
<だったら「全てこの童貞の責任です」と言いなさい>
<ちょvv>
思わなきゃ良かった。
この子は一体どこまで僕を貶めれば気が済むのか。一瞬でも、気持ちが分かってあげられなくて悪かったななんて思って損した。これは、さすがに酷い。でもやっぱり、一度湧いてしまったその心は消えないようで彼女への対応をさらに柔和にさせた。
<言いなさい! 「童貞の責任です」と>
<ど…せめてそこは「僕の…」にしてもらえませんか?>
「…あれ?」
キーボードから手を離した。またアキラくんのキャラも動かずチャットも返って来ない。これはアキラくんが何かしら言ってるのかも知れない。うん、そんな気がする。僕でも注意するもの、女の子があんな事言ったら…。
------二度と女の子が言っちゃいけないセリフ言わないようにして、アキラくん。
ポケッと待つのも時間が勿体無いため、レンジで水を温めティーパックを沈めた。見る見るうちにパックから濃い赤の色が染み出して透明なそれを染めていく。
飲める程の濃さになる頃ようやくアキラくんが戻ってきた。
<すまんな>
<いえ、大丈夫ですよ>
<そろそろ近づいてきたぞ。準備は良いか?>
紅茶パックを小さなお皿に移してから返信する。
<はい、お願いします>
エリアチェンジをすると、少しと奥の方に歩いている標的を発見した。まだこちらには気がついていない様子だ。
<居るな>
<いますね。アキラくん先に…>
打っている途中で対象人物が躍動した。そして僕を置いてレオリウスに走っていく。
-----たまに凄く行動早いなぁ。
感心しながらコントローラーを握れば、天敵からチャットが届く。
<なーに、アキラとモヤシを同類と勘違いしてる、この童貞>
毒舌は直っているなんて夢にも思ってはいなかったけど、肝心の直してほしかった童貞発言がまた女の子の口から繰り返されるなんて…彼は一体何を注意していたんだろう? そしてなんでここまで言われなといけないのだろう? さらに、すでに自分が普通なら怒るであろうことを言われているくせにそんな所が心配になってる…なんか、色んな意味でへこんだ。
しかし、すぐさま頭を切り替えて僕も標的に向かって走り出す。チラリと画面の端を見れば、
-----アキラくんのHPがまたかなり減ってる、僕も…
アイテムを取り出しまたもや粉塵回復を行う。すでに頭を狙って切り上げているアキラくんの横を駆け抜け、また先程と同じように左足を狙い続ける。と、先に同じ側の脚にダメージを与え続けたおかげだろうか、ようやく僕の行為が功を制した。YES!! モンスターが横に倒れたのだ。これは立ち上がりまでの結構な猶予がある。その間に出来るだけダメージを与えるがセオリーってやつ。僕はひたすら連続攻撃、アキラくんは大剣で貯め切り(ダメージが大きい)を、何度も繰り返していく。
<もっとレイプしろ>
------んぇええええええええええええええええええええええ!?
危うく、コントローラーを落とす所だった。ええ、衝撃が僕の中を駆け巡ったよ。そうでしょ? 今キャラは動き続けてて…ってことはアキラくんが操作してるってことで…ってことはキーボードを打ってるのはナナさんってことで…
------お、女の子の言う言葉じゃないよ!!
正直ナナさんが恐ろしい…。そりゃ童貞なんて言葉くらい使っちゃうよなと、妙に納得させられたトコロも恐ろしい…。Xを連打しながら恐怖を覚えた。
次の瞬間、
「あ!!」
僕のキャラクターの体が浮かび上がり吹っ飛ばされた、モンスターはまだ立ち上がっていないのに。そう、アキラくんのモンスターへの攻撃がこちらに当たってしまったのだ。
<ユーヤ、ざまーー>
僕が地面に落ちると同時にレオリウスが勢い良く立ち上がり、大きく吼えた。その効果により地面と空気が揺れ、視界の端にいる黒髪の女の子の体が硬直した。その隙をつき、レウスが頭を低くする。
-----ヤバい!!
アイテムボタンを押す時には銀のそれはすでに地面を強く蹴っていて…画面がアイテム欄を受け入れる頃には彼女は大きく弧を描き空を舞っていた。地面に叩き付けられ、息を飲むとすぐに彼女が立ち上がった。何の偶然か、防具のおかげか、運か…そんなことはどうでも良い、安堵のため息を吐こうとした瞬間だった、銀色のドラゴンが体を回転させ始めた。
<早く回復させろ!!>
------ヤバい、間に合え!!
用意してあった回復薬を選択した。
だけどそれは本当に一瞬の出来事で…彼女は膝から崩れ落ち、長い髪を靡かせながらグッタリと地面に顔を埋めた。その様に僕は区別がつかず、キーボードを叩いてしまっていた。
カップの中の紅茶が輪を描いた。
<しおりーーーーーーーーーーーーー>